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そうして私達はドルマン国を後にした。おそらくもうこの国に来ることも、あの人達に会うこともないだろう。全てをすっきり終わらせることは出来なかったがそこは時間が解決してくれるはずだ。
あれからシェインに聞いた話によれば、アルレイ伯爵家は男爵家に降爵され領地を没収された。妹だけは王太子殿下にも無礼を働いたことから修道院へ入れられたそうだ。きちんと反省して更生できれば出られるそうだがおそらく難しいだろう。
そしてカリスト侯爵は王太子殿下の側近を辞め領地に引きこもってしまったらしい。王太子殿下が引き留めようとしたが本人の意思は固く、王太子殿下が折れるしかなかったそうだ。
カリスト前侯爵夫人についてはシェインに背中を押してもらい手紙を送った。手紙には謝罪と感謝の言葉、そして今は幸せに暮らしていることを書いて送ると返事が届いた。
夫人からの手紙には謝罪と今の状況が書かれていた。今は実家に戻り穏やかな日々を過ごしているそうだ。そして手紙の最後にはこう記してあった。
『あなたの幸せを遠くから願っています』と。
◇◇◇
帰国後は休むまもなく結婚式の準備に追われることとなった。
いまだ王族であるシェインと結婚をする私は一旦王子妃として王族の一員となるが、王太子妃様の出産を無事に見届け落ち着いた頃に継承権を放棄し臣籍降下する予定だ。
結婚して臣籍降下した後もお互い教師を続けるつもりだ。魔法薬の取引も続けていきたいと思っている。数年後にはシェインが叔父の跡を継いで学園長になる予定だ。
それと私とシェインは子どもを望んでいるので、王族から抜けたら子作りに励むつもりだ。いつかこの腕に我が子を抱くことが出来る日が待ち遠しい。
◇◇◇
そして迎えた結婚式。
私達はたくさんの人に祝福され、晴れて夫婦となった。
国民への御披露目も無事に終わり、気がつけばもう夜になっていた。使用人達に急いで準備をしてもらい、一人夫婦の寝室でシェインが来るのを待つ。
待ち始めて五分程経った頃、部屋の扉が開いた。部屋にやって来たのは当然シェインなのだがなぜか息が上がっている。
「セ、セレーナっ」
「シェイン?どうしたの?」
「一人で待つのは不安かと思って…」
「!」
シェインは私のことを心配して急いで来てくれたようだ。確かに以前のことがあるので考えなくもなかったが、シェインのことを信じているので不安は全くなかった。
でもその気持ちがとても嬉しい。
「まぁその感じだといらぬ心配だったな…ってセレーナ!?」
私はシェインに抱きついた。普段は決して自分からは抱きつかないが、この嬉しい気持ちを抑えきれなかったのだ。
「私、シェインと出会えてよかった」
「…ああ、俺もだ」
シェインが強く抱き締め返してくれた。この温もりが私に勇気を与えてくれる。でも私はシェインに何かを与えられているだろうか。
「シェインといるとね勇気が湧いてくるの。でも私はシェインに何かしてあげられているかしら?」
「その心配はいらないさ。俺はセレーナから愛を教えてもらった。愛することを知って俺は前よりも強くなれたんだ」
「!シェイン…」
「セレーナ…今からもっと愛してもいいか?」
「っ!…はい」
きっとこの夜は一生忘れられない夜になるだろう。
愛されずに育ち愛されない結婚生活を送ってきた私が、人を愛しそして愛されるなどあの頃からは全く想像できなかっただろう。
でも今は目の前に愛する人がいて私に愛を伝えてくれている。私もこれからの人生をかけて愛を伝えていきたい。
それに私を救ってくれたこの国に少しでも役に立つために何かしていきたいと考えている。ただそれを考えるのはこの夜が終わってからにしようと思う。
今はただこの優しく激しい愛に包まれていたいから。
【完】