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1章6話 生き残るためには

 売店の扉は閉まっていなかった。

 恐らくは売店のおばちゃんは逃げ出したからなのだろう。物を取りたい俺からしたら、好都合なだけだから寧ろありがたい限りだ。


「唯、菜沙ちゃんを頼む」


 唯が頭を縦に振ったのを確認してから菜沙を下ろした。もう立てるみたいで安心して売店の中へ入れる。仮に二人が危なくなっても俺を置いて逃げるか、中に入るかくらいなら出来るだろう。


 今更だが異次元倉庫の中の時間経過は極めて遅いらしい。物色しながら異次元流通のスキル欄から確認した。レベルが最高まで上がれば時間経過をなくすることもできるみたいだから……スキルと俺のレベル上げも視野に入れないとな。


 レベルが高くないとこの世界では生き残れないだろうし。


「そういえば俺以外の人もステータスを持っているのか」


 持っていないのなら何か条件があるのかもしれない。例えば……敵の撃破でレベルが上がるとか、か。もしくは明日になれば自動で獲得できるとかもありえそうだ。


「大体、こんなものでいいか」


 日用品、ティッシュとかそこら辺と、ペンなどの必要そうな物。後は食料とお金だ。


 一応、現金で七万と五千円もあった。少なめだけど、これだけで鋼の剣を買えるからありがたい。


 と、戦利品を見詰めている場合じゃないな。

 売店から外に出て、唯たちと合流した。


「お疲れ様……アレ? 手ぶら?」


 唯に開口一番に聞かれ少し悩む。

 見せてもいいが菜沙がいる手前、見せたくはないんだよなぁ。とはいえ、表情を見た感じ菜沙は分かっていそうだな。……いや、まぁ、こんな非現実的な世界になったんだ。多少は信用してあげるか。


「ちょっと見てろ」


 売店近くの自動販売機に向かった。

 横の鍵を開ければ開く部分、そこをグングニールを振り下ろし切る。扉だけが切れ中に重なった飲み物とお金が顕になった。


 飲料水、有名なメーカーの水を一本手に取って、唯の前に見せつける。見つめているのを確認してから……そのまま倉庫に入れて見せた。


 途端に唯が目を見開く。


「あー、そういう事ね」


 これでも分からないならどうしようも無い。

 だが、ここまでされれば唯も何となく理解はできるみたいだ。こんな事なら俺の読んでいたライトノベルを貸しておくべきだったな。妹モノばかり借りていくだけで『なろう系』は一切、読んでいなかったし。


 読ませていたら塩対応では無かっただろう。

 とはいえ、一緒にいた時間が長かったからか、詳しく説明をせずとも理解は出来ているようだからな。これからオタク知識を埋め込んでいくことにしよう。


「菜沙ちゃんは分かるかな」

「……ゲームに出てくるようなオークがいたことからして……スキルか何かだと思います。私はそういうファンタジーな能力は持ち合わせていませんが……戦えていた先輩なら持っていてもおかしくはなさそうですし」


 少し不満そうな菜沙に首肯で返した。

 それにしても……やっぱり持っていなかったか。これは少しだけ調査しないといけなさそうだな。仮に唯が戦えるようになるのなら俺の負担も減って楽になるし。


「やっぱり持ってないのか」


 菜沙にもう一回、聞き直してみる。

 返ってきたのは俺と同じような首肯。申し訳なさそうにしている菜沙に笑って見せて、他の自動販売機も扉を叩ききって中身をあらわにさせる。全部回収してから二人と向かい合わせになった。


「……スキルがあるのなら……もしかして、ステータスもあるんですか?」

「そうだよ」

「まさか! それって私も取れますか!?」


 うおっ、いきなり手を取ってきたな。

 そのせいで菜沙の顔がすごく近い。……よく見るととても可愛い顔だな。タレ目の優しそうな雰囲気を醸し出しながらも、それを消さないポニーテールで可愛らしさを強調している。ちょっとだけ額が広く見えるせいで幼さも感じられるな。


 身長は唯とたいして変わらないが、話を聞くために頭を下ろしたのがいけなかった。


 すごくドキドキする。唯が嫌な顔してるのはわかるけど、それ以上にドキドキが勝ってしまう。


 俺ってここまで女性の耐性がなかったか、と自分を嘲笑いながら、「俺は少し異質だから」と二人に向けて言った。


「本音を言うと分からない、俺の場合は敵を倒してからステータスを貰ったからさ。一応、この槍を最初から渡された状態だったけど、その時はステータス無しで戦ったよ」


 もしも武器が無かったら……死んでいたかもな。

 まぁ、後から考えてみればっていうだけでどうなっていたかは今の俺には分からない話だけど。仮に死んだとしても唯以外、悲しんでくれる人はいないか。


「じゃあ、オークを倒せばステータスを手に入れられそうですね」

「分からない。菜沙ちゃんはステータスがほしいのか?」

「当たり前です! 先輩に迷惑をかけてばかりではいられませんから!」


 なるほど……ちょっとだけ見る目が変わった。

 俺としても戦力は欲しい。今でこそ一人で何とか出来る場面も多いが、それもそのうち一人では出来ないことだって現れてくるだろう。最初は何も出来なくても後々に戦えるようになるのなら寄生虫とは言えないからな。……面倒を見るのもありかもしれない。






