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1章8話 ジョブ

「起きてー朝だよー」


 すごく大きい声が聞こえた気がする。

 でも、無視だ。眠たいのに体を起こす理由は特に無いだろう。俺は引きこもりのニート、何もする気がないのだから好き勝手にさせてくれ。


「うー! 起きなきゃイタズラするよ!」

「勝手にしろ」


 適当に返して睡眠欲に身を委ねる。

 アレ……おかしい、息が出来なくなってきたような……。って! おいおいおい!?


「んぐっ!」

「口も鼻も塞ぐな」


 起こすために呼吸を止めさせるとか……。

 我が妹ながらに恐ろし過ぎる。まだ口は唯の口で止めてきたからいいけどさ、鼻に関しては止めたら駄目だろうに。コイツ……本気で俺を殺す気だったのか。……まぁ、起きれたから別にいいが多少はやり返させてもらうぞ。


「えへ、いたぁい」

「叩かれて嬉しそうにするな」

「んー、ふふふ」


 チョップされて喜ぶとか、ドMか。

 唯に変な性癖があろうと俺は受け入れるだけだから構わないが……いや、これはこれでアリだな。愛でる以外の愛し方があるのであればマンネリ化は防げるだろうし……より俺達の関係も良くなっていくだろう。今度、そこら辺の本でも買って勉強しておこうか。


 毛布を払って唯と向き合う。

 そのまま腕を伸ばして滑らかな唯の髪を手で梳かした。少し前なら同じ家にいてもしなかった行動だ。何時からだったっけな、今みたいな唯に会いたいと思えなくなってしまったのは。一人がいいって思うようになったのは……そんなに昔じゃなかったはずだ。


「あ」


 片方のヘアゴムが取れてしまった。

 長い髪が解けてサイドテールのようになってしまっている。これでもいいと思うが……それでも俺はこっちの方が好きだ。


「ありがと」

「起こしてくれたお礼だ」


 昔はよくやっていた髪のセット。

 思えば幼い時から唯は俺にピッタリくっ付いていたよな。そして何回もヘアゴムで髪を纏めてってせがまれて……そのせいで女の子よりも上手く出来るようになってしまった。この髪型だって俺がずっと好きだって言っていたからで……あー。


「可愛い?」

「お前は可愛いよ」

「私は……?」


 思い出したくない人と唯を重ねてしまった。

 不思議そうにしていたから「唯は何をやっても天使だからさ」と適当に返しておく。こんな事を言ったところで何も変わらないからな。世界が変わったのだから俺だって変わらないといけない。俺がするべきなのは過去の未練を断ち切ることだ。


 唯にキスをして立ち上がる。

 嬉しそうにしているのだけ見えたからそれで充分だ。あの時とは違って絶対に裏切らない唯が傍に居てくれる。もしかしたら菜沙だって一緒にいてくれるかもしれない。そんな幸せな未来しか見えない俺にアイツは、面影でさえも不要だ。


「そういえば菜沙ちゃんは?」

「菜沙ならステータスの調整中だって」


 なるほど、真面目な菜沙らしい。

 唯の言葉に「そうか」と返して準備室を出た。出てすぐ見えた長机の一番端の椅子に座って考え込む菜沙がいる。ムクムクと悪戯心が湧いてきてしまって静かに近付くことにした。俯きウーンと唸っている中で「捗っているか」と声をかけてみる。


 ……予想通りアワアワしてくれた。滅茶苦茶、可愛らしい。だけど、唯にバレたら色々言われそうだから心の中に留めておこう。


「どっ、どうかしたんですか」

「今、起きたばかりでさ。唯に話を聞いたらステータスを確認しているって言っていたから見せてもらおうと思ってね」


 納得したように首を縦に振っている。

 まぁ、実際、気になるところではあるからな。例えばポイントの存在やスキル、後はステータスの値とかも気になる。後は菜沙と唯のステータスを知らないと戦う時にも困るからな。


「えっと、こんな感じです」


 ちょっと恥ずかしそうにしていた可愛い。

 多分だけど好んで見せたくはないんだろうな。ステータスってだけあって自分の内面を見せるようなものだ。多少なりとも抵抗感があってもおかしくはない。あまり顔を見つめないようにして菜沙と俺の間に現れた透明な画面を眺める。




 ____________________

 ミナミナズナ

 種族レベル1

 ジョブ 1.

