第109話 絶体絶命
「祠の上空に飛竜が現れた……」
ちょい待てぇぇ!
中途半端に説明して消えるなっての!?
祠の上空って、エレナが居る場所だよな? 飛竜ってファイアードラゴンよりもデカいやつだよな!?
「やべぇ、さっさと殴り倒さないと……」
エレナには長剣を預けていたけれど、彼女は上位貴族のご令嬢。魔物と戦った経験などないはずで、初陣が飛竜だなんて勝てるはずがない。
「うおおお!」
俺は祭壇を駆け下りていた。
こうなると俺は日和ってなどいられない。エレナこそが俺の生きる意味。だとしたら、俺は自分の安全など考えている暇はない。
「クッソがぁぁっ!」
背を向けているファイアードラゴンに俺は殴りかかっていた。
しかし、固い鱗は俺の攻撃を阻む。まるで効いた感じがなかったのは当たり前だ。
殴りつけたはずの拳は皮がズタズタになって、血が流れていたのだから。
振り向いたファイアードラゴンはいきなり火球を吐く。
狭い通路でそれはねぇよ。前回は風圧で凌いだんだっけ?
「うおおお! 風圧ッ!!」
もうどうにでもなれだ。
武器はなかったけれど、俺はパンチを繰り出して風圧と口にしている。
「!?」
期待したわけじゃなかった。だけど、俺は相殺できていたんだ。武器を使ったわけではなかったというのに、風圧が火球を消し去っていた。
「いける! もう火球は効かねぇぞ! ドラゴン、覚悟しやがれ!」
血気盛んに声を上げる。
火球が効かないだけでも、俺にとっては収穫だぜ。
『うまそう……。うまそう……』
どうしてか声が聞こえる。明らかにドラゴンの唸り声だったのだが、俺には意味合いが感じ取れていた。
「魔物言語のせいか……?」
かつてレインボーホーンラビットと会話をした魔物言語なるスキル。俺が話しかけるようにしたからか、意味合いを理解できてしまう。
「俺はご馳走じゃねぇよ!!」
ダメージに関する問題はあったのだが、俺にできることは殴り続けるだけ。拳が傷だらけになったならば、次は蹴りを繰り出すだけだ。
「クソッタレが!!」
俺は殴り続けていた。少しも効いた気はしないけれど、エレナが絶体絶命のピンチに晒されているんだ。一刻も早くファイアードラゴンを天に還すしかないっての。
焦りまくる俺だったけど、どうやら女神様は俺に加勢してくれるらしい。
『打撃職人は全身凶器へと昇格しました』
ええ!? 打撃スキルが昇格するってことは殴りつけも打撃扱いだったのか!?
「しゃらくせぇええ!」
全身凶器の本領を見せてみろってんだ。
俺の拳が凶器となったのなら、ダメージを与えてみせろ! ドラゴンの鱗を貫いてみせやがれ!
「でやあああああっ!!」
渾身の一撃がドラゴンの腹部を捉えた。
今までは拳が痛むだけだったけど、全身凶器と化した俺のパンチは腹部にめり込んでいる。
「やった……」
そう思った刹那、俺の腕が刺さったままドラゴンは暴れ出す。
腕は割と深く刺さっていたのだが、振り回されたあと呆気なく抜けて、俺は壁に身体を打ち付けることに。
「クッソ、ヒール……」
即死しなかったのはレベルアップのおかげなのか、或いはパラディンに昇格したからだろう。
焦りだけが増していく。一刻も早くエレナの下へ駆け付けたいと。
こんなところで苦戦している時間はないというのに。




