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番外編3

 

「あら、おめでたいわ。…うふふ、きっとあなたの子はとても可愛らしいのでしょうね」



 私は読んでいた手紙をそっとテーブルの上に置いた。そしてお茶を飲み一息つく。



「さてと。早速お返事を書きましょうかね」



 私は部屋にある机の引き出しから便箋を取り出した。この花柄の便箋は私のお気に入りだ。



「それに何かお祝いを贈りたいわね」



 何を贈ろうかと考えようとした瞬間にふと思った。



「でも私から贈り物をされたら迷惑に思うかしら…」



 急に不安になった私は手紙を書く手を止めてしまう。


 そしてしばらくの間どうしようかと悩んでいると部屋の扉が叩かれた。



「イザベラ、今いいかしら?」


「ルイーズ?」



 ルイーズとは私の兄の妻だ。つまり私にとっては義姉だ。今私が実家である公爵家で過ごすことが出来ているのは兄とルイーズのおかげである。


 旦那様と離縁したあとは残りの人生を神に捧げて慎ましく生きていこうと考え、修道院へ行くつもりだった。しかしその話を兄に伝えると兄とルイーズが猛反対したのだ。



『どうして帰る家があるのに修道院に行くのか』と。



 この歳になって出戻りなどただただ迷惑でしかないと思っての判断だったのだが、むしろ兄とルイーズを怒らせてしまった。そんなに私たちとは一緒に暮らしたくないのかとも言われたがそんな訳はない。

 今は息子とも離れて一人になってしまったが、出来ることならば誰かの側にいたいと思う。

 昔は一人でも何とか頑張れたはずなのに、ずいぶんと歳を取ったからか人との繋がりを求めるようになっていた。


 だから兄とルイーズにはとても感謝している。



「どうしたの?」



 私は部屋の扉を開けルイーズを部屋へと招き入れた。



「いえ特に用事はないのだけど、今日は時間に余裕があるからお茶でもどうかと思ってね」


「あらいいわね!…それにちょうどルイーズに相談したいこともあったの」


「そうなの?じゃあ今日は天気がいいから外に行きましょうか」


「分かったわ」




 私とルイーズは庭にあるガゼボに移動してお茶を飲みながら他愛のない話をしていた。

 そして話が一段落したところでルイーズから声を掛けられた。



「それで相談って何かしら?」


「!」


「誰かに言いふらしたりはしないから安心して話してちょうだいな」


「もちろんそんな心配はしてないわ。…その、ちょっとセレーナさんのことで相談したくて」


「セレーナさんってサイラスの元奥様よね?」


「ええ。実は彼女とは以前から手紙のやり取りをしているの」


「あらそうだったのね」


「それで今日も手紙が届いたのだけど、セレーナさんに子どもが生まれたんですって」


「おめでたいことね。たしか二年くらい前にアレス国の第三王子と結婚したのよね?」


「そうよ。それで今回子どもが生まれたって聞いてお祝いを贈りたいと思ったんだけど…」


「なるほど。婚姻無効の相手の母親から贈り物をされても迷惑じゃないかと思って悩んでいるのね」


「…さすがルイーズね」



 ルイーズは昔から何事もハッキリと言う人だ。私はどちらかというと言葉を濁してしまう方なのでハッキリと物を言えるルイーズが羨ましい。でもそう思うのはルイーズに嫉妬しているからではなく、ルイーズを尊敬しているからだ。尊敬するルイーズが義姉なのはとても心強い。


 そして今回も私の悩みをハッキリと言い当ててきた。本当にルイーズには敵わないなと改めて思う。



「ふふっ、イザベラらしいなと思ってね。あなたはどこか無意識に遠慮しているところがあるから」


「そう、かしら?」


「ええ。だから今回のことも遠慮なんてしないでしっかり考えてみて?そもそもの話、イザベラだったら嫌いな相手に手紙なんて送る?」


「…送らないわ。嫌いな相手とは関わりたくないもの」


「そうね。じゃあそう考えればセレーナさんはあなたのことを嫌いではないことになるわね」


「そうだけど…」


「それに子どもが生まれたってことはあまり人に言いふらすことではないわ。子どもが小さい頃はいつ何があるか分からないでしょ?それを親しくない人にはわざわざ言わないわ」


「…そうね。その通りだわ」


「それなのにセレーナさんはあなたに手紙で報告をしてくれたのでしょう?」


「ええ」


「それなら何の心配も要らないじゃない。あなたのお祝いの気持ちを形にして贈ったらきっと喜んでくれるわ」


「本当に喜んでくれるかしら…?」


「むしろ贈らない方が薄情な人だと思われるわよ?」


「っ!そ、それは困るわ!」


「ふふふっ、さすがにそれは冗談よ。ただ私が言いたいのは、あなたにセレーナさんをお祝いしたい気持ちがあるのなら何の問題も無いってことよ」


「!」



 お祝いしたい気持ちがあるのならすればいいし、したくないのならしなければいい。ルイーズの言う通りだ。

 私はセレーナをお祝いしたいのだ。それならすればいいだけのこと。


 ルイーズの言葉がすとんと胸に落ちた。



「どう?悩みは解決したかしら?」


「…ええ。ルイーズの言う通りだわ。…ふふ、やっぱりルイーズに相談して正解だったわ」


「あら、そう言われるとなんだか嬉しいわね」


「私はいつもルイーズを尊敬しているのよ?」


「そうなの?それはどうもありがとう」




 ◇◇◇




 無事に贈り物の悩みは解決したが実はもう一つ悩みがある。ただこの悩みは私が悩んでも仕方がないことなのだが。


 お互いにお茶を飲んで一息つく。



「はぁ…。セレーナはこうして新しい道を進み始めているのにサイラスときたら…。いつまで屋敷に閉じ籠っているのかしら」


「王太子殿下の側近を辞めてしまったものね。でも侯爵としての仕事はしているのでしょう?」


「そうなのよ。仕事はちゃんとしているようだからあまり強くも言えなくてね」


「まぁそうね。でもサイラスのことはサイラス自信自身で解決しないことには先には進めないと思うわ」


「そうよね…」


「たまに顔を見に行っているんでしょう?今はそれで十分よ。あとは時間が解決してくれるのを待つしかないわ」


「ええ、私もそう思うわ。なんだか心配かけてごめんなさいね」


「サイラスのことは私も主人も気にかけているから一人で背負い込まないようにしなさいね」


「…ありがとう」


「じゃあこの話はここまでにしましょう!ねぇ、せっかくだし美味しいお菓子でも食べながら贈り物を何にするか考えたら楽しくなると思わない?」


「まぁそれは素敵ね!」


「でしょう?私も一緒に贈り物を考えてもいいかしら?」


「ええ、もちろんよ!」



 そうして私はルイーズとの楽しい一時を過ごしたのだった。





 ◇◇◇





 後日セレーナからお礼の手紙が届いた。

 悩みに悩んで贈った服と帽子は気に入ってくれたようでよく着せていると書かれていた。

 その姿を想像しただけでとても微笑ましい。直接その姿を見ることはこれからも難しいだろうが、セレーナが続けてくれる限り手紙は書き続けていきたいと思っている。


 そして私はお気に入りの便箋を取り出しペンを持った。



「さて、何を書こうかしら」



 お気に入りの便箋に何を書こうかと楽しく悩みながら、私は今日も穏やかな一日を過ごしている。



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