1章3話 初めての窃盗
俺が向かっている妹の通う中学は中高一貫校だ。
だからなのかもしれないが、坂の中間あたりにはコンビニがある。急な坂道だから使う人は学生ばかりだろうな。普段なら使おうとはしない場所だったが……今は最初に行くべきだ。
そこでいくつかの用意をしなければいけないだろうしな。家を出たばかりだし着の身着のままだったから何も無い。準備をせずに乗り込むって言うのは馬鹿がすることだ。……いや、実際問題、何も持たずに乗り込もうとした俺も大概、馬鹿だったな。
見た感じ学校付近にオークはいるが、校内には入り込めていないようだ。これに関しては高い金を出して入れた私立学校ってだけはある。何人もの変質者を阻んだであろう高く厚い門のせいで入れないんだろう。
学校前の長い坂の中心にオークがいるのを見ているし、学校の門は閉まっている。それでも入り切られていないという確証はないがそうだと信じたい。準備もないままに突入して、妹が死んでいたはシャレにならないからな。出たくない外へ来たんだ、そんな阿呆な結末は絶対に許せない。
予定通りコンビニに着いた。まだ電気は通っているようで、コンビニの自動ドアが勝手に開いてくれる。
店員はいない、逃げたんだろう。
オークとかに荒らされた形跡もないから自由にできそうだ。恐らくは無人になって最初のお客様が俺ってところだろうか。
学校に着いたら篭城戦と洒落こもうか。
妹を強くしてから外へ出る。となると、色々と必要なものが出てくるな。
オーク相手なら俺がいれば安心だから……それ以外となると、お金と食料が要りそうだな。食料品は倉庫に入れればいいだろうし、お金は後々使う。あって困らないものはバンバン奪っておかないといけない。
盗みは初だが……こんな緊急事態で悪いことはするなって誰が言える。生き残るためなら誰だって何だってするだろ。……一応、警戒は怠れなさそうだ。今の俺からしたら正義を主張する人も魔物と似たようなものだからな。
とりあえず日持ちしそうな物を先に入れておく。
後に入れた日持ちのしなさそうなものを先に食べるようにしないとな。倉庫自体に何かしらの能力はあるだろうが過信は出来ない。そこら辺はしっかりと組み分けしておかないと。
調味料等も一応入れておいた。棚がガランとしている所を見ると、強盗が入ったようにしか思えないな。
いや、間違っていないか。今の俺は間違いなく盗賊のお頭といったところだ。少しだけ厨二病を疼かせるような言葉、悪くないなぁ。
お金に関しては……割とレジの中に入っていた。
十五万ほど……でも、無理やり開けられた跡があるから店員が逃げる時に奪ったのかもしれない。考えてみればレジを漁って十五万って少な過ぎるな。露骨に一万円札だけ消えていたのもそれが理由か。
悪いがもっとお金は欲しい。あって困らないし。
あー……奥の部屋の中なら金庫とかがあるかもしれないな。静かに受付の中に入ってみる。奥の扉の鍵は開いていた。中に人がいないようだから取っても大丈夫そうだ。
……電気はついていない。当たり前か。
電気をつけてみるが人っ子一人いやしない。いたらいたで怖いか。いなくてよかった。
金目の物は……結構あるな。
金庫や書類……金目というか売れそうな価値のあるものは幾つかある。なら、まずは金庫からか。このままこじ開けてもいいが……それで中身が壊れたら意味が無い。だったら、倉庫に入れてから売却してみようか。
成功だ、お金はお金で金額欄に入って、中の書類等はそれの価値としてのお金となった。何の書類かは分からんが、まあまあ高く売れたところを見るに重要な何かだったらしい。まぁ、個人情報や権利書とかが書類の中にあったのなら高く売れて当然か。
これで計五十万ちょっと。
犯罪を犯しただけのリターンとしては……ちょっと薄いな。一言で言って物足りない。
