1章18話
「ソイツはオークの進化版みたいな奴だからな。悪いが唯達じゃ役不足だ」
「確かに私達よりも先輩の方が強いですからね」
守るためには言うべき事は言う。
変な自信を持って危険な目に合わせるわけにはいかないからな。不服そうな顔をされたが菜沙だけは納得したように首を縦に振った。当たり前だ、スキルも扱えない唯が倒せる相手ではない。
「これでもオーク四体を任せるべきでは無いと思っているからな。仮に時間がかかるようであれば俺が倒す気でもいる。言いたい事が分かるか」
「それが安全に強くさせる方法だから、ですよね」
「そうだ、この世界はゲームと違ってコンテニューできないからな。一度の失敗はイコール死を意味する。もしも、俺の発言に不満を覚えるのなら圧勝して見せろ」
俺から言えることはそれだけだ。
こう言って俺がオークナイトに勝てなかったらキツいが……最悪は爆散させるだけだからな。負ける事は恐らく無いはずだろう。それにオークナイトの俊敏は二十そこらだ。全然、相手が格上でも勝機はある。
二人を連れて中学校前の坂道へ行く。
このまま降りていけば俺が入った門がある。上がれば一貫校の高校があるからな。もちろん、高校へ行くつもりはサラサラない。俺達が向かうのは学生専用の寮がある坂の先にある階段の下だ。
降りていくのも面倒なので飛び降りる。
高さからして……四メートルはあるだろうか。だけど、思いの外、足へのダメージはないな。ジンジンしたりとかも特に無いから意外と知れて良い情報だったかもしれない。
そしてその眼前、そこにオーク達はいた。
五体いるが……目で見てどれがオークナイトかは一目瞭然だな。明らかに覇気が違うし、持っている武器もしっかりとした鉄の斧と盾だ。どこから拾ってきたのか知らないがサッサと殺させてもらおう。
「炎鞭」
炎で形成した真っ赤な鞭。
それを使って四体のオークを俺の降りた壁へと叩きつけた。後は既に階段を降りきった三人に任せればいいだろう。五体とも唯達を見たせいで目を濁らせたが関係が無い。
「おいおい、お前の相手は俺だよ」
思いっきり飛んで棍棒でオークナイトを殴る。
吹っ飛んで後方へと飛んだオークナイトを追ってグングニールを取り出した。このまま刺し殺してやろう、そのつもりで刃を突き出したが思うように貫いてくれない。
「ブルゥアァァァ」
「なるほど、オークとは違うようだな」
さすがにオークと同じでは倒せないらしい。
でも、俺ができるのは別に槍で突き殺すだけではないからな。これが難しそうなら次は魔法で戦ってみようか。完全とは言えないが魔法の発動条件は理解したつもりだ。
「雷舞」
広範囲に流すのではなく一直線で飛ばす。
これで高威力な雷を味わうことになるはずだ。大きなダメージがあるようには見えないが痺れてはいるか。それだけ分かれば十分だ。次いで水魔法を展開する。名前を言わなくてもイメージさえ、しっかりしていれば出せるようだ。
だが、ここは高らかに名前を呼ばせてもらおう。
「水球」
どこからどう見てもただの水の玉。
でも、それでいい。俺が狙っているのはオークナイトをビショ濡れにさせるだけだ。少しだけ不安はあるけどイメージはしっかりしたはずだから成功しているだろう。
「雷舞」
もっと収束させた雷の一撃。
今度は先程よりも大打撃を与えたようだ。片膝をつき息絶え絶えになっている姿を見ると全てが成功したらしい。水も純粋な水だと電気を通さないから、わざわざ実験の時の水をイメージした。
こういうところで勉強してきた甲斐を感じる。
イメージ的には水の中に水酸化ナトリウムを混ぜ込んで球状に固めたからな。さすがに水魔法で作り出せるのは水だから異次元倉庫の中から重曹と石灰乾燥剤を水と混ぜて、その上澄みだけを取り出したからな。恐らくは残った沈殿炭酸カルシウムは異次元倉庫の中に残っているはずだ。
ってか、使えるものをコンビニで回収して正解だったな。
