第128話 すまん
消火活動へと向かう時間。俺はガラムに呼び出されていた。
あと少しで街道上の炎はなくなるってのに、何の用だってんだ?
炎の色も白から黄色に変わっており、明確に温度が下がっている。だからこそ、俺は一刻も早く片付けたいと考えていたのだけれど。
「何だよ?」
「むぅ、一応は父なのだぞ? もっと敬意を持て」
父というより祖父じゃないか。
とはいえ、貴族にはこれくらい年の離れた親子も多いけどな。
「じゃあ父上、何の用だ?」
問いを続けると、ガラムは長い息を吐いた。
もう既に良くない予感しかしない。良い話ならともかく、悲報を聞くための時間なんて俺にはなかったというのに。
「実はな、お前に釣書が届いておる……」
えっと、何だそれ?
釣書ってあれか? お見合いとかに使うやつ。
「誰からだよ? 婚約なんかするつもりはないぞ」
エレナならばともかく、他のご令嬢なんて御免だ。面倒ごとになるのなら、事前に断ってくれ。
「それは理解しておるのじゃが、難しい話での」
「煮え切らないな? 雷氷の二つ名のようにピシャリと断ってくれよ」
俺の返答は分かっていただろうに、無駄な時間を使わせやがって。
恩義には感じているけれど、俺は自分の結婚相手くらい自分で決めたいんだ。
「そうもいかん。何しろ相手はソフィア姫殿下じゃからな……」
あ、そういうこと。
てか、あの姫様って今さらだよな? 既に求婚されたようなものなのに。
「どうして、そんなことになる?」
「口で伝えるのと文書を送るのでは意味合いが異なる。つまり、姫は他の男性の申し込みは受けない意志を明確にされた。送付にあたって、貴族界中に情報がバラ撒かれておるわい」
マジで?
ダンスを踊っただけなのに、どこまで本気なんだよ。
嬉しいことだけど、好きな人がいる俺には重荷でしかない。
「断れないのか?」
「流石にワシからはのぉ。リオが直接会って、お断りするのが筋じゃ」
「放置しちゃ駄目なのかよ?」
「それこそお前の立場が悪くなるぞ? 姫が行き遅れてみろ? リオの返事を待っていたからだと言われてしまうわい」
ああ、なるほど。
確かに、そんな話になりそうだぜ。だったら早い内に断るべきだな。
「断っても構わないのだろうな?」
「基本は断れんものじゃが、ワシは辺境伯じゃし、王都で評判が悪くなろうと平気じゃわい」
その言い回しじゃ、確実に評判が悪化するやつじゃん。
さりとて、ガラムは構わないというのだし、俺は断るべきだな。
「しかし、嬢ちゃんの立場は悪くなるじゃろうな……」
どうしてエレナの立場が悪くなんだ? 少しも関係ないだろうが?
「どうしてだよ?」
「分からんか? それなら、お前は断る理由をどうするつもりなんじゃ?」
言われて気付く。
俺は好きな人がいると断るつもりだったんだ。
だとすれば、それは誰かと問われてしまう。結果的にエレナの立場が悪くなるだろう。
「どうしよう……?」
「グズグズしとるからじゃ。男ならスパッと嬢ちゃんに求婚せい」
「いや、まだ無理だ! 俺はエレナの夢を叶えていない。俺が告白するのはそれからなんだよ」
英雄にならなければいけない。それに白馬も用意しなきゃ。
エレナの打った武器を手に取って、俺は世界を救うしかないっての。
「面倒臭いやつじゃのぉ。なら、嬢ちゃんを妾にするのじゃ。それしか方法はない」
「そんなの絶対に無理だ! 妾を取るってのは王女殿下が男子を産んだあとだろ? エレナがそれまで独身でいるはずがないって」
「そうとも限らんぞ? フェリクス王子がいるのだ。頼み込めば可能じゃろう」
俺は首を振った。
エレナを妾にするなんて嫌だ。彼女が一番輝いていなきゃ、俺は我慢ならない。
後宮に押し込むのではなく、いつも俺の隣で笑っていて欲しいんだ。
「ならば誠心誠意断れ。ワシはそれで良い」
ガラム的には受けて欲しい話に違いない。だけど、義父は強要することなく、俺の意志を尊重してくれる。
俺はただ小さく告げることしかできなかった。
簡単な謝罪の言葉しか。
「すまん……」
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