歯車の夢
わたしには、なにもない。
本当になにもないのだ。
この世界が決めたレールの上に乗って日常という電車に揺られながら一生を終える。
このレールから脱線しようものなら白い目で見られ、弾圧される。
それで終わり。
だからわたしはこの世界のレールから外れないように機械にように生きていく事しか出来ない。
そんなわたしはさながらロボットガァルだ。
今年の春、わたしは高校生になった。
ごく普通の公立高校。
入学式から一ヶ月たった今でも学校にはあまり慣れない。
表面上だけの付き合いとある程度の情報さえ持っていればまず置いて行かれる事はない。
わたしはこの一ヶ月でずいぶん思い知らされた。
人間関係の難しさ、学力の差。数えるとキリがない。
中学生のわたしは一体何を期待していたのだろうか。
都会の学校に行ける、電車通学なんて夢のよう、可愛い制服! そんな些細な事でもあの時はいつも夢を見れていた。
けれど楽しみが無い訳ではない。
わたしは本を読む事が好きだ。
今一番の楽しみは、先頭車両に乗って右側のいつもの席に座り本を読む事だ。
降りる駅の前の駅の間には大きな橋がある。
この橋を通る時に見える海と高層ビル達の景色がとても素敵なのだ。
ビルとビルの間から見える透き通るような朝の色が何とも言えない。
この時ばかりはわたしも本を読む目を止めて数秒しか見ることの出来ない景色を見つめる。
機械みたいなこの世界で唯一世界の色を感じる事が出来る瞬間。
わたしはそれがたまらなく好きだ、夢をいつまでも見れる気がして。
ホームから吹く冷たい風がわたしをそんな夢から覚ます目覚まし代わりになるのも遠くはないのかもしれない。
今日もその時を楽しみにして電車に乗った。
先頭車両はわたしを含めいつも3,4人くらいしかいない。多い時でも10人程度。
わたしはいつもの席に座る。
朝の陽ざしが窓から差し込んで溶けて染み込む。
今日は春の午後みたいに暖かくて寝てしまいそうだ。
まぶたに暖かい色が映って視界が半分消える。
もうすぐあの好きな景色を見れるのに、眠気が襲ってくる。
本をバッグから取ろうと思ったが手が動かなかった。
このまま暖かい空気のままどこかへ行ってしまいたいと思った。
ゆらゆら揺れる景色とともにわたしは眠りについた。
のろのろ頑張ります。