第117話 剣聖
え? ガラム様?
どうしてか上空には二騎のワイバーンが飛んでいます。
それは直ぐさま降下して、私たちの側へと着地。乗っていたのはガラム様とテッド師団長様でした。
「お二人とも、どうして?」
「いや、ワシこそ驚いたぞ? 嬢ちゃんはどうしてここにおるのだ?」
問われて私は頬を赤く染める。
べべべ、別にデートしてキスしたわけじゃないのだけど?
「リオとちょっと……」
「積極的じゃのぉ。それでリオはどうして寝ておるのじゃ?」
うう、積極的だと言われてしまった。
ガラム様はリオのお父様であって、もし私とリオが結ばれたのなら義父となる人。覗き見の変態属性こそありましたけれど、それは上位貴族なので仕方のないことよね。
「リオはヒートストームという魔法を撃ち放って意識を失ってしまったのです」
私はリオが昏倒した原因について説明する。
膝枕が目的ではなく、現状はちゃんとした介護であるのだと。
「ヒートストーム? どうして撃ち放ったのじゃ?」
「ええ、実は飛竜が現れて、リオはその魔法を撃ったのです。証拠はそこにある足の指しかありませんが……」
言って私は指さす。
それは私が斬り落とした指先です。もはや飛竜の存在を示すものは、それしか残っておりません。
「むぅ、この大きさであれば成体じゃのぅ。足の指はリオが斬り落としたのか?」
「ああいえ、それは私が斬ったのです。リオは上空を舞う飛竜に魔法で対処してくれました」
リオから借りた剣は凄い切れ味だったわ。きっと私のジョブスキルだけでなく、剣本来の能力が突出していたはず。
「嬢ちゃんが斬ったじゃと? 嬢ちゃんは鍛冶士じゃろうが?」
「いえ、私のジョブは剣聖なのです。お恥ずかしながら……」
私の返答にガラム様とテッド様は顔を見合わせています。
マズいことでも言ったかしら?
「嬢ちゃんが剣聖との話は事実じゃったのか!?」
どうやらガラム様は私の話を冗談だと考えていたみたいね。今更ながらに驚いておられます。
「洗礼時に水晶に表示されましたから、間違いありません。のちに詳しく調べてもおります」
ジョブが鍛冶士であれば、苦労しなかったのに。
まあでも、剣聖を得たからこそ、私は生き残った。リオが戻ってくるまで耐えられたのです。
「エレナさん、よければ騎士団に入りませんか? 剣聖であれば直ぐに部隊長クラスまで上がれますよ?」
ここでテッド師団長様が言った。
ああ、それね。ジョブが判明した折りに何度も誘われている。だけど、私には夢があって、それもまだ諦められるほど抗っていないの。
「それは有り難いお話ですけれど、私は自分の夢を叶えるため、鍛冶士をしております。英雄様に私が打った剣を使って欲しいのです。救国の勇者伝説にあるような夢があります」
「なるほどの。だからこそ、リオと一緒におるわけか……」
ガラム様の話には顔が紅潮してしまう。
当初はそこまで考えていなかったのだけど、今となってはそうかもしれない。
「しかし、剣聖のジョブは惜しいですよ。考えてもらえませんか? 世界情勢は割とキナ臭い状況です。勇者有するヴァルノス帝国が他国へ攻め込むなんて噂まで流れていますからね」
それは初耳ですが、私には関係のない話。救国の英雄になるつもりはないからです。
「少なくとも私は満足いく剣を作りたい。中途半端はもう嫌なんです。せめてリオに自信作を手渡したい」
新たな目標を立てていました。
私が打った最高傑作をリオが使用する。何だか、それだけで私の夢は叶うような気がするの。
「なるほどの。ワシも協力しようか。若者の夢は大事にせんといかん。それでリオにはこれを飲ませてやってくれ。先日のように口移しでも構わんぞ?」
からかうようにしてガラム様は、魔力ポーションと昏倒者に飲ませる器具を手渡してくれます。
とはいえ、気にならない。私は二人が知らない間に口づけを済ませていたのだし。
このあと、私は膝にリオを乗せたまま魔力ポーションを飲ませている。
早く目覚めて欲しいと一心に願いながら。
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