第125話 好きという覚悟
「リオが好きだから……」
口にしたそばから恥ずかしくなる。
だけど、それは本心。自分の気持ちに気付いた結果なのよ。
「そうか、なるほど。リオはなかなか良い男だからな?」
「リオには黙っていてください。私から告白するつもりはありません。彼に振り向いてもらわなきゃ負けなんです」
どうしてか大笑いする師匠様。でも、私は本気なのよ。
リオはまだ私の身体を求めているはずだけど、心まで私は手に入れたい。彼の全てを私は欲しいと思う。
「それは強欲だの? 良いだろう。ワシは真っ直ぐな人間が好きだ。お前さんが願望の全てを手に入れられるように、手を貸そうじゃないか。しかし、途中で投げ出すとか許さんぞ? 決めたことは最後までやりきれ……」
「もちろんです。生半可な思いで、ここに来たわけではありません」
再び頷くドルース師匠様。彼にも私の本気が伝わったみたいです。
「じゃあ、次は魔法を見せてくれ。フレイムを扱えるそうだな?」
「この一週間、ずっと撃ち続けていました。最初は強すぎたりしたのですが、今ではちゃんと扱えます。きっとミスリルだって溶かすことができるはずです」
それは明らかに大口だったけど、私は弟子にしてもらわなくちゃいけない。
だってミスリルなんて持っていないんだもの。
「高溶解炉の方へ火をくべてみろ」
リオが使っていた極耐熱溶解炉ではなく、師匠様が指さしたのは高溶解炉でした。
私の工房にあるものより古いけれど、年季が入った良い炉だと思います。
「力を抑えた方が良いでしょうか?」
「自信満々だな? 流石に壊れると厄介だ。最初は手加減して見せてくれ」
頷きを返すと、私は右手を掲げた。
高溶解炉へと向けて、魔法を撃ち放つ。
「フレイム!」
真っ赤な炎が灯された。
炉の中へ狙い通りに。煌々とした炎はそれだけで充分な熱を発していると分かる。
一週間に亘り、朝から晩まで唱え続けたんだもの。食費としてもらっていたお金で魔力ポーションを買って、私は熟練度を上げ続けた。
おかげで今月分の食費はもう残っていない。だけど、それでも構わないの。本気でやるって決めたから。
「良い炎だ。出力的にどれくらいだ?」
「半分程度かと」
「ならば確かにミスリルをも溶かすことができるだろうな」
炎は一応合格かな。大きな頷きを見せてくれる師匠を見ると、問題ないと分かります。
「今日はこの粗鉄を鍛錬し続けろ。不純物を全て取り除くほどに。鉄の声を聞けよ? 鉄は何も語らないと思えば、それで終わりだ」
とても良い言葉でした。
今なら私にも分かります。鉄はものを言うし、泣くこともある。不甲斐ない鍛冶士に加工されるなんて我慢ならないことでしょう。
「承知しました……」
粗鉄を溶かして、私は鍛錬を始めた。
慣れた手つきで大槌を振り続けていましたが、どうしてか頭がクラッとして倒れ込むことに。
「おい、どうした!?」
師匠様が心配してくれる。だけど、問題ない。原因は分かっているもの。
「ただの空腹です。問題ありません……」
私は立ち上がって、もう一度鍛錬を始めようとする。しかし、師匠様は中断を命じて、私に食事するよう言うのでした。
「しっかりと食え。化粧かと思ったが、顔色が悪いだけだったか。飲まず食わずでフレイムの練習をしていたのか?」
「ええまあ。魔力ポーションは高価なので、食費がなくなっただけです。でも、魔力ポーションを飲んでいましたから、そこまで空腹では……」
「とんでもない伯爵令嬢だな? まあいい。昼飯と夕飯は用意してやる。食ったら続きを始めるぞ?」
「ありがとうございます……」
聞けばリオは寝食まで共にしているらしい。てか、スミスには娘さんもいるというのに、リオは何を考えているのかしら?
まあしかし、私は師匠様の優しさに触れている。
これなら最後まで諦めずに頑張れるはずよ。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