 HP 250

 MP 260

 攻撃 155

 知力 215

 防御 165

 精神 225

 俊敏 145

 魅力 350

 幸運 70

 スキル 双剣術1

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 ____________________




「双剣術はこの武器のおかげですかね。他には何もスキルはありませんでした」

「ステータスを手に入れたばかりだから仕方がない。……一応、聞くが俺のは見たいか」


 本当に一応だけどな。

 当然のように菜沙は首を縦に振った。さて、どうしようかな。聞いてみたはいいが俺のステータスは見せられたものでは無い。別に恥ずかしいわけではないが菜沙よりも低いんだよなぁ。


 余計な出費になりかねないが致し方ないか。

 そのままダブルタップでステータスを表示させる。




 ____________________

 カナクラヨウヘイ

 種族レベル 10

 ジョブ 1.

 HP 450

 MP 450

 攻撃 163

 知力 163

 防御 163

 精神 163

 俊敏 163

 魅力 500

 幸運 500

 スキル 身体強化7、経験値増加10、ポイント増加10、異次元流通4、異次元倉庫4、槍術1、マップ10、拠点10

 魔法 刻印10、火5、水5

 ポイント 984

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 ____________________




 驚いた顔をしてこっちを見てきた。

 菜沙よりも低い能力が多々あるのだから当たり前か。今、知ったことだけど俺は運が良かっただけで数値に関しては戦闘経験のない菜沙よりも下。チート性能の武器とスキルが無かったら生き残れたかも分からないからな。


「なんでスキルが多いんですか。それとポイントというのも分からないです」


 ああ、そっちか……何て答えるべきかな。

 変な答え方をすれば信用されなくなるし、素直に言ってもいいものかと。特にポイントに関しては他の人にバレたくないからな。俺の生命線に近いものだし。……となると、そうだな。


「ステータスが菜沙ちゃんよりも低いだろ。それの代わりみたいなものだ」


 菜沙は黙ったが納得はしていないようだ。

 仕方ないか、多分だが俺も同じ反応をする。


「俺が菜沙ちゃんを心の底から信用できるようになったら、教えるよ」


 遠回しに信用はしていない、と菜沙に伝えた。

 武器を渡したのは気休めでしかない。別に何もかにも菜沙を信用していないとは言わないが本当に信用しているのは唯だけだ。どうなっていくかは菜沙次第、とはいえ、今のままなら遅かれ早かれ信用するだろうな。


「……わかりました。頑張りますね」


 ニッコリと微笑む菜沙の頭を撫でる。

 おっと、こういうのはあまりしない方がいいんだったっけか。何回かした後だが人によっては嫌がっている可能性だってあるよな。助けてもらった手前、言えないかもしれないから気をつけないといけなさそうだ。だから……今回だけはもう少しだけ、ね。


「守るって言葉は嘘じゃない。ただ事情があって唯以外、信用してないからさ」

「仕方ないですよ。……私も男性を信用できませんし」


 菜沙は少し曇った笑顔を浮かべたが、俺の撫でる手に身を委ね普通の笑みに戻った。気にはなるが、それを言いたくはないのだろう。それなら聞かない方が吉だ。俺だって話したくないことは一つや二つではないし。


「もしかしたら似たもの同士なのかもな」


 笑いながら菜沙に言う。

 こうやって出会うことは元から決まっていて、そして仲良くなることも定められていた可能性だってある。まぁ、そうだったら面白いなってだけで本気でそう思ってはいない。


「そうですね、洋平先輩」

「ああ、菜沙」


 少しだけ、菜沙は頬を赤らめた。

 それを隠すためか胸元に顔を埋めてくる。本当に可愛らしい子だ。こんな子でも陰りを見せるような暗い過去があるんだな。……そっか、見ない振りをしていたけど俺以外にも不幸だった人はいたんだ。


「今だけは、このままでお願いします」

「少しだけだぞ」


 俺は菜沙が唯に見られているのに気付くまでの数分間、菜沙を撫で続けた。唯もして欲しそうに俺を見てたが、今回は無しだ。


「そういえば唯のステータスはどんな感じなんだ」


 恥ずかしそうにしている菜沙のために助け舟を出しておく。実際、疑問に思っていたのは俺だけじゃなかったようで興味津々に菜沙も聞いていた。「どうやってやるの」と聞いてくる唯にやり方を教えてみる。