 別に可愛かったからとかでは決して無いからな。


「それってもしかして昔みたいな事がするってこと」

「あー……気が向けばするかもな」


 あの時の話を持ち出してくるとは……。

 思い出すだけでちょっと嫌な気がしてくる。ただただネットゲームで兄貴達とクランを作って、ただただクランのランキングが高かっただけなんだけどな。……でも、クランは作りたいとは思えない。リーダーなりの嫌な思いだってするんだ。


「久しぶりにゼロさんと話をしたいなぁ」

「会えるといいな」


 もしも会えたのなら……。

 少しだけ考えてもいいかもしれない。まぁ、頼まれるなんて事も有り得ないだろうけどな。アイツらからしたら俺なんて裏切った最悪な存在でしかないだろうし。


「昔みたいな事……?」

「……悪いな、内輪話で。話は唯から聞いてくれないか。俺もやりたい事があるから説明する時間も惜しいんだ」


 嘘だ、本当は思い出したくないだけ。

 きっとバレているんだろう、それでも菜沙は頭を頷かせた。本当にいい子だ。やっぱり他の人に明け渡すのは惜しいな。


 俺は異次元流通を開いた。

 早めにやる事を済ませて菜沙のしたい事をさせてあげたいからな。えっと……まずは嗜好品等のアイテムを売ることから始めよう。嗜好品のほとんどが主にタバコだ、申し訳ないが俺はタバコアンチだからな。……何故あったのかは分からないけど察せはする。


 タバコは十二個入っている袋が七つ、それで一万三千円ちょっとだ。思いのほか安い。多分だけど売るとなれば税金などは売価に含まれないからだろうな。たばこ税を抜けば、この程度だとはいささかガッカリした。


 そこらに転がる車とかも売ればよかったか。いやいや、どうせ、二束三文で叩かれるのがオチだ。それに回収するのすら面倒くさい。


 とりあえずは六十万ちょっとあるからな。これなら二人の武器を買うことはできるだろう。菜沙も喜んでくれるだろうか……楽しみだ。


「説明、終わったよ!」

「お疲れ様」

「んーん! お兄ちゃんのためだからね!」


 この可愛さは人間国宝に値するな。

 それにこんな短時間で全部を話しきれるとはさすが俺の妹だ。いっぱい可愛がってやりたい。


「そうだ。菜沙ちゃんはゲームとかする時、好んで使ってた武器とかあるか?」


 変な考えを消すために菜沙に話を振る。

 菜沙は少し顎に手を置いて考えた素振りを見せてから、「双剣なら、好んで使ってました」と答えた。双剣か、確かにロマンはあるが……。


「リーチが短いけど戦えるのか」

「……わからないですけど、そっちの方が立ち回り方がわかるので」


 使い慣れている武器だから当たり前か。

 なら双剣でいいか。唯は別に鋼の剣で大丈夫だろう。まだ戦わなくてもなんとかなる。菜沙は戦う意思があるから別に気にしなくて大丈夫だろう。


 軽く操作をして一つのダンボールを目の前に落とした。二人は驚いて目を丸くしている。


 中を開けて対になっている双剣を手に取った。かるくMPを流せば片方は炎を、もう片方は氷を操っている。それをダンボールの中に入っていた鞘に戻す。


 派手さだけではなく能力も高い。比例して値段も四十万と高かったが。


「あげるよ」


 まあ、菜沙をうちのパーティーに入れてしまえばいいだろうし、最悪知っている子が簡単に死ぬのは寝覚めが悪いからな。戦う意思があるだけで買う理由にはなる。その子に高い物を渡して恩を売っておけば裏切りづらくなるだろう。


「……えっ、こんなにいい物を……ですか」

「ああ、戦える仲間は多い方がいい」


 ぶっきらぼうにそう答えて、俺はその二つを菜沙に無理やり手渡した。


 受け取れないとばかりに首を横に振るが、頭を撫でて言葉を返す。


「俺が持っていても要らないからな。使わないというのなら捨てるだけだが」

「……意地悪ですね」


 菜沙は俺の顔を見て嬉しそうに笑って見せて双剣をぎゅっと抱いた。これだけで菜沙を助けた意味があったように思えるよ。

次回は明日の八時の予定です。

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