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8.接触

「アラン、僕、アランのことが好きなんだ」

息を呑んだ。

これは何?

好き?

それは友人として、よね。

アランにランのことをどう思っているのか、二人は本当に友人同士なのかを聞きたくて探していたらランの声が聞こえた。

アランとラン、空き教室で二人きり。わずかに開いたドアの隙間から頬を紅色に染めたランが見えた。手をもじもじさせて、チラチラとアランの様子を伺っている。まるで恋をする乙女のようだ。

ランはどういうつもりで告白をしたのだろうか?

いくら好きでもそれは秘するべき感情ではないの?もし、アランが受け入れたら私の存在を二人はどうするつもりだろうか?私に黙って付き合うの?私に後継だけ産ませて、名ばかりの妻にさせる気?

私は息を潜めてアランの回答を待った。

断ってくれるはず。きっと、そうよね。だって、ランとでは未来がないもの。

「俺も、俺もランが好きだよ」

「っ」

叫びそうになって、思わず両手で口を押さえた。

「嬉しい」

ランは瞳を輝かせてアランを見る。

気持ちが悪い。

抱き合う二人から視線を逸らして私はその場を去った。

嫉妬はなかった。でも、不安がぐるぐると思考を鈍らせる。

私はこの後、どうなるのだろうか?

誠実を二人に求めるのなら私は婚約破棄になるだろう。だって、アランはランの告白に”応”と答えたのだから。そうなると、私は義弟に婚約者を取られた女として社交界から笑われる。一度傷物になれば次の婚約者を探すのも苦労するだろう。

もし、二人が不誠実であれば私は名ばかりの婚約者、名ばかりの妻として義弟と婚約者の浮気を黙認しなければならない。それで二人がお互いの関係を周囲に隠してくれるのなら私の面目は保てるだろう。でも、そうでなければ結局は社交界から笑われることになる。

どのみち、幸福な未来はない。

その回答に思わず笑ってしまった。

お母様も同じ気持ちを抱えていたのだろうか?そして、その結果、心を病んでしまったのだろうか?

私はお母様と同じ末路を辿ることになるのか?

「大丈夫ですか?」

知らない間に蹲っていた私を転校生のクロヴィス・トラントが心配そうに近づいてきた。彼は私にハンカチを差し出す。

どうしてハンカチ?と思って彼を見ると「涙を拭いてください」と言われた。

私は、泣いていたのか。

「あ、ありがとうございます」

「どうされたんですか?」

私はハンカチを受け取り、涙を拭う。クロヴィスは終始、心配顔で私を見つめる。

やっぱり、気になるよね。でも、本当のことを言うわけにはいかない。何とか誤魔化さないと。

「あ、あの」

あれ?何か甘い匂いがする。

「ここでは誰かに見られてしまうかもしれないので、移動しましょう」

「・・・・・はい」

そうね。こんな姿を誰かに見られたらあらぬ噂を呼ぶかもしれない。

私はクロヴィスの提案を受け入れ、人目のない裏庭へ移動した。そこには人のガゼボがあった。こんな所にガゼボなんてあったかしら?・・・・・裏庭なんて滅多に来ないから知らなかった。

「落ち着きましたか?」

「はい。お見苦しいところをお見せしました。ハンカチは洗ってお返ししますね」

「差し上げます」

「えっ」

クロヴィスは笑みを深めて私を見る。まるで心から愛しい人と会えたような甘い笑みだ。何でだろう。やっぱりどこかで会った気がするのに思い出せない。モヤがかかったみたいだ。

「大丈夫ですよ」

クロヴィスは言う。

「焦らなくても時が来れば全て、還るべき場所に還ります」

「還るべき場所?」

「はい」

そうか。焦らなくて大丈夫なのか。彼が大丈夫と言うのなら本当に大丈夫なのだろう。

「それで、どうされました?そのように可愛らしい目を腫らして」

「実は」

私は気がつけば先ほどのことをクロヴィスに話していた。クロヴィスはずっとこちらを気遣う様子で、けれで一度も口を挟まずに最後まで私の話を聞いてくれた。だからか、とても話しやすくて、先ほどの出来事のみを話すつもりだったのに自分でも気づかないうちに今までの不安も一緒に吐露していた。

全てを話し終えると、何も解決したわけでもないのに心は不思議と軽くなっていた。

「それは辛いですね」

「・・・・・辛い、のかな?政略だし、お互いに気持ちが合ったわけじゃないの」

「それでも、ですよ。気持ちがないから蔑ろにされていい理由も、していい理由もありません」

それもそうよね。そうか、今まで蔑ろにされていたのか。

アランはランが好きだから、婚約者である私を嫌っていたのかな?私さえいなければランとって思っていたのかな?そんなはずはないのに。

「これからどうするつもりですか?」

「これから?」

「はい。このまま二人の関係に気づかないふりをして婚約を継続しますか?」

もし、そうなった場合私ってなんだろう?子供を産むための道具?

貴族にとっての女とは、父にとっての私は元々そういう存在だ。ただそれを濁しているだけ。明確にしていないだけ。

・・・・・・そういう存在のままでいいの?

「少し、考えるわ」

「そうですね。ゆっくりと考えた方が良いと思います。俺でよければいつでも相談に乗りますよ」

「ありがとう」

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