第161話 意見する資格
ささやかながら俺たちは聖王国で歓待を受けていた。
しかしながら、黒竜に破壊され尽くしたのだ。宴会とは言っても、本当に侘しいものであって、少しの酒と食事が用意されただけである。
もう日が暮れて随分と経つ。
まともな建物が多くない現状において、俺たちは宿泊するべきじゃない。僧兵たちには一泊するようにと勧められたけれど、丁重に断りを入れている。
俺たちは再び神殿に来ていた。
「レイス、あたしは聖女として戦う。必ず仇を討つからね……」
光の勇者と共にレイスの亡骸は神殿へと埋葬された。よって、ここがレイスの墓標。勇者に相応しい荘厳な墓で彼は眠ることに。
「勇者レイス、俺は世界を救う約束なんかできない。だけど、お前の意志は受け取った。懸命に努力するよ」
グレイス侯爵から聞かされた話によって、俺は正直に良いイメージを持っていなかった。
けれど、魂の叫びを俺は聞いたんだ。
『逃げようとするな――』
それはとても重要なことだ。
世界を救う使命なんて気が遠くなりそうだけど、俺は全てを受け止めていく。そうすることで、俺は彼が願った本当の勇者になれる気がした。
「エマ、行こうか……」
俺の声にエマは頷いている。
放っておけばいつまでも祈りを捧げていそうだった。文字通り、ここは彼女にとって聖地となったのだから。
「リオ、絶対に黒竜を倒しましょう」
俺はエマの決意を見ていた。
凛とした表情は揺るぎない意志を感じさせる。恋人を殺した黒竜に立ち向かう覚悟が間違いなくあったんだ。
「俺にできることは全部やる。任せろとは言えないけど、全力を尽くすと約束するよ」
強い女性だと思う。泣き崩れたあと、こんなにも早く動き始めることができるなんて。
レイスへの祈りを終えた俺たちは馬を二頭用意してもらう。これにより帰路は少しばかりスピードアップが図れるだろう。大幅に遅れた旅程を短縮できるはずだ。
「でもさ、一泊くらいしても良かったんじゃない? 同じ部屋で良いことできたのに?」
「お前なぁ、よくもまあ彼氏の墓前でそんなこと口にできるな?」
何てかエマは相変わらずだ。
戸惑う俺の気を紛らわすための冗談だと思うけれど、流石に笑えるものじゃない。
「良いのよ。レイスはあたしが身体を売っていたって知っているし。スラムでは当たり前の生き方よ。これでも高く売れたんだから」
「そりゃあ、分かるけど……」
ハッキリ言ってエマは美人だ。
きっとスラムのそういった通りでも人気を博していたことだろう。より多く支払った者が彼女と過ごせたはずだ。
「それでも俺は娼婦をして欲しくない。レイスもそう願っていると思う」
「レイスの名前を出すのはズルいわ。でもまあ、考えてあげないこともない」
いやいや、俺はエマのために言っているんだぞ?
考えてもらうような立場じゃねぇっての。
ところが、エマは俺の予想とは異なる話を続けている。
「お嫁さんにもらってくれたら、考えてあげるわ」
息を呑む発言だった。
それ、冗談だよな? 真に受けてはいけない話だよな?
「馬鹿言うなよ……」
俺は簡単な嘘すら付けなかった。
エマの気休めになるのなら、俺は笑って承諾するべきだったんだ。だけど、真面目に捉えてしまった俺は断るような台詞を口にしている。
「でしょ? だからリオがとやかくいう問題じゃないの」
どこまでいってもエマは他人だ。たとえ身体を合わせたとして、そこに愛はない。情欲に溺れるだけであり、互いに愛を受け取ることはないのだ。
「あたしはあたしだけの信念で動くだけよ」
俺は返事をせず、馬に鞭を入れる。
俺には資格がなかったんだ。
覚悟を決めた女性に意見する資格なんて。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




