第127話 帝国の野望
アルカネスト王国に隣接するヴァルノス帝国。
勇者レイスは帝王城へと呼び出されていた。
「レイスよ、兵を引き連れ、北を目指せ。北端にあるテグライト山脈にスタンピードの原因である黒竜がいるはずだ。勇者は巨悪を討つためのジョブ。またそれは強国ヴァルノス帝国の使命でもある」
ヴァルノス皇帝から直々に命じられている。
レイスは頭を上げることすら許されていない。拒否できるはずもなかった。
「承知しました。しかし、兵を使ってもよろしかったのですか?」
レイスは疑問に思う。
いつもなら単独での任務となっている。仲間は幼馴染みであるエマくらいなものであった。
「黒竜は凶悪な魔物らしいからな。十万という兵を用意した」
「そんなにですか!?」
下を向いたまま、驚いて声を張ってしまう。
兵を預けると言っても、小隊単位だと考えていたというのに。
「うむ、先のスタンピードによって、北にある国々は全て滅びたと聞いておる。施政者がいなくては残された民が困るだろう?」
レイスは皇帝陛下の思惑に気付く。
黒竜討伐を装った侵略なのだと。施政者がいなくなった地を根こそぎ奪おうというものに違いないと思う。
「もしも、抵抗された場合はどうするのですか?」
「レイス、我らはアヴァロニア世界の危機を救おうというのだぞ? 天命は我らにある。立ち塞がるものが誰であろうと叩き斬ればよい」
やはり考えていた通りだ。
いつかは訪れると考えていた対人任務。平たく言えば、皇帝は殺人を命じている。
「しかし、テグライト山脈へと向かう途中に聖王国があったはずですが?」
滅びた小国の地を通るだけならば問題はない。だが、北にはプロメスタ聖王国という宗教国が存在する。
プロメスタ聖王国はアヴァロニア世界における第三の勢力。アルカネスト王国とヴァルノス帝国の二大強国に匹敵する力を持っていた。
「天命は我らにあると言ったはずだ。レイスよ、分かるな?」
ようやく十万という兵の使い道を理解していた。
レイスは長い息を吐いたあと、承知しましたと答えている。
呪印さえなければ。
契約さえしていなければ。
過去の自分を責めては長い息が漏れてしまう。しかしながら、どうあっても過去は覆らない。
皇帝陛下の命に従い、救済という進軍を始めるだけであった。
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