客が多く来るコンビニ一つから五十万は少ない気がするが……無いよりはマシか。最後に在庫とかを漁ってからここを出よう。
盗みは絶対にしてはいけないことだ。
そう日本国内で決められているからな。まぁ、そのルールというものも法律なんてものが機能していれば、の話でしかないが。所詮は守る人がいてこその法律やルールだ。誰も守らなければ生き残った奴がルールとなる。
異世界流通の武器の欄を見ていく。
魔槍グングニールレベルの武器はとても高い。安くて数千万、高ければ億を軽くいく。まだまだ買えそうもないな、残念。
ここら辺のグレードの武器を唯にあげたかったんだが……まぁ、法律が関係ない世界なら気にせずに血縁者であろうと結婚できるだろう。その時に膝付いてプレゼントすればいいか。
わざわざ早い段階で所持金を全て使って贈り物をする理由は無いだろう。
狙撃銃は数百万で買えるみたいだ。これならもう少しだな、デパートのお金を取ることでも考えておこうか。これに関しては俺の好みだ。男のロマンっていうやつだな。
おし、準備はできた。妹を向かえに行こう。
いつも億劫だった坂道なのに、今はそんな気持ちを抱かせない。歩いている途中で坂道の半ばにいたオーク三体が俺を見つけたようだ。うん、気持ちの悪い顔をこちらに向けないでもらいたい。
「ブオオオ!」
親の敵を見るかのような目で、俺を睨みつけながら突進してきた。こいつらには何もしてないと思うのだが。
「フッ!」
突進してきたオークの腹に鋼の剣を差し込んだ。
止まるまで刃を切り上げておいた。貫通こそしなかったものの、一体のオークは突進の速度を活かしながらなので、臓器がその裂けた腹から零れ落ちてきた。
汚い、ただそれ以外の感想はなかった。
二体は俺の行動を見て少し後ろに下がったようだ。恐怖でも抱いたのだろうか。その間に鋼の剣が刺さったオークは死んだ。オークの体のみを倉庫に入れて、突き刺さっていた鋼の剣は地に落ちた。
カラン、剣が地に落ちた音を合図に二体のオークは俺に向かってくる。
すぐさま鋼の剣を手に取りオークがどこから来ているかを確認した。前と右側からだ。
若干、右の方が早い。
右のオークの顔に甘く刺してから、地面を蹴り片手でオークの手を掴み、ぐるんと回転した。
前から来ていたオークは一度立ち止まり、右から来ていたオークは顔面には横一文字の大きな傷がついた。
いきなりのことであり、知能が低いからこそできた芸当だろう。二度目は多分ない。
次いで鋼の剣をオークの首に突き刺した。これで前から来ていたオークだけが残る。
急いで倉庫に入れたが、少し遅かったようだ。
「ガハッ」
体当たりをもらった。だがそこまでのダメージはない。よく見たら鋼の剣が俺の体の前にあった。
無意識のうちに軽くだけだが、攻撃を受け流したのか。運がいい。
流れを消さないように痛む右手に力を入れ、オークの首元に差し込んだ。
一応は全滅させられたけど……。
「流石にダメージが大きすぎたか」
軽く内蔵が逝った。骨も折れてる気がする。
だが、何でもある異次元流通が俺にはあるからな。アテはあるから検索欄に魔法のアイテムの名前を打って検索する。……あった、ポーションだ。
一万円で買えるから……オーク一体分だと思えば安い。
すぐに買って目の前にダンボールが落ちてきた。なんとか中を開け、大きさ十センチほどの瓶を取り出す。
中には少しドロドロとした緑色の液体が入っていた。見た感じ飲む気を失せさせるが……背に腹は変えられない。蓋を開け勇気を出して一気に喉に流し込む。
思いのほかマズくはない。ミントのような爽やかさがあって、好みが分かれるような味と風味。嫌いではないから別にいいが……少し残る匂いがあまり好めないな。このままキスとかは無理そうだ。
「……体は……治ったのか。早いな、さすがはゲームの道具」
そんな独り言を漏らしながら、オークの遺体を売却した。
次回は明日の八時の予定です。