第140話 聖女の闇
「リオ、貴方はパラディンでしょ?」
どうしてか俺のジョブをエマは知っていた。
やっぱ帝国の間者が王国にはいるのか? 俺はまだ世間に名前が出ていないというのに。
「どうして、そう思う?」
「なぜって、あたしは鑑定眼スキルを持っているから。貴方のジョブは牢獄に放り込まれた瞬間に確認している」
どうやら他人のステータスを覗き見ることができるらしい。
確かに正解なのだが、俺は確認しておかなければいけない。
「判明するのはジョブだけか?」
「あら? まだ秘密があるの? あたしが見ているのはジョブと上位魔法くらいかしらね?」
うふふと笑うエマ。なるほどな。俺が持つ魔法までお見通しってわけか。
「他に何が見えた?」
「んん? ヒールと浄化があるだけね。もっとも、あたしが求める魔法はフレイムかヒートストーム。ファイアーすら持っていないのに、最上級の魔法を持っているなんて凄いわ」
どうやら使用可能な魔法しか分からないようだな。
しかし、フレイムとヒートストームを同列に考えているのなら、それは間違いだ。その二つは明らかに下位魔法と上位魔法以上の差があるのだから。
「何回唱えられる? その回数によって抱いたって構わないわよ? 彼女さんには秘密にしてあげるし」
エマはどうしても俺に抱かれたいってのか?
俺は正直に童貞なのだけどさ。やり方が分かっていたら、彼女の申し出に飛びついたかもしれない。
「簡単に身体を売るな。とりあえず、俺は協力してやってもいい。だけど、二人だけで脱獄するなんて不可能だろう?」
恐らくヒートストームを唱えたのなら、脱獄できるかもしれない。
しかし、アレの効果範囲は異様に広いのだ。加えて、可燃物がない場所でも燃え続けてしまう。地下四階くらいにある牢獄で使用するのは悪手に違いない。
「あたしは魔力回復のスキルがある。更には攻撃力を増すサポートスキルも。あたし単体では戦えないけれど、貴方と一緒なら脱獄できると考えるわ」
そういったところで、エマのお腹が鳴る。
エマは瞬時に顔を赤くして、
「ああいや、これはその!?」
イメージとは異なって可愛らしく恥じらっていた。
とはいえ、数日間、何も食べていないらしいし、仕方のないことだよな。
「これを食え。飲み物もあるぞ?」
「ええ? 食べ物を没収されなかったの!?」
「このマジックバックは特別製でね。俺にしか中身が分からない。偽装で入っていた食いかけのパンだけ没収しやがった」
手枷があるので出しにくいけれど、俺は携帯食料と飲み水をエマに手渡した。
一瞬、躊躇っていた彼女だが、腹が減ってはというし携帯食料に貪り付いている。
「ありがとう。抱きたくなったらいつでも言ってね? 脱獄できたのなら、毎晩抱いたって構わないわ」
「お前は彼氏とかいないのか? その倫理観を何とかしろ」
俺は別に性欲の権化じゃないっての。
それで俺は文句を口にしただけなんだけど、エマは表情を暗くして語るんだ。
彼女が生きる背景に何があったのかを。
「もう彼氏は死んだはずよ……」
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