サイラス視点
セレーナが出ていってからもう三年が経つ。
母からはセレーナを探すなと言われたが、私はどうしても我慢できず密かに探し続けていた。セレーナは金の髪に水色の瞳と目立つ容姿なので、多少時間が経っていても探せばすぐに見つかるだろうと思っていたのに、いつまで経っても見つけることができなかった。
父が進めていた魔法薬事業の違約金やらの支払いで我が家の財政は厳しいものになっているし、それに以前いた使用人をほとんど解雇し新しい使用人を雇ったばかりなので今は家を維持するので精一杯だ。
それに私は王太子殿下であるハインツ様の側近でもあるので、自分の足で探しに行くことは難しい。
一体セレーナはどこに行ってしまったのだろうか。もしかしたらもうこの国にはいないのかもしれない。探し出して直接謝りたいが今の状況がそれを許してはくれない。
今の私にできることは目の前にある仕事をこなすことだけだった。
◇◇◇
セレーナが出ていってしまった後、私はすぐに使用人達に聞き取りを行った。するとほとんどの使用人がセレーナがいなくなったことを知ると喜んだ。
なぜ喜ぶのかと尋ねると皆が同じことを言った。
『侯爵様はあの女がお嫌いだったから』と。
セレーナの手紙に書いてあった通りだった。全ては私の態度が招いたこと。それを改めて突き付けられた私は自分の愚かさを後悔することしかできなかった。
ただそれでも使用人達はカリスト侯爵夫人であったセレーナを不当に扱ったのだから罰さなければならない。私は関わった使用人達に退職金は払ったが、紹介状は渡すことなく解雇した。退職金を払ったのはせめてもの償いだ。だが紹介状がなければ次の仕事を見つけることは容易ではないだろう。それを使用人達への罰としたのだ。
しかし家令だけは違う。
家令は私がセレーナを抱けない理由を父に伝えており、家令からの報告を聞いた父はまだ子を生む予定がないのであれば、カリスト侯爵家のために働いてもらわなければと考えたそうだ。
その結果セレーナ一人に大量の仕事を押し付けることになったのだ。
父は私の知らない間に少しずつ販路を拡大していたようで、セレーナの負担は大きなものになっていた。あまり屋敷にいない私に代わり、屋敷の管理を家令に全て任せたのが間違いだった。
家令は父の代から屋敷で働いていたからか、私が侯爵となってからも家令の中での優先順位は私より父の方が上だったようだ。家令だけは退職金を払わずに即解雇した。
後から調べて分かったことだが、家令は侯爵夫人に割り当てられた予算を横領していた。私にはセレーナが使ったと報告してきていたが、調べると横領していることが簡単に分かった。
証拠を隠そうともしなかったのは私が気づくはずないという自信があったのだろう。確かにその通りで、今回のことがなければいつまでも気づかなかったかもしれない。
ここでもまた自分の愚かさを目の当たりにすることになった。