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第012話 鍛冶工房スミス

 生産者ギルドをあとにした俺は王都セントリーフのメインストリートを彷徨いていた。


 かといって、メインストリート沿いにある工房はどこも繁盛しており、加えて店構えも立派すぎて修行を申し込めるような雰囲気はない。


「マジかぁ。やっぱ裏筋にある小さなところだな……」


 狙いは家族経営の小さな工房だ。弟子が一人もいないような店でないと了承してもらえそうにない。何しろ俺のジョブは鍛冶士などではなく、ただの僧侶なのだから。


「お? こんな細い路地に工房があるじゃないか?」


 武具工房【スミス】。そのまんまな気がするけれど、二階は居住スペースみたいだし、俺が望んでいる家族経営の工房に違いない。


「いらっしゃい!」


 店に入ると、若い女性の店員が声をかけてくれる。


 美しいブロンドの髪。店員は優しい笑みを見せてくれる。エレナよりも先に出会っていたとすれば、間違いなく魅了されていたことだろう。


「実は客じゃないのです。俺は弟子入りしたくて……」


「あら? うちみたいな小さな工房でいいの?」


「俺はジョブが適切じゃないですし、弟子入りさせてもらえるなら贅沢はいえません」


 失礼かもしれないが、俺は本心を語るだけ。断られたのなら、他の工房に突撃するだけだぜ。


「じゃあ、こちらへどうぞ。お父さんに聞いてみなきゃ」


 手招きする女性のあとをついていく。店舗の奥側が工房となっているようだ。


「お父さん、弟子入り希望者なんだけど」


「おう? ワシに弟子入りだと?」


 美しい娘さんからは想像できないほど、屈強な男性が工房主らしい。ずんぐりとした体型は伝承にあるドワーフのようである。


「ドワーフって実在したんだ……」


「誰がドワーフだ! ワシは歴とした人族だっての!」


 おっと、失礼。体型と髭ずらが架空の亜人であるドワーフにそっくりだったものでね。


「俺はリオ・スノーウッドです。訳あって鍛冶を学びたいのです。もちろん給与は必要ありません。ただ基本的な技術が学べたら結構ですので。雑用だってしますし、店番もできます」


 見習いに給与なんてでるはずがないしな。できることを対価として俺は技術を学ぶしかない。


「ふむ、店番は間に合っているんだが、リオのジョブは何だ?」


 ここが最難関だろう。俺のジョブが僧侶だと知れば、怒鳴りつけられること間違いない。冷やかしに来たとしか思えないはずだ。


「実は僧侶です……。だけど、やる気は誰よりもあります!」


 誠心誠意訴えるだけ。意欲だけは誰よりもあるのだと。


「ううむ、僧侶なら幾らでも仕事があるだろうに……」


「いや、俺は鍛冶を学びたいのです! 何とかお願いします!」


「まあ、門前払いするのもあれか。とりあえず、この大槌を振ってみろ。話はそれからだ」


 意外にもドワーフ似の工房主はテスト的なことをしてくれるみたいだ。ここで俺が何とか大槌を扱えたのなら、弟子入りできるかもしれない。


(ここは打撃得意にかけるっきゃねぇ!)


