第142話 悪くない
「契約の維持には健全な贄を毎日捧げなくてはならない」
生け贄を毎日だって?
悪魔はとんでもない要求をしてくるらしい。
「あたしたちが契約してから既に三年が経過している。どれだけの人が贄になったのか分かるかしら? 奴隷や犯罪者は贄として使えないの。善良な人々を契約は要求しているから」
最悪じゃないか。毎日二人分の善良な贄を用意しなければ契約が維持できないなんて。
勇者と聖女を意のままに操ることは多大な犠牲を必要とするらしい。
「皇帝はもう贄を用意したくないのよ。だからこそ、有効活用する。失敗したとしても利益があるように。成功したのなら、更なる利用をするだけだって」
どっちに転んでも、皇帝陛下には問題がなかったようだ。
勇者と聖女が死んだとして、悪い結末でもなかったらしい。
「あたしに関しては既に契約が破棄されているわ。こんな話ができることこそ、その証明ってわけ。心臓が破裂しないのは既に偵察失敗の事実が伝わっていることを意味する。契約を維持する贄はもう捧げられていないはずよ」
俺に帝国を裏切るような話をしたことも、契約が破棄された証拠ってわけか。
「でも、聖女が敵国に寝返るとか帝国は考えなかったのか?」
「心配ないわ。贄について、あたしたちは知らないことになっていたから。レイスは偶然に契約更新の儀を見てしまったの。それを利用して、そのうちに逃げ出す準備をしていたのだけど」
残念ながら、レイスもまた無理な任務へと宛がわれてしまったという。
もう既に二人が生きていないのだと帝国は考えている。それこそ帝国に忠実な奴隷であるままに、勇敢に散ったことだろうと。
「それは辛いことを聞いたな。悪い……」
「リオって変な人ね? あたしたちはスラムにいたのよ? これくらいで辛いとか言ってたら、命が幾つあっても足りないわ」
エマは強い女性だった。
俺は本当に尊敬していたんだ。そのような強さを持って生きてきたなんてさ。今までの俺にはできっこないものに感じた。
「そういや、洗礼の儀は受けられたのか? あれって少なからず寄付がいるだろう?」
「ああ、洗礼の儀は受けてないわ。あたしたちがジョブについて知ったのは契約の後だもの」
「はぁ? どうして帝国の奴らはジョブが分かったんだ?」
「女神エルシリアのお告げみたいね。ただし、女神が顕現したのはプロメスタ聖王国なの。それで僧兵たちがやって来たらしいのだけど、皇帝は使節団を皆殺しにしたって聞いた」
何てやつなんだ。皇帝ってのは、ここまで悪事しか働いてないじゃんか。
「それで皇帝はあたしたちを捜し出し、先に契約を交わしたのよ。金貨一枚というしけたお金をちらつかせて……」
もう充分だ。
帝国は最低な国だと理解できた。エマが滅ぼしたいと語った理由がよく分かったぜ。
「俺はあまり力になれないかもだけど、協力するぜ。とりま、脱獄して安全圏に逃げられるまでは信用してくれ」
「だから抱いて欲しいのに。きっと気に入るわよ? 最後まであたしに尽くしたいと思うはず」
「それは口にした時点で成立しねぇよ」
俺の個人的な感想だけど、エマは良いやつだと思う。
少しばかり歪んでいるのは、その生い立ちのせいだろう。
現状のエマは何も悪くないはずだ。
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