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1章15話 レベリング

「って事で、今日の目標の確認は終わり。後、莉子にはこれを使ってもらう」

「えーと……何これ?」


 異次元流通から鋼の短剣を四本取り寄せた。

 一応、投げ専用に使えるようにと三本多く買っっておいたからな。男としての矜持やプライドでしかないけど結構、高めの物にしておいた。それと高めのナイフホルダーも買ったから落ちてきたのは二つの箱だ。


「昨日、言ったよな。短剣の扱い方くらいは覚えてもらうぞって」

「あー……言われた気がするかも……」


 少しだけオドオドしながら笑顔を見せてきた。

 まぁ、昨日の今日で戦うってなったら確かに怯んだりするだろうな。昨日は全部、銃を用いた戦いしかしていなかったし。それで恐ろしいって感じるのも分かる気がする。


「昨日も言ったが近距離でタイマンでやるっていうことは覚悟がいるんだ。この世界においてそれがないということは死を意味する」


 この学校の生徒は死んだか、避難したかのどちらかだろう。悲鳴を聞いているわけでもないから詳しくは分からないし知る気もないけどな。


 だからこそ、全員が死ぬ事の恐怖を知らない。

 二人とも死ぬ思いはしていないだろうから。あったとしても目の前で教師が死ぬという、事象を目の当たりにしたくらいでしかない。


 ただ一歩外に出ればわかる。

 孤独になればわかる。

 小さく聞こえるオークの声や戦っているであろう音。何かを壊している音。


 それらが木霊して独特な雰囲気を作り出しているんだ。


「俺も生きていけるかはわからない。唯のためだったら命を投げ出す覚悟はしているし、菜沙や莉子を見捨てる気もさらさらない」

「……私はお兄ちゃんが死んだら」

「違うよ、そういう覚悟を持っているっていうことだから。戦う覚悟ってそういうものじゃないのかって話をしたいだけ」


 唯は黙った。

 菜沙と莉子も黙ったあたり、それだけの覚悟を持っているわけでは無いのだろう。俺だって口ではそう言えるけど本当に覚悟があるのかはよく分からないしな。とはいえ、死ぬ気で生きなきゃ簡単に死ねる世界である事には変わりない。


「遠距離の莉子をいつでも前衛を張る俺達が守れるとは限らない。だから、多少は自衛できる手段を手に入れなきゃいけないだろ。それは俺達三人も逆の事が言えるけどな」

「近距離だけではなく遠距離攻撃も手に入れなきゃいけないって事ですよね」

「そう。ただ今やっても器用貧乏になるだけだから後回しにはなってしまうけどな。でも、莉子に関しては既に銃での戦いは文句のつけ所も無いから先にやってもらいたいんだよ」


 昨日の莉子の戦いの殆どが一人でやっていた。

 つまり銃さえあれば一人でオークを倒す事に問題は特に無いって事だ。なら、今は先の不安を潰す選択を取っておきたい。莉子もブツブツ言っているけど何をすればやる気を出すか知っているからな。


「近距離で戦えるようになったら一つだけお願いを聞いてもいいぞ。もちろ」

「いっちょ、やったりますか」

「おい、最後まで聞けよ……」


 未だにブツブツ何かを言っているが。

 明らかに内容がマイナスな面からプラスな面に反転した。ってか、ものによっては女子中学生が言ってはいけない事も口にしているし。……あー、菜沙がそういう目で俺を見てきている。


「先輩って変態なんですね」

「勝手に決め付けるな。もちろん、条件は付けて俺の聞ける範囲にするに決まっているだろ」

「私に背中を預けると言ったのも、私の背後に回って好きな事を……」

「お前も話を聞けよ……ったく」


 どうしてこうも変な方向に考えがいくんだ。

 というか、菜沙は菜沙で変態なんだな。真面目な癖してエッチな事を考えているムッツリ系女子か。……それはそれでギャップがあって可愛らしくはあるな。


「とりあえずやる事も決まったし早く始めよう」

「そうだな、行こう」


 助け舟を出してくれた唯の言葉に乗り外へ出る。

 即座にマップをより詳しく見た。


 周りにオークはいない。となれば、少し遠出をしなければいけないだろう。


 よくよく見ればオークもちらほらといるだけで、みんなのレベルを大幅にあげるなんて到底不可能だ。


 職員室の周りにオークはいないところを見るに男子達が戦って経験値を得てるんだろうな。まぁ、いたとしても近付きたくないが。


 下層に行くか、もしくは危険を承知で体育館と同じ階の三階に上がるか……三階のオークの数はかなりいるからなぁ。降りてくるのを待っていたら他の生徒達が動き出しそうだし。


