第126話 弟子として
一日目の修行が終わったあと、私は二階にある食堂へと招かれていました。
食卓に並べられた料理は家庭的なものばかり。私が初めて目にする料理ばかりでした。
「口に合うか知らんが食え。鍛冶士は体力がものを言う」
「ありがとうございます」
感謝してるけど、食べ方が分からないわ。
お昼にいただいたのはサンドイッチだったけど、夕飯は難解な料理すぎる。ナイフやスプーンも用意されていない。あるのは一本のフォークだけ。
「どうした? 食わんのか?」
「ああいえ、先に師匠様が食べるべきだと……」
とりあえず、食べ方を確認しよう。せっかくご馳走になるというのに、無作法をやらかしてはなりませんし。
「えっ?」
師匠は手づかみで食卓の真ん中にあった揚げ物を手にしています。
本気なの? 取り分けるのかと思ったけど、素手で食べるものなのね。
「あ! お父さん、行儀が悪いって言ってるでしょ!?」
私も手を伸ばしかけたところで、ルミアさんが師匠様に注意をする。
危ないところだったわ。師匠様の真似をするところだったじゃないの。
二人を見ていると、料理は好きなだけフォークで取っていいみたい。全てが大皿なのはそういう作法なのね。
「美味しい!」
「わはは! おいルミア、お前の料理は伯爵令嬢にも褒められたぞ? 貴族様御用達の料理人になれるんじゃないか?」
「やめてよ! あとリオさんの分も残しておいてよ? 帰ってきたとき何もなければ可哀相じゃない?」
「分かっとるわい! 足りなければお前がまた作ればいいだけだ」
そういや、リオって帰りが遅いのね?
まあ祠まで徒歩でしょうし、時間がかかるのかも。
「リオはいつも遅いのですか?」
「北街道はめちゃくちゃ燃えているらしいじゃないか? リオのせいだというし、仕方ないの。かといって、リオは修行も消火活動も手を抜かん。そういう男だ」
それは分かりきったことです。
リオは本当に真面目だから。エッチなこと以外は真面目すぎると言えるほどに。
「もう帰ってくるだろう。ワシの飯が済んだくらいで戻ってくる。それまで待っているか?」
「ああいえ、私は帰ります。リオに甘えてはいられませんし……」
「ふはは、本当に見上げた娘だな? その強い意志をいつまでも持ち続けるのだぞ? そうすれば必ず望みは叶う」
有り難いお話をいただきました。
言われずとも、そのつもりです。使命とか関係ないわ。私は私自身を誇れるように生きる。加えて、望む未来を手に入れるだけよ。
「精進いたします。明日もよろしくお願いいたしますわ」
ドレスではないので、私は深々と頭を下げています。
正直にカーテシー以外で敬意の表し方なんて知りません。平民たちがするというお辞儀は物語の中で読んだだけだというのに。
「ああ、よろしくな」
しかし、師匠様の言葉に間違いはないと気付く。そもそも間違っていたとして心が籠もっていたのなら、この方は文句など並べない。
きっと上辺だけではないと分かってもらえたはず。
私は弟子として認められたに違いありません。
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