第154話 記憶と違うな?
逃亡を始めてから一週間が経過していた。
しかし、今も俺たちは酔い潰れるまで呑むという目標を成し遂げていない。なぜなら、ゴズン王国の街はいずれも壊滅していたのだ。
「まぁた携帯食料を食うしかねぇな……」
「酷い有り様ね。スタンピードが直撃した街は何も残っていないわ」
ぶっちゃけ、あの数の魔物が押し寄せたのなら、たとえ王城だろうと一瞬のうちに倒壊してしまうはず。俺は直にそれを体験したのだし。
「壊滅している割に帝国兵もいないとかどうなっているのかしら?」
「んん? どうして帝国が関係してくる?」
おかしなことを言うエマに俺は問いを投げかけている。
「いや、十万という兵を出していたの。黒竜退治という名目で各国に入り込むのよ。壊滅していたら、占領するって計画だったのだけど」
十万とかどれだけ徴兵したんだろうな?
とはいえ、エマの話と現状は一致しない。今のところ、帝国兵の姿は一人ですら見ていないのだ。
「あのスタンピードがこれほどまでに被害を出すなんて信じられないわ」
「あん? スタンピードは十万から魔物が押し寄せていただろう?」
「んん? スタンピードは千頭くらいだったわ」
俺の疑問にエマが返す。
何だそれは?
俺とガラムが魔力ポーションを使い尽くしても殲滅できなかったんだぞ? 少なく見積もっても十万はいたってのに。
「場合によっては十五万くらいの可能性があるぞ? 帝国にもスタンピードが来たのか?」
「あたしとレイスはスタンピードを食い止める命令を受けていたからね。だけど、千くらいだった。レイスが呆れるくらいに少なかったのよ」
「マジで? 俺は死にそうになったんだぞ? 最後は取り囲まれて大変だった。ヒートストームを唱えなかったら死んでたな」
思い返してみるだけで寒気がする。
どこまでも続く魔物の群れ。フレイムでは倒しきれなかったことだろう。あと七回しかフレイムの残数はなかったのだから。
「ヒートストームってフレイムより凄いんだ?」
「半端ねぇぞ? 威力はフレイムの百倍以上ある。しかも土の上でも燃え続けるんだ。消火活動は楽じゃなかったな」
「想像もできないわね? フレイムだって、あたしが見てきたどんな魔法よりも威力があった。レイスの魔法よりもずっと……」
「勇者って魔法も使うんだ?」
「専用魔法みたい。聞き慣れない魔法ばかり覚えてたわ」
ゴリゴリの武闘派なイメージだったけど、勇者は剣と魔法で戦うようだ。
「勇者か……」
エレナが求める英雄。漠然としたそれは正直によく分からない。だけど、勇者であれば相応しいような気がするんだ。
「勇者になりたいの? 願ったとしてなれるのもじゃないし、やめときなって。良いように使われるだけよ?」
エマはこれまでレイスの姿を見てきたのだろう。だから、彼女はお勧めしないといった風に語る。
「夢見るくらい構わないだろ?」
「見るのは、あたしの下着姿くらいにしときなさい。悪いことは言わないから」
「べべべ、別に下着姿が見たいんじゃねぇよ!」
誰もいない荒野に二人。俺たちの笑い声が木霊していた。
何だか仲間って感じがする。俺たちは冗談を言い合えるようになっていた。
もう最終目的地であるプロメスタ聖王国は直ぐそこだ。
俺は笑顔を浮かべたまま、馬を走らせるのだった。
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