 一先ず、近場のオークを倒すのが良さそうだ。

 全員が拠点から出たのを確認してから先を歩く。薄らと見えたけど思っていたよりもナイフホルダーを腰に巻いた莉子が似合っていた。とはいえ、拳銃も横に指してあるのを見ると少しだけ怖いな。さすがにセーフティは付けていると思うけど。


「どこに行くつもりですか」

「まずは近場のオークの殲滅をして……その後は外での戦闘かな。ずっと学校にいても敵は少ないだけだからな」


 適当な理由をつけて外へ出るようにしておく。

 まず持って学校にいると会いたくない奴に見つかる可能性があるからな。それこそ、俺なら小夜先生、菜沙なら西園寺とかいう男とか。加えて三人がいる状態で三階に行くのは自殺行為に近い。


 三階のオークの数が一番、多いからな。

 ましてや、そこにいる奴らが他の階の魔物に比べてレベルも高い。恐らく三階で獲物を手に入れられない雑魚が下の階へと降りてきているのだろう。そう考えると近い将来には二階、一階も奴らの陣地にされるのか。


 その時に小夜先生はどうなってしまうんだろう。

 ……もちろん、酷い目にあって欲しくはある。別にそれ以上の気持ちは特に無いさ。アイツは敵であって情けも何もかけるべき存在では無い。


「まあお兄ちゃんのことだから、なにか理由があるんでしょ。それなら従うよ」

「寝る場所とかがあるなら別に構わないよ」

「私は先輩に従うまでですから」


 色々な返事が来たが反対派はいないようだ。

 そうそう、もう一つ言わなければいけないことがあった。


「後、俺はオークに殺されそうな人を助ける、なんてことはしない」

「それでいいと思う。こんな世界で助け合いなんて馬鹿みたいな話だからね。どうせ、危なくなれば囮にするような人しかいないよ」

「そうだな、それに変に頼られてもウザイだけだし。言ってしまえば菜沙は例外中の例外だ。それが当たり前ではないって事だけ伝えておく」


 少しだけ菜沙の表情が強ばった。

 俺への見る目が変わったのか。だが、俺も考えを曲げる気は無い。三人でさえもギリギリだろうにこれ以上、増えてしまったら何も出来なくなってしまう。それだけ俺は弱いんだ。


 そんな些細なイライラをオークにぶつける。

 棍棒で何度も何度も叩いて、そして足を砕いて動けないようにした。その後に唯に殺すように指示を出してトドメを刺させる。本当にサクッと剣を刺しただけで死んだから俺の攻撃て瀕死だったらしい。


 そのまま次のオークをぶん殴って瀕死にする。

 菜沙に指示を出してトドメを刺させてから新しいオークに標的を変えた。とりあえず、二階にいるオークを狩り尽くしたから階段まで向かい、一階へと降りる。


 次は一階のオークを狩り尽くしてしまおう。

 オークの死体ってかなり高額だからな。経験値にしかしない他の奴らに渡すくらいなら全部、俺達の物にしてしまおう。残り三体ってところで一回ずつタイマンでの戦いをさせればいいし。


 とりあえずルート取りはこんな感じか。

 この階にいる生存反応は特に無いし、変に動き回ったとしても見つかる事は無いはずだ。できる限り一体ずつを三つ残せるようにしたいから……確認したけど大丈夫そうか。


 って事で、次の獲物をっと。


「喰らえ」

「ア゛ア゛ア゛ーッ」


 何回も何回も脳天を叩いて唯に殺させる。

 何か、ものすごい変な顔をされているけどおかしな事でもしたか。まぁ、いいか。次は……オークが二体の場所だな。今と同じようには戦えないだろうから少し準備をしておこう。


 歩きながら使いたい魔法のイメージを練る。

 そして二体が視界に入った瞬間に放った。


「雷舞」


 床の上を電気が走った。

 その先にいる二体のオークに当たって痺れさせてからすぐに走って……。


「ほいほいほいっと」

『ア゛ア゛ア゛ーッ』


 二体の脳天を交互に叩いて瀕死にする。

 それを唯と菜沙に殺させて回収して……そしてまた次の標的を倒す。一応、一時間もかからずに一階のオークは三体を残して殲滅させた。これで全員のレベルが五になったから大丈夫そうだろう。


「おし、じゃあ、次は唯から順番にオークを倒してもらう」


 唯は少しだけ緊張しているようだ。

 だけど、軽く頭を撫でたら勇気が出たみたいで剣を構えて戦う姿勢を見せ始めた。殺す時にも躊躇っていたから素直に戦えるようには思えないが、これも一つの試練だからな。甘えさせるだけではいけない。


 さてと、戦いぶりを眺めさせてもらおうか。

次回は明日の八時の予定です。

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