 レインボーホーンラビットとの戦いで得たスキル【打撃得意】。俺が縋るべきはそれだけだ。ジョブに期待できないのだから、スキルを頼るしかねぇ。


 手渡された大槌。ズシリと重たい。やはり木の枝を振り回すのとは違う。


「いけっ!!」


 俺は大きな声を張り、大槌を振ってみる。


 その重量ゆえに不安だったけど、意外とふらつくことなく振り切れていた。


「お? なかなかじゃないか?」


 工房主の反応も悪くない。

 だったら俺は更に振ってみせるだけだ。根性だけは売るほどある。了承を得られるまで振り続けるしかない。


 しばらく振っていると、工房主はパンと手を叩いた。どうやら俺の見定めができたのかもしれない。


「おいルミア、炉にくべている鉱石を取り出せ。こいつに打たせてみる……」


「お父さん、それって良質な鉱石でしょ!?」


 受付の娘さんはルミアというらしい。エレナ狙いの俺には必要のない情報かもしれないが、一応は記憶しておこうか。


「失敗しても打ち直せばいいだけだ。早くしろ」


 どうやら俺はいきなり鉄を打つことになるようだ。

 命令されたルミアは戸惑いながらも、炉から真っ赤に熱された取鍋を取り出している。


「リオ、いいか? 俺が合図をしたら、思いっきり打て。鉄は熱いうちに打てというだろう? 手加減などいらんからな」


 言って工房主はヤットコにて熱された鉄を取りだし、水をかけては金敷という台へと置いた。


「打て!!」


 急な命令であったけれど、俺は力一杯に鎚を振る。正解かどうかなんて分からないけれど、真っ赤になった鉄へと振り下ろしていた。


 やめろと言われなかった俺は何度も鎚を振り下ろしている。工房主にどう見えているのかも分からないままに。


「いいぞ、続けろ! もっと強く打て!」


 工房に響き渡る甲高い音。正直に俺は疲れ果てていたけれど、この作業は何十分も続いた。


「よし、休め」


 ここでようやく休憩となるようだ。

 肩で息をするような俺にルミアが乾いたタオルを手渡してくれる。


「リオといったな? お前は初めて鉄を打ったのか?」


 汗を拭いていると、工房主が聞いた。

 もちろん初めてだった。そもそも鎚を持ったのが初めてだし。


「ええ、初めてです。力一杯に振っただけですけど……」


「そうか。実に筋が良い。ワシはお前を気に入ったぞ。ナマクラ坊主にするのは惜しいとさえ思った。的確に鎚が振れておったし、鉄への入りが良い。ジョブが鍛冶士であっても、これほど上手くは打てない」


「えっ? じゃあ、俺は……」


 マジか。

 俺は僧侶なのに、鍛冶職人に褒められている。恐らくはスキルが仕事をした結果なのだろうけど。


「合格だ。ワシは弟子を取ったことがないからな。上手く指導できるか分からんが、リオを育ててみたいと思った」


 めちゃくちゃ嬉しい。

 冒険者としては最弱と言われた俺が高評価を受けたんだ。生まれて初めて他者に認められた俺は本当に舞い上がるような気分だった。


「ワシはドルースという。よろしくな?」


「えっ? ドワーフ?」


「ドルースじゃと言っただろ!? 耳の穴が詰まってるんじゃないか!?」


 おっと、いけない。嬉しすぎて、ちゃんと聞こえていなかったぜ。


 ドワーフじゃなくドルース師匠な……。


「すみません、ドルース師匠。どうぞよろしくお願いいたします」


 謝罪をして、俺は頭を下げた。

 僧侶なのに弟子にしてくれた師匠に感謝を。俺は貪欲に学びたいと思う。


「それで師匠、俺は一文無しなので、ずっと工房にはいられません。冒険者をして、食べるお金くらいは稼がないといけないのです」


 先に言っておかなきゃいけない.

 本来なら弟子は四六時中学ぶものだろうが、俺は生活費すら持っていないのだ。よって、冒険者をしながら働くことになる。


「むぅ、それは大変だな。じゃあ、うちで生活しろ。給料は出せんが飯と寝床くらいは用意してやる。その代わり、朝から晩まで鎚を振ることを命じさせてもらう」


「良いのですか? 精一杯に頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!」


 ひょんなことから、野宿生活とおさらばできた。見た目とは異なり、師匠はとても良い人だ。技術を教えるだけじゃなく、寝食まで提供してくれるなんて。


「ああ、気にするな。リオは本当に素質がある。ワシはそれを気に入っただけだ。それでリオは火属性魔法を覚えているか?」


 ここで次なる段階なのか、所有魔法について聞かれている。


 どうしてか、ドルース師匠は火属性魔法の有無について問いを投げていたんだ。


「いえ、鍛冶には火属性魔法が必要なのですか?」


「うむ。鍛冶は火力がものを言うからな。ジョブが鍛冶士だとファイアーくらいの初級魔法を覚えているんだ。流石に僧侶では覚えていないのだな……」


 あれ? 落胆させてしまった?

 せっかく弟子入りできたというのに、早速と暗雲が立ち籠めている。


「しかし、落ち込む必要はない。あとからでも大丈夫だ。近い内にリオは焔の祠へと行きなさい」


「そこへ行けば魔法を授かるのですか?」


「焔の祠は火属性の魔物が蔓延るダンジョンだ。試練を乗り越えたのなら、そこで火属性魔法を授かることができる。そこそこ危険なのだが、リオくらいに大槌を振り回せたのならば、問題ないだろう」


 マジっすか。

 俺はこれでも最弱冒険者であって、討伐クエストなんか回してもらえないんだけどな。


 まあしかし、師匠が行けというのなら、焔の祠に赴くだけ。俺はそこで鍛冶士として必須の火属性魔法を手に入れるだけだ。


 前途多難な気もするけれど、ドルース師匠の命であれば、たとえ火の中水の中だ。どこまでも俺は頑張るっきゃねぇ。


「絶対に火属性魔法を覚えます!!」

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