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第015話 転機

 武具工房スミスにて一夜を過ごした俺は、ドルース師匠の指示を受けながら鍛冶に精を出していた。


 とはいえ、俺はまだ鉄を打つだけ。成形など細かなことは任されていない。


「うおおおっ!!」


 何かに打ち込むこと。本当に素晴らしい。生きるってことの価値は頑張ることにあるのだと俺は知ることになっていた。


 必死で打ち込みを続け、もう直ぐ昼だという頃、


『スキル【打撃得意】は【打撃職人】に昇格しました』


 脳裏に女神の声が届いた。


 マジ? スキルって習得するだけじゃなく、昇格したりすんの?


 戸惑いながらも大槌を振ると、明らかにこれまでとは異なった音が工房に響き渡る。


「こ、これは……?」


 ドルース師匠も目を丸くしていた。


 いや、俺だって困惑してるんだけど?

 いきなりスキルが昇格して軽々と大槌が振れるようになっただなんて。


「リオ、手を止めろ。お前、何か掴んだな?」


 やはりプロの目は誤魔化せない。急に上手くなったこと。ドルース師匠には気付かれていた。


「いや、無我夢中で槌を振っていたら、打撃得意ってスキルが打撃職人に昇格したんです」


「む? スキルの昇格だと?」


 聞けばスキルの昇格は非常に珍しいものであるらしい。


 人生の全てを賭けて努力し続けても、昇格を成し得るのはごく一部だという。


「やはり、リオには才能があったようだ。しかし、ジョブが惜しまれるな。せめて力を得られるジョブであれば、随分と楽になったというのに」


「でも、凄く打ち込みしやすくなりました!」


「続きはまたにしよう。昼からは焔の祠に行ってこい」


 調子が出てきたというのに、師匠は水を差すような話をする。俺は今、猛烈に鉄を打ちたいと考えていたのだが。


「焔の祠ですか?」


「火属性の魔物がはびこるダンジョンだが、火の精霊様が祀られているのだ。祭壇に祈りを捧げると、火属性魔法を得られる可能性がある」


 それは昨日も聞いた話だ。

 火属性魔法の有無は鍛冶に必須とのことで、師匠は焔の祠へ行くことを勧めているのだろう。


「可能性ですか?」


「絶対ではない。やはり向き不向きがあるようだ。精霊に気に入られたのであれば、火属性魔法を授かるし、そうでなければ素質がなかったと諦めるしかない」


 なるほどな。誰でも授かるって話じゃないみたいだ。


 まあしかし、鍛冶職人を続ける上で必要であり、分岐点となるのなら俺は赴くべきだろうな。


「分かりました。師匠もいることだし、頑張ります」


「ああ、ワシは同行できん。力を授かるには一人で挑む必要がある。それが炎の試練と呼ばれる由縁。未だかつてパーティーを編成して魔法を授かった例はないのだ」


 むむぅ、一人でダンジョンに挑むってか。


 正直に俺は戦うジョブじゃない。スライムにさえ苦戦し、子リスにしか挑まないレインボーホーンラビットが襲ってくるほどだ。


「俺、めちゃくちゃ弱いんですけど……」


「その大槌を武器に戦えば良い。間違いなく祭壇まで辿り着ける。ワシにはリオが自分を弱いと考えている方が信じられん」


 どこまで俺を過大評価するつもりなんだよ。

 冒険者ギルドでは失笑を買うくらいに最弱であったというのに。


「戦えますかね?」


「充分だ。今までリオはどんな武器で戦っていた? 打撃武器を使っていなかったんじゃないか?」


 ああ、それな。

 俺の想い人が少しばかり変な人でね。剣を持って戦う男が素敵だというんだ。


 とはいえ、確かに俺は今まで、まともな武器で戦っていない。エレナから買った剣はいずれも戦う前や初手でぶっ壊れていたのだから。


「そう考えると、今回は戦えるのかな……?」


 昨日、製作した大槌は見栄えこそ悪かったけれど、何度も鉄を打ったとして壊れない。しかも普通に振り切れるんだ。


「リオさん、頑張ってください! 夕食は腕を振るって用意しますから!」


 ルミアも背中を押してくれる。

 鍛冶職人を続けるにしても、冒険者を続けるにしても俺は戦うしかないみたいだ。


 どうせ戦う必要があるのであれば、踏みとどまっているなんて時間の無駄かもしれない。


 ふぅっと長い息を吐いたあと、俺は表情を引き締める。火属性魔法を授かることを疑っていない二人に、俺は決意を述べるだけだ。


「この大槌で暴れ回ってきますよ!」

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