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第129話 心のうちを

 俺とガラムは二人して王城を訪れていた。


 気が進まないけれど、後回しにするほど断りにくくなる。保留だなんてことが許されるはずもなかった。


 アポイントを取っていない俺たちはしばらく待たされていたけれど、先日と同じように謁見の間へと連れられている。


「おお、早速と悪いな」


 王陛下が俺たちに労いの言葉をかけてくれる。


 先日の報告会にて、やらかしたマルコス大臣の姿はない。此度は急でもあったからか、取り囲む貴族たちの姿も少ないように感じた。


 ただし、懸念されていたソフィア姫殿下が玉座の下にいらっしゃる。俺はこれから断りの文言を述べなくてはならないというのに。


「王陛下、発言をお許しください。せっかくのお話なのですが、俺はこの縁談を受けられません」


 明言しておかねばならない。濁して伝えたとして、後々に問題を先送りするだけなのだから。


「そんな!? リオは妾が嫌いなのかえ!?」


 王様が返答するよりも先にソフィア姫殿下。


 ちくしょう、どう答えたら正解なんだ?


 必要以上に傷つけたくないけれど、期待を持たせるのは違うはずだし。


「俺には片想いの人がいるのです。夜会でも申し上げましたけれど……」


「エレナとかいう女か!? あの女がリオをそそのかしておるのじゃな!?」


「違います! 俺の片想いだと話したでしょう? 彼女には夢がある。俺はその夢に沿った男になってから、彼女に告白したいのです」


 エレナの名が出てしまうのは仕方がないことだ。


 俺が姫殿下の申し出を断るのに、理由を述べないなど許されない。ただし、俺は最大限にエレナを擁護しなければならなかった。


「エレナやメイフィールド伯爵家には圧力をかけないでください。もしそのようなことになるのなら、俺は王国を離れます……」


「おい、リオ!?」


 流石にガラムは驚いている。

 それは話していないこと。俺はエレナを守るために、何だってやるつもりだ。


 養子にしてくれたガラムには悪いけれど、俺は覚悟を伝えなきゃいけない。


「傷心の旅に出て、諸国を放浪します。名も知らぬ国に登用されるかもですが、別に平民として過ごしても構わない。エレナが手に入らない人生ならば、どこで何をしていても一緒なのです」


 これが俺の決意であり覚悟であった。

 辺境伯の跡取りという人生を捨ててでも、俺には手に入れたいものがある。


 逆に唯一無二の愛を手にできるのであれば、俺は身分なんて気にしないだろう。


「ふはは! ソフィアよ、リオはそう言っておるぞ? もっと女を磨け。男を落とすには早すぎたの?」


 どうしてか王陛下は笑ってくれていた。

 ソフィア姫殿下は十五歳だ。王国としても婚約者は厳選したいだろうし、陛下は前向きではないのかもしれない。


「直ぐに成長しますわ! 妾はリオが良いのです!」


「ソフィアよ、もしも権力によってリオを縛り付けたとして、心は手に入らないぞ? そんな未来は虚しいだけ。ドレスやアクセサリーとは違うのだ」


 諭すような王陛下にソフィア殿下は無言で首を振った。


 やはり彼女は本気なのだろうな。たった一度踊っただけの俺に惚れてしまったみたいだ。


「リオよ、ソフィアが女を磨き、其方に言い寄ることくらいは勘弁してもらえんか? この子は今まで何事にも興味を示さなかった。儂は初めて聞いたのだ。好きになった人がいると……」


 王陛下は事態の収拾を図るべく、着地点を模索しているかのようだ。


 たとえ俺に受ける意志がなかろうと、娘の意志を尊重したいという気持ち。ここは俺も譲歩するべきなのかもしれないな。


「有り難いお話です。俺の気持ちは固まっておりますが、無下に拒絶するつもりはありません。メイフィールド伯爵家に迷惑がかからなければ構わないです」


 これでどうだろうか。

 ソフィア姫殿下が納得してくれなければ、この問答はまだ続くことになる。


 しかし、そんな予感は杞憂に終わった。


「リオ、妾は其方が好きじゃ。きっと良い女になってみせる。そのとき妾はまたダンスに誘いたい。受けてくれるか?」


 真っ直ぐな想いが届いていた。


 思えば同じ一目惚れ仲間かもしれない。断られることの辛さは俺もよく分かっている。だから、過度な期待を持たせぬように、それでいて断らない返答を終えることにした。


「ダンスなら是非とも。俺の気持ちは変わらないかと思いますが、殿下が成長されます姿が楽しみですね」


 これで良いはずだ。

 嘘は口にしていない。美しく成長なさる姿を楽しみにしておこう。


 たとえ俺の心は決まっていたとしても。


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