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「おい、お前!」
「…」
騒がしい声が人混みを掻き分けて私のところまでやってきてしまった。
しかし私は気にすることなく料理を食べ続ける。うん、やっぱりお肉おいしい。
「ちょっと!無視するんじゃないわよ!」
「ほんと昔から可愛げがないわね」
「お前のせいで私達がどれだけ苦労したと思っているんだ!」
顔を見なくても誰がやってきたのか分かってしまう。相変わらず自分達のことしか考えていない人達だ。ここには王家の方々やたくさんの貴族、それに他国の要人がいるにも関わらず、周りが全く見えていないようで騒ぎ散らしている。気持ち的にはこのまま無視したいが、他の参加者の迷惑になるので仕方ない。
「みなさんお元気そうで何よりです」
「はっ!カリスト侯爵からはお前は死んだと聞いていたがやっぱり生きていると思っていたぞ!」
「ええ。お義母様にそっくりなあんたは簡単に死ぬはずないわよね」
「お姉さまのせいで結婚できないのよ!この責任はどう取ってくれるの!」
「…」
これは私が何を言っても無駄だ。どうしたものかと困っているとシェインが私を庇うように前に出てきてくれた。
「黙れ」
シェインの声から怒っているのが分かる。伯爵家ごときが他国のそれも王族を怒らせるなんてあってはならないことなのに、今現実に起きてしまっている。
「彼女はアレス国第三王子である私の婚約者であるスターリン侯爵令嬢だ。貴様らが軽々しく口を利いて良い相手ではない!それなのに数々の暴言。このことはしっかりと抗議させてもらうぞ」
「っ!い、いや、こいつは私の娘だ!自分の子どもを叱って何が悪い!」
「そ、そうよ!この子は昔から私達に迷惑をかけているんだから叱るのは当然じゃない!」
シェインから抗議すると言われてさすがにまずいと思ったようだが、言っていることは相変わらずだ。
「お前達の耳はただの飾りか?もう一度言う。彼女はアレス国のスターリン侯爵令嬢だ。彼女が貴様らの娘だと?笑わせるな。お前らの娘はそこの下品な女だけだろう」
「なっ!下品だなんて失礼ね!どう見たってお姉さまより私の方が美しいでしょうが!それにお姉さまは伯爵令嬢よ!侯爵令嬢なわけないじゃない!」
「マナーもできていない、口も悪い、性根も腐っていておまけに頭も悪いときたか」
「なんですって!?」
「いくら王族だからって他国の人間のくせに私達に失礼よ!」
「そ、そうだ謝罪しろ!それと慰謝料を寄越せ!」
元家族であるアルレイ伯爵家の人達は怖いもの知らずのようだ。
(まさかお金まで要求するなんて…。自分で自分の首を絞めているだけってどうして気づかないのかしら)
こんな人達が自分と血が繋がってると思うと恥ずかしい。既に王族であるシェインに対する数々の失礼な態度や暴言。これはもう衛兵を呼んで連れていってもらうしかないだろう。
「いい加減にしてくださ」
「なんだこの騒ぎは」