第160話 小さな決意を
「俺が……勇者?」
愕然とするしかない。何も考えられなかった。
だがしかし、次の瞬間には大歓声が木霊していたんだ。
『勇者様、世界をお救いください!』
『勇者様、バンザイ!』
『アヴァロニア世界は不滅です!』
僧兵たちは口々に歓喜の声を上げている。
ちょっと待ってくれ。
俺はパラディンでしかない。勇者だと囃し立てられたとして、俺はその根拠を少しも提示できないというのに。
「いや、俺はただのリオです!」
懸命に声を張る。だが、誰も聞いちゃいない。新しい勇者の誕生を祝福するだけであった。
「勇者リオ様、どうか皆に声をかけてやってくださいまし」
俺に声をかけたのは僧兵長。彼はグリムだと名乗ってから、俺に跪く。
「ちょっと、やめてください! 俺はまだパラディンなのですよ!?」
「神託の通りです。我らは女神エルシリア様を崇拝しております。顕現されてまで指示されたことを疑う者などおりませんよ」
それはそうだろうけど、勇者になってからにしてくれって。
事前に大騒ぎされてしまっては、プレッシャーが半端ないっての。
「かつてこの地に存在した光の勇者イヴァニス様も勇者になる前は僧侶だったと伝わっております」
「マジで!? パラディンから昇格したんだろ!?」
「仰る通り。しかし、洗礼の儀で授かったジョブは僧侶であり、僧兵であられたのだとか。徐々に力を付け、パラディンとなられ、果てには光の勇者様に……」
聞く限り、俺と同じであった。
間違いなく俺は僧侶だったんだ。武器を手に戦っていた俺はパラディンに昇格している。
この後も同じ道を歩むというのなら、俺は本当に勇者となるのかもしれない。
「リオ、あたしを連れて行って。きっと役に立つ。レイスの弔いがしたいの」
俺よりも早く、エマは決意を固めていた。
黒竜に復讐するなんて普通なら考えない。災厄と呼ばれる魔物を相手にしなきゃならないってのに。
「リオ、レイスが貴方を認めたなら、あたしは貴方について行くしかないの。お願いだから、置いていかないで」
エマの無念はよく理解できた。
問題は根性なしである俺の気持ちだけ。勇者として立ち上がる決断ができたのなら、直ぐさま彼女の手を取れただろうに。
「エマ、俺は……」
「あたしは死んだって構わないの。貴方より必ず先に逝く。どんなときも貴方を守ると誓う。その代わり、絶対に黒竜に勝って欲しい」
どれだけ話が進んでいくんだ?
俺はまだ何も決めていないってのに、周囲は俺が黒竜を討つものと考えていた。
長い息を吐く。
俺はどうしても戦わなきゃならないのか?
エレナと婚約をして幸せな人生を送りたいだけだってのに。まったく俺の幸運はどこに行ってしまったんだよ?
「どこまでできるのか分からない。まあでも、やってみるよ。エルシリア様に俺が選ばれたのであれば……」
再び大歓声が木霊していた。
ま、もう逃げられないよな。
俺が何者であることよりも、彼らはエルシリア様を信奉しているのだから。
だとすれば、俺は前向きに捉えていこう。もし仮に勇者だとして、その使命を全うできるように。
今まで同様に研鑽を積んでいくだけなんだ。
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