表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/232

第161話 意見する資格

 ささやかながら俺たちは聖王国で歓待を受けていた。


 しかしながら、黒竜に破壊され尽くしたのだ。宴会とは言っても、本当に侘しいものであって、少しの酒と食事が用意されただけである。


 もう日が暮れて随分と経つ。

 まともな建物が多くない現状において、俺たちは宿泊するべきじゃない。僧兵たちには一泊するようにと勧められたけれど、丁重に断りを入れている。


 俺たちは再び神殿に来ていた。


「レイス、あたしは聖女として戦う。必ず仇を討つからね……」


 光の勇者と共にレイスの亡骸は神殿へと埋葬された。よって、ここがレイスの墓標。勇者に相応しい荘厳な墓で彼は眠ることに。


「勇者レイス、俺は世界を救う約束なんかできない。だけど、お前の意志は受け取った。懸命に努力するよ」


 グレイス侯爵から聞かされた話によって、俺は正直に良いイメージを持っていなかった。

 けれど、魂の叫びを俺は聞いたんだ。


『逃げようとするな――』


 それはとても重要なことだ。

 世界を救う使命なんて気が遠くなりそうだけど、俺は全てを受け止めていく。そうすることで、俺は彼が願った本当の勇者になれる気がした。


「エマ、行こうか……」


 俺の声にエマは頷いている。

 放っておけばいつまでも祈りを捧げていそうだった。文字通り、ここは彼女にとって聖地となったのだから。


「リオ、絶対に黒竜を倒しましょう」


 俺はエマの決意を見ていた。


 凛とした表情は揺るぎない意志を感じさせる。恋人を殺した黒竜に立ち向かう覚悟が間違いなくあったんだ。


「俺にできることは全部やる。任せろとは言えないけど、全力を尽くすと約束するよ」


 強い女性だと思う。泣き崩れたあと、こんなにも早く動き始めることができるなんて。


 レイスへの祈りを終えた俺たちは馬を二頭用意してもらう。これにより帰路は少しばかりスピードアップが図れるだろう。大幅に遅れた旅程を短縮できるはずだ。


「でもさ、一泊くらいしても良かったんじゃない? 同じ部屋で良いことできたのに?」


「お前なぁ、よくもまあ彼氏の墓前でそんなこと口にできるな?」


 何てかエマは相変わらずだ。

 戸惑う俺の気を紛らわすための冗談だと思うけれど、流石に笑えるものじゃない。


「良いのよ。レイスはあたしが身体を売っていたって知っているし。スラムでは当たり前の生き方よ。これでも高く売れたんだから」


「そりゃあ、分かるけど……」


 ハッキリ言ってエマは美人だ。

 きっとスラムのそういった通りでも人気を博していたことだろう。より多く支払った者が彼女と過ごせたはずだ。


「それでも俺は娼婦をして欲しくない。レイスもそう願っていると思う」


「レイスの名前を出すのはズルいわ。でもまあ、考えてあげないこともない」


 いやいや、俺はエマのために言っているんだぞ?

 考えてもらうような立場じゃねぇっての。


 ところが、エマは俺の予想とは異なる話を続けている。


「お嫁さんにもらってくれたら、考えてあげるわ」


 息を呑む発言だった。

 それ、冗談だよな? 真に受けてはいけない話だよな?


「馬鹿言うなよ……」


 俺は簡単な嘘すら付けなかった。


 エマの気休めになるのなら、俺は笑って承諾するべきだったんだ。だけど、真面目に捉えてしまった俺は断るような台詞を口にしている。


「でしょ? だからリオがとやかくいう問題じゃないの」


 どこまでいってもエマは他人だ。たとえ身体を合わせたとして、そこに愛はない。情欲に溺れるだけであり、互いに愛を受け取ることはないのだ。


「あたしはあたしだけの信念で動くだけよ」


 俺は返事をせず、馬に鞭を入れる。

 俺には資格がなかったんだ。


 覚悟を決めた女性に意見する資格なんて。


本作はネット小説大賞に応募中です!

気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!

どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