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第146話 誰も知らない英雄譚

 瓦礫の山を乗り越え、レイスは地上へと出ていた。


 唖然としてしまう。捕らえられたときと、現状はまるで異なっていたのだ。


「何てことだ……」


 ここで戦争をしていたのは確かだが、現状のホーリブライトは破壊し尽くされている。


 上空には聞いたように巨大な飛竜が舞う。勇者が放つ光を憎むあまり、無差別に破壊を繰り返していた。


「俺はここだ! 勇者はここにいるぞォォ!」


 もう人生に未練はなかった。

 エマが幸せになれるのなら構わない。新しい勇者に取られるのは癪に障るが、元より女神に死を告げられている。


 生け贄となり、世界を救う。光の資質が足りない自分自身は戦ったとして死ぬだけなのだ。


「だけど、俺が生きた痕跡は残させてもらう」


 握る剣に力を込めた。届かないと聞いていたけれど、一矢報いたいと願う。


 上空の黒竜が大きく咆吼している。どうやらレイスの姿に気付いたようだ。大きく旋回しては狙いを定めている。


「防御くらいできるんだろうな?」


 黒竜は大きく口を開いていた。上空からブレスを吐こうとしているのかもしれない。


 勇者には光の盾があったけれど、ブレスを防ぐことができないのならレイスの野望もここまでだ。痕跡を残すことなく天へと還ることになる。


 一瞬のあと、黒竜が黒い霧のようなブレスを吐き出していた。


「セレスティアブレス!!」


 即座にレイスは魔法を発動。セレスティアブレスは基本的に広域回復魔法だが、強い浄化の力を持つ。よって黒い霧にも対処できるだろうと。


「うおおおおっ!!」


 まだ死ねない。エマが新しい勇者と共にいるのなら、必ず黒竜の前に現れるはず。


 だったら、自分はそのとき、存在を主張したかった。


「来やがれ! 穢れた霧なんぞ効かねぇんだよ!!」


 ブレスを無効化された黒竜は再び咆哮を上げる。更にはグルリと旋回し、レイスめがけて急降下を始めた。


「来た……」


 レイスは集中していた。


 山ほどもある巨躯が迫ってきているというのに、心は穏やかなまま。愛剣に光を宿し、切っ先を黒竜へと向けていた。


『レイスの輝きは黒竜に届かない』


 ふと女神エルシリアの話が脳裏をよぎる。自分は生け贄として惨殺されるだけ。そんな話を聞いていた。


「るせぇよ……」


 巨大な口を開いた黒竜が頭から突っ込んでくる。まるでレイスを呑み込むかのような勢いだ。けれど、レイスは落ち着いていた。


 紙一重で噛みつきを躱し、レイスは愛剣を力の限りに突きつけている。


「俺は勇者レイスだぁぁっっ!!」


 力の限りに押し込む。身体から溢れる輝きはまるで太陽のように輝いていた。


 刹那に、手応えを感じる。固いものに阻まれていた愛剣が力を加えた方向へと押し込まれていく。


「やったか!?」


 レイスの愛剣は黒竜の左目を捉えていた。根元までブスリと突き刺さっている。


 喜んだのも束の間、レイスの身体は黒竜の脚に掴まれてしまう。


 黒竜はレイスを捕らえたまま、上空へと舞い上がっていく。勇者だと認識した黒竜はもう彼を離すことなどないはずだ。


「やったぜ……」


 エマに自慢できる。自身は黒竜に一矢報いたのだと。


 きっと彼女は自分の愛剣に気付くはず。自分が付けた傷跡。己が生きた証しに。


「エマ、幸せにな……」


 次の瞬間、レイスの身体は引き千切られていた。

 無残にも左右の脚がその距離を取ったのだ。


 誰も知ることのない英雄譚。黒竜に手傷を負わせた勇者はここで世界から退場していく。


 満足げな笑みを浮かべながら……。


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