第102話 真相
私は工房に案内されていました。
とても小さな工房だけど、立派な炉が二つもある。私の工房の半分くらいなのに設備はなかなかのものね。
「これが製作中のバスターソード。まだ刃の部分だけなんだけど」
「これ、リオが打ったの!?」
鈍い輝きを帯びた刀身が作業台にありました。
とても大きな剣。片刃なんでしょうね。
「凄く良い色だわ。ひょっとしてミスリルかしら?」
「おお、分かるんだな? まだ熱いから触れないけど」
「そりゃ分かるわよ。英雄と言えばミスリルかオリハルコン。これは絶対に外せない要素だもん!」
物語に出てくる英雄や勇者様はいずれも稀少金属で作られた剣を持っていたのよ。だから、いつか私も打ってみたいのよね。
「これはカッコいいわ。さぞかし名のある剣士様の注文なんでしょうね?」
ミスリルを贅沢に使った大剣が店頭に並ぶとは思えない。使用者を選ぶ品物は得てして受注生産だもの。
「ああいや、これは俺のだ。ガラムが素材とか用意してくれて」
「えええ? リオがこの大剣を!?」
やだ……。めちゃくちゃカッコいいじゃないの。
これを振り回すリオを想像するだけで赤面してしまいそう。
だけど、問題はそこじゃない。リオがミスリルの大剣を手に入れたら、それをずっと使うってことじゃない?
「リオ、私の打った大剣じゃダメなの……?」
白馬を用意したら完璧だったけど、よくよく考えると私の英雄は私が打った剣を持っていなきゃいけないの。
二人の共同作業で世界を救う。私の夢が叶うのは、その条件が揃ったときだけよ。
「エレナ……」
何か言いたそうね?
理由があるのなら聞こうじゃない。不満点を改善するくらい私にだってできるわ。
「何が問題なの? 私が打った剣は全て業物でしょう?」
店頭に並べたナイフだって、固い木材をスパンと切り落とせる。ちょうど持って来ているし、実演してみても良くてよ?
「そこの割れた溶岩石っていらないものでしょ? このナイフで真っ二つにしてみせるわ」
まさか斬れすぎて使いにくいって言うつもりかな?
見てなさいよ? 私が打った刃物の凄さを思い知るがいいわ。
「えい!」
今日もドレスにヒールだから、格好良くは振り切れない。
だけど、ほら? 真っ直ぐに切り落とせたでしょ?
「どう? リオの剣で同じことができる?」
流石にリオはバツの悪そうな顔をしている。
幾らミスリルを使ったとして、やはり切れ味は刀匠の腕だからね。
「エレナ、そのナイフ貸してくれるか?」
「んん? 良いけど? リオには特別なの打ってあげるわよ?」
リオはナイフを受け取ると、何度か振ってみせる。すると、なぜか私のナイフはポキリと折れてしまったの。
「リオ!? 何をしてくれたのよ!?」
私は直ぐさま刃を拾ってみたけれど、歪な折れ方をしたナイフはもう一度溶かすしか使い道がない。何をしたのか分からないけど、リオって意地悪だわ。
「エレナ、君の打ったナイフは君にしか使えないんだ」
「どういうこと?」
全然、分からないわ。私が使えるものが他の人に使えないはずがないもの。
「ずっと言おうと思っていたんだけど、このナイフは誰が振ったとしても同じこと。俺は剣術(マスター)を獲得したから、何度か振れたけど。一般人なら鞘から抜いた時点で折れるんじゃないかな」
一応は頷いてあげる。だけど、ちゃんと説明しなさいよ?
どうして私のナイフが私にしか使えないのかを。
少しばかり躊躇ったリオはその理由を告げるのでした。
「このナイフはジョブ[剣聖]の力によって折れないだけだ」
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