湿気取りとか使わないと思ったけど意外と使えるみたいだ。重曹は調理とか掃除とかで使えるから必要性はあったけど。
倒れる寸前のオークナイトの首を落とす。
首元は腹と違って柔らかいみたいだな。もしくは弱っているせいで切れやすくなっていたとかも有り得るのか。どちらにせよ、大した時間もかからずにオークナイトを倒せたぞ。
後は……三人だが、あっちも時間の問題か。
若干、莉子が撃ちづらそうにしているが仲間に当たってはいないし、より立ち位置を気にして動いているから確実にこっちの方が良い。
ただ前衛の二人には詰める時と下がる時の声がけとかはしてもらいたいな。それが出来ていないせいで莉子も撃てる時に撃てなくなってしまっている。
だが、今の三人を見るとやはり心強いな。
確かに俺レベルの強さは無いが間違いなく三人で生き残れるだけの力はある。お、丁度、菜沙が一体の首を落とした。特に苦戦することもなく倒しきれそうだな。……内心、ホッとした。
それで……倒せたようだが……。
このまま次の獲物を探そうか。一応、サッサと街に出たいから新しい拠点も欲しいし……そこを加味すると俺の家に招くのが良さそうだな。拠点の効果で親が入れないようにすれば大きな問題も出ないだろうし。
さてと、それが分かったのなら……。
三人の倒したオークとオークナイトを回収して片手間にマップを開く。近場に良い感じのオークがいる場所があるから次はここだな。
「どうだった?」
「まだ楽勝だね」
「次は一人がいいなぁ」
「少し疲れましたがまだいけます」
やはり、三人とも違った返答だな。
とはいえ、まだ大丈夫なら休まずに行くか。
「なら」
三人に顔を向けた時だった。
背筋が一気に凍る。嫌な予感……だけで済むのならどれだけ良かっただろうか。この感覚は生きていて数回あったかどうかのレベル。それこそ、幼い時に母から包丁を向けられる少し前くらいの死を覚えるくらいの恐怖だ。
「よーへい!」
首元に冷たい感触が伝わる。
ヒンヤリとした手が首に添えられているんだ。背中に柔らかい感触もあるが少しも嬉しくない。だって、俺はこの声の人物を知っている。
会いたくなかった人。
そして何よりも怖いのは……マップにも映っていなかった事。何度も何度も確認したのに近づいてきている様子は無かった。
「し、ず……」
「そうです、洋平の静です」
「な……んで……」
耳元で囁くように話をされる。
逃げ出したいのに体が動いてくれない。拘束されているわけでもないのに言う事を聞いてくれないんだ。コイツのせいで感じたトラウマが遠ざけようと言うのと同時に、同じくらい大きな恐れで何も出来ない。
「私は洋平を迎えに来ただけだよ」
「ふざけんなよ……裏切り者の癖に」
「うーん、それは違うんだけどなぁ」
早く、早く体の言う事を聞かせないと。
じゃないと、アイツが来てしまう。こんな世界になってまで会いたくない。まだコイツなら話もできるがアイツは、陽真は嫌だ。
「私は今も昔も洋平しか見ていないよ」
「嘘だッ!」
抱きつこうとしてきた時にようやく。
静から体を引きはがせた。とはいえ、最早、問答をするだけの時間は無い。サッサと三人を連れてクソみたいな場所から離れないと。
「唯! 全員でここから離れるぞ!」
三人のいる場所へと走って近付く。
最悪は抱えてでもここから逃げ出したい。そう思ったのだがまた嫌な予感がした。咄嗟に一瞬だけ足を止める。
一本のナイフが目の前を通る。
時間切れ、今の一撃でよく理解した。
「懐かしいじゃねぇか、洋平」
「ああ……久しぶりだな、クソ野郎」
階段の一番上、そこにアイツはいた。
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次回は明日の八時の予定です。
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