第148話 牢獄をあとにして
地下四階。まだ記憶に新しい通路を俺たち二人は歩いている。
「兵には気付かれなかったみたいね。ま、溶かしただけだし、上階まで響かなかった感じかしら」
衛兵が駆け付ける感じはない。
エマが話すように牢獄は溶けただけ。破壊した物音がなかったのは幸いであった。
「それでリオ、兵を倒すのにも、アタックエイドがいらないっての?」
「今のを見ただろ? あの倍になるなんて、一般人を巻き込んでしまう」
「優しいのね? そんな優しさが欲しかったわ……」
「悲しいこと言うな。勇者レイスは優しくなかったのか?」
聞いた直後に俺は失言だったと気付く。
もう彼女の恋人はいないのだという。なのに、思い出すような話をしてしまったのだ。
「彼だけよ。あたしに優しくしてくれたのは……。あたしは幼い頃から悪いことばかりしてたからね。お金が欲しかった。自由を手に入れたかった。優しさなんてものの優先順位は低かったのよ」
そういうことか。スラムでの生活は本当に厳しいのだろうな。
貧乏貴族でも俺の生い立ちはずっと恵まれている。エマがしてきた苦労の半分にも達していないことだろう。
「悪いことってなに?」
「聞きたい? 抱いてくれたら教えてあげるわ」
「ああいや、いい……」
何となく分かるし。スラムでする悪事など窃盗や売春と相場が決まっているからな。
俺をそちら側に巻き込みたいのか、エマは抱いたあとでなら教えてくれるという。
「本当にガツガツしてないのね? 何だか女として自信喪失になりそ」
「君は綺麗で素敵だと思うよ。傷心を俺で解消しようとしなければだけど……」
「癒してくれてもよくない? あたしは一人で生きるのに疲れてしまった」
まあ、それな。
恋人に依存する理由は俺にも分かる。俺だってエレナが全てなんだ。もしも彼女を失ってしまったのなら、俺は自暴自棄になってしまうだろう。
「悪いけど、本当に俺は意気地なしの童貞なんだよ」
「ふふ、ホントね? 今までに出会ったことのないタイプだわ」
俺たちは笑い合っていた。
エマの性癖にはドン引きなんだが、まあそれでも良い奴だ。
どこまで一緒に居るのかは決めていないけれど、帝国から逃げたいというのであれば、手を貸すことくらいできる。
俺は割とお金を貯めているし、それが彼女の助けになるのなら出し惜しみはしない。
エマがいなければ、俺は今もあの牢獄で食事の配膳を待っていたのだから。
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