第137話 関所の神官
国境付近で野宿をしてから、俺は関所へと来ていた。
仮設の関所ではあったけれど、多くの兵が待機している。俺が撃ち放ったヒートストームは、ここまでダリア共和国を警戒させていたのかと思わざるを得ない。
「巡礼の旅に出ております」
心臓がバクバクと音を立てているかのよう。しかし、俺は平静を装わなければならない。
「ふむ、聖地巡礼とは若いのに立派だな。聖地母神教会の登録証も本物のようだ」
マジで本物を用意できたんだな。
教会は世界共通の組織であり、国政とは無関係であったというのに。
「だが、ジョブは調べさせてもらう」
俺の登録証にはパラディンと明記されていた。通知があったのだから、間違いなくパラディンだと思うけれど、調べたことはなかったので不安を覚えてしまう。
どこからか分からないが、法衣を着た人間が現れている。このような関所に聖職者がいるとは考えられなかったというのに。
「司教、この若者のジョブを調べてくれ……」
言って兵は金を手渡していた。
あれ? この司教は小遣い稼ぎをしているっての?
聖職者が袖の下を受け取るなんて、表沙汰にできないことであるはずなのに。
「君、名前は?」
司教と呼ばれた男は俺の名を問う。
流石に他国の下っ端まで名前を覚えているはずもないので、心配するようなことにはならないことだろう。
「リオです……」
「君はパラディンではないね?」
はい? 何でそうなんの?
俺は名前を口にしただけだし、何ならそれは偽名でもない。本名を告げただけなのに、どうして俺のジョブが嘘ってことになるんだ?
「司教、よくやった。こいつを捕らえろ! ウィンブルクへ連行するんだ!」
「ちょ、ま!? 俺は本当に聖職者だって!」
瞬く間に俺は兵士たちに取り囲まれていた。
どうしたらいい?
ここで問題ごとを起こせば、戦争になるかもしれない。かといって、捕まったとして同じことだった。
捕まえるってことは俺が間者だと考えたからだろうし、俺が一向に戻らなければ王国はダリア共和国を疑うだろう。
「早く連行しろ!」
有無を言わせず、俺は捕縛され馬車へと乗せられてしまう。
恐らく、あの神官は間者を見つけ出すたびに報酬を受け取っている。だからこそ、国際関係など考えることなく、俺を偽物の神職者だと決めつけたのだろう。ま、それは間違っていないのだけど。
何時間ほど、馬車に乗っていただろう。
マジックバックは中を改められたけれど、固いパンが入っていただけらしい。登録者以外に中身は分からないと聞いていたけれど、手の込んだ偽装が施されているみたいだ。
おかげさまでマジックバックは没収されていない。よって俺は手枷が取り付けられたまま、中身をまさぐって携帯食料を頬張っていた。
「最悪の場合は魔法を撃ち放つしかねぇな」
とりあえずは説得してみよう。
俺は戦争を起こしたいわけじゃない。寧ろ、平穏を求めるために確認しようとしているのだ。世界がどう動いているのかを。
「俺は間違いなくパラディンなんだからさ」
堂々としていたらいい。ちゃんと調査してもらえたのなら、俺は無罪放免となるはずだ。
まあしかし、俺は現実を知らされることになる。
想像よりも邪悪な動きが世界を侵食していたのだと。
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