第139話 秘めたること
「あたしは聖女エマよ」
え? 明らかに上位ジョブじゃねぇかよ。
てか、レアジョブにも程があるよな?
聖女って勇者や大賢者並に伝説的なジョブだと思うけど。
「どうして捕まった?」
聖女が捕まるとか意味不明じゃん。
俺と同じように調べることすらなかったのかもしれないけど、聞く限りエマは共和国の事情を知っていた。だというのに、なぜに入国しようとしたのだろう。
「リオとは真逆。あたしは顔が知られすぎていたから」
「聖女だからか?」
悪いけど、俺はエマのことなど知らん。聖女についても聞いたことすらない。
「あたしは勇者一行のメンバーだから。といっても、二人しかいない。従って、見つかった時点でアウトよ」
ここで初めて知った言葉を聞く。
勇者一行。それは俺がグレイス侯爵に聞いた言葉だ。てことは、過去にアルカネスト王国へ入国した経験があるはずだよな。
「グレイス侯爵に勇者一行について聞いたことがある。レインボーホーンラビットの討伐依頼を受けたけれど、金だけ奪って逃げたのだとか」
あまりエマは信頼すべきではないな。
グレイス侯爵は腹を立てていたし、契約とはいえ途中で帰ってしまうなんて不義理だと感じる。
「あら? 貴方はアルカネスト王国から来たの? わざわざご苦労様ね? あの国は聞いていた以上にお馬鹿さんだわ」
「お人好しなんだよ。帝国とは違ってね……」
俺が馬鹿なのは認めるけれど、母国の悪口は看過できない。
平和ぼけしているというつもりだろうが、疑ってばかりだと信用をなくす。ヴァルノス帝国のようにな。
「帝国が最悪なのは同意よ。アルカネスト王国に亡命したいくらいに、あたしはあの国が嫌い。世界を蝕む害悪よ」
あれ? 酷い言いようだな?
母国の悪口を言うなんて、どのような扱いを受けてきたのだろう。
「聖女なのに、虐げられてきたのか?」
「平たく言えば奴隷ね。性処理を命じられなかっただけマシって程度よ。あたしはスラムの出身だから、絶対服従の契約をさせられている」
絶対服従ってか。その意味合いは容易に理解できた。
それってマジで奴隷と変わらないはず。エマは帝国の命令に忠実であることを常に求められてきたらしい。
「それは辛かったな……」
帝国の人間だって良い人はいると思う。施政者がどんな奴であろうと、民衆には関係ない話だ。
「優しいのね? 本当にヤらなくて良いの? これでもあたしは割と経験ある方なのよ?」
「性奴隷じゃないんだろ? てか、俺にすり寄って何の意味がある?」
「あら? ギブアンドテイクよ。あたしが差し出せるものは身体しかない。快楽を与えた対価をあたしは欲しているの」
エマは何を考えているのだろう。
そりゃ俺だってスケベな感情くらいある。だけど、俺は念を押されたんだ。
エレナが遊ぶなと言ったから、俺はエマを抱くなんてできない。
「すまんが、俺には好きな人がいるんでね。浮気すると彼女が怒るんだ」
「誠実な彼氏なのね? ここなら誰にも分からないのに……」
「看守くらい来るだろ? 流石に飯の配膳くらいあるだろうし」
「残念だけど期待できないわよ? 何しろ、この独房は既に有罪とされた者の墓場なんですもの」
墓場? 一応は小さな魔道ランプが廊下に灯っている。墓場なら、灯りとかいらないんじゃないの?
「あたしが放り込まれたとき、一人だけ生きていたんだけど、もう死んじゃったわ。彼は長い時間何も食べていないと話していた。放り込まれたが最後。死ぬまで放置される牢屋よ」
嘘だろ?
取り調べもしていないってのに、共和国の連中は殺すつもりだってのか?
「いや、俺は冤罪だぞ!?」
「でしょうね。だけど、ダリア共和国は怪しき者を罰する方向で動いている。その中でも特に胡散臭い人間が、ここに放り込まれているみたいね」
聞けばエマが放り込まれてからも看守は来ていないらしい。窓がないこの牢獄で経過時間など分からなかっただろうが、二日は経過しているとのこと。
「とにかく力を貸して。貴方となら脱出できるはず」
エマにとって新たな囚人は生きる希望に繋がったのかもしれない。身体を差し出してまで、彼女は協力を願ったのだから。
まあそれで俺は聞かされている。
俺の秘めたる真実をエマは知っていたんだ。
「リオ、貴方はパラディンでしょ?」
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