表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/232

第104話 不意打ちにて

「これは鉱石が泣いている……」


 ちょ、師匠!

 そこまで辛辣に評価しなくても!?


 俺は焦っていた。

 エレナは自分を天才だと思い込んでいるんだ。だから、真相を伝えるのには時間をかけようと考えていた。徐々に理解してくれたならと。


「嫌よ!!」


 エレナは走り出してしまう。しかも彼女は泣いていた。


 やはり、傷ついたのだと思う。

 夢を叶えるための鍛冶を否定されたんだ。平常心でいられるはずもなかった。


「師匠、エレナを宥めたあと、俺は火災の消火活動に向かいます!」


「おう。好きにしろ」


「ありがとうございます! 夜には戻りますので!」


 俺は店舗を飛び出していた。ヒールで走るエレナには簡単に追いつけるはずと。


 通りに出ると、エレナは西へと向かっている。


「工房に鍵をかけられたら厄介だな」


 恐らく自室に籠もってしまうはず。中から鍵をかけられてしまえば、話を聞いてもらえなくなるだろう。


「エレナ!」


 懸命に彼女を追いかける。しかし、意外と彼女は速かった。これも剣聖による身体能力強化の結果なのかもしれない。


 けれど、懸命に追いかけた俺は遂に彼女の腕を掴む。勇ましき戦士たちの嗜みが目の前に現れた頃であった。


「離して、リオ! もう私のことは放っておいてよ!」


「嫌だ! 俺はエレナの剣が欲しい。何だったら白金貨でも支払ってやる!」


 俺は意志を伝えた。

 エレナが丹精込めて製作した武具。それが欲しいと告げている。


「リオの方が上手く作れるんでしょ!?」


「天才のエレナが努力したら、絶対に敵わない! 今のエレナは努力を怠っているだけだ!」


 天才だって努力するんだ。

 初めから何でもできるわけじゃない。少しずつ得られたものの積み重ねが、向上へと繋がるはず。


「お願いだ。もう泣かないでくれ。エレナの泣き顔を見ると俺も悲しくなる」


「私は自分が嫌になるわ! ジョブのせいで天才だと思い込んでいたなんて!」


 泣き止む様子はなかった。寧ろ、俺が何か言うたびに彼女は傷ついているのかもしれない。


「リオはさぞかし可笑しかったでしょうね! 下手くそな私の武具を……んっ!?」


 俺はエレナの口を塞いでいた。何を言っても無駄なのだと。


 エレナと唇を重ねていたんだ。


 まるで夜会での一幕みたいに。無理矢理に彼女の唇を奪っていた。


 セントリーフの大通りに一陣の風が吹き抜けていく。キスをする俺たちの身体を撫でるようにして、優しくそよいでいる。


「な、なにすんのよ……?」


 頬を染めたエレナ。此度もキスに関しては怒っていない感じだ。


「落ち着かせようとしてだ。俺の話を聞いてくれ……」


 そう言ったあと、周囲から拍手が聞こえてきた。


 あれ? みんな、俺たちの口づけを見てた?

 どうやら痴話喧嘩が収束したと思われているらしい。皆が笑顔で俺たちに拍手を送っている。


「えっと、お店に入って……」


 流石にバツが悪かったのか、エレナは扉を開いて俺を招く。外に放置するような真似はしなかった。


 人目を避けるようにして、店舗へと入った俺たち。先ほどまで言い合っていたのが嘘のように、今は互いが言葉に困っている。


「えっと、エレナ……」


「えっ、はい!?」


 もう棘が取れた感じだ。

 無理矢理に交わしたキスだったけど、どうやら正解であったらしい。既に思考は口づけに囚われている感じだ。


「エレナ、一緒に鍛冶の修行をしないか?」


 自信を取り戻すためには努力するしかない。加えて彼女は基礎を学ぶべきだ。今のまま努力したとして、意味はない。ちゃんと鍛冶と向き合う必要がある。


「でも私……火属性魔法が使えないの。炎の祠に行ったけど、精霊なんか現れなかった。きっと私にはセンスがない」


 我に返ったのか、エレナは自分を見つめ直せていた。


 ようやく鍛冶職人としてエレナの人生が始まるのかもしれない。非を認めることから、全ては始まるのだから。


「じゃあ、もう一度行ってみよう。俺がついて行くから安全だよ。十万くらいの魔物までなら問題ないさ」


 とりあえず冗談っぽく話してみる。一度くらいの失敗なんて気にする必要はない。なんならサラマンダーに話をつけてやっても良い。


 試練は一人ずつだけど、俺はエレナに協力したいんだ。


「大丈夫かしら……?」


「問題ないよ。サラマンダーって奴は俺に借りがある。のしつけて返してもらうさ」


 既に礼は大精霊の加護をもらっていたけれど、ファイアーくらいオマケしてくれても構わないだろう。


 俺の話に頷くエレナ。

 そうと決まれば野外デートを楽しむとしようか。


 きっと何の問題もないはずだ。


本作はネット小説大賞に応募中です!

気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!

どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