第116話 もうハニートラップしかない
私は白い炎が燃え盛る街道でボウッとしていました。
リオがまるで目覚めないからです。
お姫様のキスで王子様が目覚めるなんて物語は存在しないの。
残念ながら、口づけは気付けとならなかったみたい。
「リオは本当に強いなぁ。飛竜を一撃で倒しちゃうんだもの」
絶対に駆け出し冒険者ではない。グレイス侯爵も評価していたし、何よりガラム辺境伯様が養子にしちゃうくらいだもの。
きっとリオは貴族界を駆け上がっていく。私にはそんな気がしてなりませんでした。
「ソフィア姫殿下やリズ様は……」
こうなると姫殿下たちの存在が私の心に影を落とす。
リオに婚約者はいない。だけど、成人をした辺境伯の跡取りであれば、引く手数多に違いありません。
「姫様は権力者だし若い。リズ様だって侯爵家の跡取りだもの。二人との婚約はリオにとって悪い話じゃないわ」
貴族界は常に上を向くものです。自分より下位の階級をパートナーに選ぶことは妥協であったり、負け犬と呼ばれることでしょう。
「私は伯爵家の実権がない。三女だし、グレイス侯爵家の寄子だし……」
色好い未来が想像できません。
私がしゃしゃり出るとグレイス侯爵様が良い顔をしないはず。その影響はお父様に降りかかって、伯爵家没落の切っ掛けとなるかもしれない。
姫殿下にしても、王家の不興を買うなんてことになれば伯爵家などあっという間に取り潰されてしまう。
「こんなことなら既成事実を作っておくべきだったかな。モニカのアドバイスを真面目に聞いていたら……」
とりあえず、身体を合わせろがモニカのアドバイス。実践している彼女を見ると、羨ましくなってしまう。それにより彼女は上位貴族をゲットしたわけですし。
「最初から辺境伯だったら、お父様も納得だし問題はなかったのに」
リオは男爵家を追い出された身でした。よって一般的に見て、私とは釣り合わない。容姿がタイプであったとして、英雄でもないのなら私が敢えて選ぶ男性ではなかったのよね。
「モニカの遊び人属性さえあれば……」
明らかにリオは私の身体を求めていたのです。ずっと胸を見ていたし、それだけは確信があるの。
あのとき身を委ねていたとしたら、現状と異なる未来に辿り着いていたことでしょう。
「私って馬鹿。身持ちの良さなんて貴族界では無意味なのに。どうして踏み込めなかったのよ……」
後悔すると分かっていたら、出会った日にそのまま済ませていたかも。
リオは幼さを残しながらも凛々しい勇者タイプ。一目見て良いなと感じたけれど、家のことがあるし、もちろん夢もある。だから、私は気持ちを掘り起こして考えなかった。
徐々に惹き込まれていく。私は次々とリオの新しい魅力に気付き、遂には自分からキスしてしまうくらいに好きになっていたの。
「モニカに相談してみようかな」
遊び人から成り上がりを見せたモニカ。今の私には必要なスキルかもしれない。
既に私より上位貴族となったリオをどうやれば籠絡できるのか、彼女なら知っているはずだもの。
「よし、まだ王都にいるらしいし、帰ったら連絡を取ってみよう」
問題はリオが今も気を失ったままであること。魔物が現れたのなら、私が対処するしかありません。飛竜と戦い疲弊したリオを叩き起こすなんてできないのですから。
「何とかリオを守って、アピールするネタにするっきゃないわ」
気持ちを前向きに。リオがまだ私を求めてくれるように。せめて身体だけでも繋がれるようにと。
やる気に満ちていた私なんですが、緊張の糸は直ぐさま切れることに。
なぜなら、上空から私を呼ぶ声がしたのです。それも良く知る人の声が。
「嬢ちゃん! ワシじゃあぁっ!」
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