第158話 いや、待ってくれ
「エルシリア様が顕現なされる……」
神殿の中央。そこに光の粒が集まっていく。
マジかよ? 女神様って本当にいるのか? この世界に顕現できるのかよ?
困惑する俺を余所に、女神エルシリアは徐々にその輪郭を露わにしていった。
想像よりも大きい。周囲に知らしめるためなのか、聖堂にある女神像よりも遙かに大きかった。
「ようこそ、約束の地へ……」
顕現したそれは言葉を発した。
俺は呆然と頭を振るだけだ。心の準備ができていない。いきなり女神様と邂逅するなんてさ。
「まずは勇者レイスの御霊を……」
何だかよく分からない話。だけど、推し量ってもいた。
女神エルシリアはこれより約束を果たされるのだと。
刹那に棺が輝きを帯び、現れた純白の光はスッと宙を舞って、女神エルシリア様の手の平へと乗るようにした。
『エマ、無事で良かった……』
光の玉はそういった。形作ることなどなかったけれど、確かにそう聞こえていたんだ。
「レイス!? 貴方はレイスなの!?」
『残念ながらな。だけど、エルシリアは俺の願いを叶えてくれた。こういった形にはなったけれど、天へと還る前に話をさせてくれたんだ』
愕然とするエマ。心のどこかでまだ彼が生きていると信じていたのかもしれない。本人から告げられる話は彼女の望みを絶つものであった。
「そんなの嫌よ! 女神なら生き返してくれたらいい!」
『エマ、無茶を言うな。俺は割と格好いい最後だったんだぞ? 今さら生き返るとか格好悪いだろ? 俺は初めて勇者としての使命を遂げたんだ……』
レイスは語っていく。自身の最後がどれほど苛烈であったのかを。
『黒竜は凄まじいの一言。何しろ俺が一撃で死ぬほどの強大な攻撃を繰り出す。しかし、ただやられただけじゃない。黒竜の左目に俺は愛剣を突き刺してやったんだ』
「倒したの……?」
『馬鹿言うな。俺の剣は届かないとエルシリアに聞いていた。だけど、俺はやったんだ。何の意味もなかった勇者のジョブを最後の最後で輝かせた』
レイスは自慢げに語っている。成し遂げた偉業の全てを。
『俺の一撃によって、聖都は守られたんだ』
エルシリアもまた頷いていた。
彼が話すことは真実であり、否定する隙のない事実であることを。
『黒竜は南へと逃げていった。ダメージは与えたけれど、再び世界を破壊しようとするだろう。俺はもういない。俺には何もできない。天から見守ることしか』
「嫌っ! レイスがいない世界なんて嫌よ!」
エマは駄々をこねるように言うのだが、光の玉であるレイスは何も答えない。
『新しい勇者、君が倒せ。黒竜を倒すことは君の使命だ』
新しい勇者って誰だ?
困惑する俺にレイスは告げるのだった。
『勇者リオ、次は君の出番だ――』
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