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第013話 ルミアの気持ち

「絶対に火属性魔法を覚えます!」


 俺は何を目指しているのだろうな。

 正直に戸惑うしかないけれど、初めて他者に認められたことは少なからず俺の原動力となっていた。


「まあ、その前にやることがある。今日中にリオ専用の槌を完成させるぞ。槌がなくては鍛冶士とはいえん。打って打って打ちまくれ!」


 ドルース師匠はいきなり俺に槌を作れという。まだ赤く光る鉄を指さしては槌を振るように急かす。


「やってやろうじゃん!」


 俺はとにかく嬉しかったんだろうな。


 男爵家の五男坊として無難に生きてきた俺は、人生で何かを成し遂げたことなど一度もない。従って、期待されたことなどなく、それに応える機会などあるはずもなかった。


「おらぁああっ!」


 懸命に槌を振った。本気で鍛冶職人を目指すのかと思うくらいに。


 どれだけ時間が過ぎただろうか。何百回と槌を振り下ろし、終了だと言われた頃には完全に日が落ちていた。


「まあ成形はこれからの課題だな。だが、大槌としての機能は問題ないだろう」


 師匠曰く、硬度だけは間違いないらしい。商品として出せない歪な形をしていたけれど、使う分には見た目なんてどうだって良かった。


「ルミア、リオを二階の部屋に案内してやれ。そのあと飯にするぞ」


「あ、はい……」


 先に師匠は水を浴びると工房から出て行く。


 工房に取り残された俺とルミア。意味もなく見つめ合っては互いに恥ずかしがっていた。


「えっと、よろしくな? 俺は貴族だけど、五男坊だし家を追い出された身なんだ。別に身分を気にしなくても大丈夫だから」


「そそ、そうなんですね……。あたしは名字がないので気になってしまいますけど……」


 ルミアはやはり俺の身分を気にしているようだ。


 しかし、ルミアを見ていると人類とは奇跡を起こす生き物なのだと思う。

 師匠の娘であるというのに、この美貌は本当に信じられない。恐らく母親似なのだろうが、それでも半分はドワーフの血を引いているだろうに。


「俺的にはドワーフからエルフが生まれることの方が気になるっての」


「ドワーフですか……?」


 問いを返して直ぐにルミアは気付いたらしい。

 俺が話すところのドワーフが誰であるのかを。


「そんなこと言うと、お父さんが怒りますよ? それに、あたしもエルフなんかじゃ……」


「いやいや、凄く綺麗だ。驚いたよ……」


 どうしてエレナ以外になら、こんなにも簡単に言えるのだろうな。


 自分のことながら、情けなく感じてしまう。エレナに対しても堂々と綺麗だと言えたら良かったのに。


「あたしは別に綺麗じゃ……。って、あたし汗臭いですよね!?」


「そんなことないって。とりあえず、部屋に案内してくれるかな? 立ち話もなんだし」


 あまり女性を褒めるものじゃないな。

 俺には後を継ぐ爵位もないのだし、妾など取る余裕すらなく、何なら本妻候補にだって客呼ばわりされるくらいだからさ。


「そうですね! こちらです!」


 店舗の脇にある階段から居住スペースへと向かうらしい。


 階段を昇って左へと曲がり、突き当たりが俺に宛がわれた部屋であるようだ。


「隣はあたしの部屋なんで、何かあれば壁でも叩いてください」


 薄い壁なんで聞こえますとルミア。まあ、困ったことにはならない方が良いけれど、壁を叩くだけで来てくれるのなら助かるってものだな。


「さあ、どうぞ! 狭い部屋ですけど!」


 メイドのように扉を開いてくれる。

 今も顔を赤らめるルミアは本当に可愛らしい。いや、容姿よりも良い子だと評価すべきだろうか。


「物置でも良かったのに……」


「ここはお母さんが使ってた部屋なんです。お父さんがあんなのなので、出て行ってしまいましたが……」


 なるほど、エルフの遺伝子はドワーフの横暴に耐えられなかったってわけか。


 まあそれで、表情を曇らせるルミアに俺は言葉を探している。


「しばらく厄介になるよ。俺は初めて他人に認められた。本当に嬉しかったんだ。だから期待に応えたい。お母さんの代わりにはなれないけど、迎えてくれた師匠やルミアに感謝を示したいと思う」


「お父さんが気に入るなんて、初めてのことです。それだけでなく、この部屋の使用を許可したことも本当に驚きました」


 やはり出て行ったお母さんの部屋だもんな。どこの馬の骨かも分からない俺に貸し出すなんてあり得ないことだろう。


 ルミアは浮かない表情のまま続ける。

 心の痛みをそのままに。

 軽い気持ちで門を叩いた俺を牽制するかのように。


「リオさんは出て行かないでください」

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