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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

猿の無限定理



《期待の新鋭作家X、販売部数二百万部突破!》

《王道かつ斬新、重厚なストーリー》

《次作にも目が離せない!!》


数十冊程積みあがったその本は、全て同じものだ。

日に日に増えていくそれ。

誰かに配る事もなく――ひたすら部屋が埋め尽くされていく。


「はぁ」


カタカタとキーボードを叩く。

サクサクと出来上がっていく文章。


何も考えず手を動かし。

死んだ魚の様な目で、勝手に構築されていく物語を眺めている。

こんなモンが世に出てしかも売れまくってんだから驚きだ。


「……」


手を止めて昔を思い出す。

精神を削り、持つもの全てを使っても売れる気配がしなかった二十の時。

手首を切り刻んだ。

流れる血、消えかける意識。

死ぬつもりだった。

でもその瞬間、朦朧とする頭の中に文字列が大量に思い浮かんだ。

それはあっという間に十万文字を超えて。

出版社に投げつければ、売れに売れて大金を得た。

重版に次ぐ重版。おかげで部屋は本だらけ。



「クソ……何なんだよ」



今になっても、この文章を俺が書いてる気がしない。

まるで執筆の時だけ違う自分がいる様だった。最近はその感覚がどんどん強くなっていく。

死にかけて頭がおかしくなったか?

このままじゃ狂ってしまいそうで――


「っし。良い事思いついた」


いくら本が売れていても、こんな状態じゃストレスが溜まって仕方ない。

滅茶苦茶にしてやろう。

この――俺の世界を。







【ことになったのである。そして、、、、、、、、。、。mklがかjががlk;tじぇkぁgなks】

「は、ははっ……!」


笑いが湧き上がる。

どうして今までソレをしなかったんだろう。

出来上がっていく素晴らしい文章は、一瞬にして崩壊した。

やり方は簡単。

何も考えず、何も頭へ浮かべずに。

狂った様にひたすらキーを叩くだけ。

この物語を台無しにしてやる。

キーボードごとぶっ潰れても問題無い!


「おらっ、おらっ!」

【hやjgkgめmfkdkろ】


ああ、最高だ。

でもさっきから変だ。

そんな訳ないのに。

こんな猿の様な行為なのに。

適当に指を叩きつけているはずなのに、この文字列に何かを感じる。


【pkwっlフjrwざmbnけlgvcsるryp、;な】

「……!?」


いや、気のせいじゃない!

何かが俺の身体を。この指を。

操作、している様な――



「き、消えろ!!」

【いmlgまkjrまmgでhgf一体誰がg君をbvcxjk】



気持ち悪い。

身体にぬるりと何かが這い寄ってくる。


もうキーボードを叩くどころじゃない。


なのに。

俺の手は――そこから離れない。

抑えつけられる様に縛り付けられて。



「クソッ!! 止めろ、来るな――」



気持ち悪い!

気持ち悪い!

今すぐ俺から離れろ――




「消えろ! 消えろ消えろ消えろ消え」










【お前が消えろ】












……全く、滑稽過ぎて笑いが滲む。

端から見学するとそれは猿の様だった。

鍵盤を一心不乱に叩き続けていたそれ。

大人により端正に作られた砂の城を、蹴り飛ばして壊す餓鬼の様に見えて楽しかった。



【……ふふ、何をやってたんだ僕は】



不意に冷静になる。

まるで、憑き物が落ちたかの様に。

さっきまでの僕は狂っていたのだろうか?



【何でも良いか!】



さあ、今日も楽しい執筆を始めよう。

邪魔者も居なくなった事だから。

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