 ____________________

 カナクラユイ

 種族レベル1

 ジョブ

 HP 350

 MP 150

 攻撃 185

 知力 155

 防御 125

 精神 125

 俊敏 225

 魅力 370

 幸運 100

 スキル 結界1、剣術1

 魔法 回復1

 ログ 表示する

 ____________________




 いきなり現れたせいで内心、驚いた。

 まぁ、それよりも唯のステータスが初期の俺より高い方が辛かったけどな。それにスキル欄もこの先、使えそうなものばかりだし……さすがは俺の妹ってところか。


「……変かな」


 唯は俺の顔を見てそう聞いた。

 機嫌でも探ってるのかな。……だとしたら、答えは一つしかないんだが。


「いや、いいと思う。俊敏が高いところを見れば伝達としても動けるし、結界とかで支援もできるな」


 少しだけ澄ました感じで返す。

 唯の中での俺は冷静で格好の良いイメージでなければならない。それに唯は生きているだけで存在価値があるんだ。何も出来なくても傍に居てくれるだけで俺は戦い続けられる。


「そういえばご飯作らないとね」


 唯がそんな言葉を漏らした。

 そのせいで俺と菜沙のお腹がなる。本当に似たもの同士みたいだ。


「唯、冷蔵庫の中に料理部の何かがあるはずだ。電気が通っていないとしても時間はあまり経っていないからな。中にあるもので適当に作ってくれないか」


 念の為にカセットコンロをテーブルの下から取り出し、倉庫からガスを三本置いた。だけど、ガスコンロの火をつけられたのを確認したからな。必要性はなかったらしい。


 一応、ガスセットは倉庫に入れた。資源に関しては有限だからな。というか、今更、思い出したけど拠点の能力で中の備品はそのまま使えるようになるんだった。そこを踏まえると拠点を出ない限りは食料以外に必要な物はないな。


「それじゃあ私も手伝います」

「一緒にやろー」


 本当に嬉しいんだろうな。

 笑いながら菜沙と唯の二人で料理を作り出した。主に肉を焼いている。後は少ない野菜か。こういう姿を見ると助けて正解だったなって思えてくる。


 今のうちに異次元倉庫のレベルを十にしておいた。野菜とかの生物が食べれなくなったら困るからな。中に入れたアイテムの時間が止まる最高レベルにしておいた方が後々、良さそうに思えたからだったが……まぁ、別にしなくてもよかったなってしてから思った。


 気晴らしにジョブのシスコンをタップする。

 今のステータスをジョブ一つで解決させられる可能性もあるからな。もしかしたら他のものにって、考えてやってみたが十数個のジョブの名前が羅列して少しビックリした。




 ____________________

 見習い槍士

 攻撃と俊敏、槍装備の時に補正がかかる。


 見習い魔法使い

 魔力と精神に大きく補正がかかる。攻撃と俊敏のステータス上昇量が少なくなる。


 見習い魔法剣士

 全てのステータスに若干の補正がかかる。


 見習い付与師

 魔法を武器に付与してステータスを上昇させる。全てのステータスに若干の補正がかかる。


 勇者

 固有ジョブ。剣術に大きな補正をかけ、またステータスを大幅に上昇させる。加えてレベル上昇時にステータス増加に補正をかける。

 ____________________




 まだ有るが使えそうなものはこの程度かな。

 まぁ、この中でなれるのであれば見習い付与師とかか。勇者は……何で俺にあるんだろうな。だが、強くなりやすいみたいだし悪くは無いだろう。最悪は三十レベルをを超えた時に獲得できる、セカンドジョブに入れればいいだろうからね。


 見習い付与師をタップしながらジョブ欄に触れさせてみる。ああ、成功だ。……なら、今度は勇者に変えられるか試してみよう。


 おし、成功だ。ステータスも三百近くなった。

 今は……勇者である事のデメリットよりも皆を守るためのメリットを取るべきか。見習い付与師にはいつでも変えられるし、勇者の方がステータスの伸びが明らかに高い。


 小さくため息を吐いて暇潰しにマップを覗いた。

次回は明日の八時の予定です。

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