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1章14話 短い休息

「なに考えてるの?」

「ここを選んだのは正解だったなって思っていただけだよ」

「お兄ちゃんがここって決めたなら、その勘が外れるわけがないよ」


 その自信はどこから出てくるのだろうか。

 唯の顔を見る。俺が黒だと言えば黒と信じてくれるような可愛い女の子。本来ならば俺は兄として正してあげるべきなんだろうな。……でも、ワガママだとしてもこのままでいて欲しい。


 俺からしたら唯はただの天使なんだ。

 俺がここまで生き長らえてしまった一番の理由が唯だからな。最悪な親から守るためにも、そして最後の最後まで俺を助けようとしてくれたのは唯だった。こうやって言ってくれるのも俺の自己肯定感を高めるためだろう。


「見つめられたら恥ずかしいよ」

「恥ずかしがっている姿も可愛いな。どこからどう見ても天使にしか見えない」

「うん、お兄ちゃんの天使だからね。頭を垂れよ」


 無い胸を張って偉そうにする唯。

 そういう事をしている暇があれば、未だに料理を頑張っている菜沙の手伝いをすればいいというのに。とはいえ、大半は終わっているようだから問題も無さそうだけど。


「過去も未来も、唯が天使なのは変わらないよ。唯と同じくらいに大切に思える人は出来たとしても、唯より大切に思える人は絶対に出てこない」

「そうだと、嬉しいな」


 息を吹きかければ消えてしまいそうな。

 それくらい儚い笑顔を唯は浮かべた。何か唯の心を傷つけるような事を言ってしまったのだろうか、それとも何か思う所があったのか……どちらにせよ、唯に聞けるような話でも無い。


「あ、ご飯ができたみたいだね」

「ご飯!」


 静かだったトイレから大きな声が聞こえる。

 暗い空間をどうにかして変えたかったのだろう。だったら、俺もこれ以上は引きずる気持ちにはなれない。


「アイツ、絶対に寝ていたな」

「いつも遅くまで寝ているから仕方ないよ」

「こんな世界になってしまった以上、そうも言っていられないだろ」


 唯の頭を軽く撫でてからトイレに向かう。

 また眠りそうになっているかもしれないからな。何度かノックをしても出て来なさそうだったので大きな声で「ご飯抜きにするぞ」と言ったら咄嗟に出てきた。ボーッとしながら朝食の並ぶ椅子に座ったので俺も席に着く。


 俺と唯が隣同士で対面に莉子と菜沙が座った。

 並んでいる料理はご飯と味噌汁、そして俺が作ったオムレツや菜沙が作ってくれたであろう小さな焼き魚とほうれん草のお浸しがある。


 素直にどれを取っても美味しそうだ。

 それは莉子も同じ意見のようで普段はしない迷い箸をしていた。別に今いる空間ならばマナーを強いるわけではないから注意はしない。寧ろ俺も無意識的にしてしまいそうなくらい豪華だ。


 とりあえず喉も乾いたので汁物を手に取る。


「……美味しい」

「それなら良かったです。出汁をとった甲斐がありました」


 この短時間で出汁をとっているのか。

 そう考えるとますます、すごいな。確かに幾つも鍋とかを使っているから並行進行で作ったのだろうけど、俺だったら多分、できない。これだけ美味しい食事を作れるのなら余計に手離したくないな。


 それに無い胸を張る菜沙も可愛らしくて良い。


「無くて悪かったですね」


 これが俗に言う女の勘というやつか。

 それとも視線で菜沙の胸を見ていたか。

 どちらにせよ、中学生の割には胸がでかいからって嬉しそうにする莉子と、菜沙以上に小さな唯が視界に入りちょっと困惑する。俺からすれば唯が理想の女の子だからな。それを加味すると……。


「悪いな、菜沙が可愛くて色々なところを見てしまった」


 胸の話は特に否定はしない。

 見ていたとしても謝るのはおかしな話だし、小さくとも菜沙を見ていると癒される事には変わりない。ってか、菜沙が胸を気にしているのは驚きだな。俺からすれば胸よりも顔や性格の方が大事な気がするのだが。


 女子にとっては胸もステータスのうちなのかもしれない。次から気をつけよう。とはいえ、無意識的に出てしまったのならどうしようも無いけど。


「じゃあ胸は気にしないんですか?」

「別に菜沙の胸が小さくとも俺は気にしないよ」


 うぇっ、叩かれた。

 ステータスを手に入れたからか、結構、痛いな。こんなところで菜沙の成長を知りたくなかったよ。そんな団欒を楽しみながら今日の目標の説明とかをした。食後に片付けや休憩などに少し時間を割いてから各々、武器を取る。


「もう一度、今日の目標の確認をしたいです」


 四人が集まってすぐ菜沙にそう聞かれた。

 こういうところで菜沙がものすごく真面目なのが伝わってくる。それに自分で覚えたつもりでも抜けている部分がある可能性もあるからな。本当に頭の回る良い子のようだ。


「今日の目的は全員のレベル上げだ。俺以外の三人のレベルを五まであげたいのと実戦経験を積んでもらいたい。だから、戦うのはあまり群れていない、レベルが低めのオークを選ぶつもりだ」


 俺の言葉を聞いて菜沙は何度か首を縦に振った。

 自分の持っている情報との違いを確認しているのだろう。最後の最後で首を縦に振ったあたり特に問題は無かったらしい。とはいえ、少しだけ震えているようにも見えるが……。


「……実戦経験を積んでもらう、という事は個々で戦ってもらうつもりなのでしょうか」

「戦えるかどうかを確認したらやってもらうつもりだ。まあ莉子はもうやってるから主に二人が、だね」

「既に莉子さんは一人で戦っているのですね」


 少し驚いたように莉子へ視線を送った。

 それに対して莉子は少し恥ずかしそうにしているけど否定はしない。武器が近距離か遠距離かって違いはあれど莉子は充分、一人で戦えるからな。それこそ、俺がやれという前に倒している場面も多々あったし。


「とはいえ、莉子は唯と菜沙よりレベルが高いからな。まずは二人のレベルを上げてからやってもらう」

「事故が起こらないようにするため、ですね」

「ああ、その通りだ。俺からすれば三人には強くなってもらいたいという気持ちはあれど、怪我をしたり死んだりされるのとかはゴメンだからな。それに危ないような場面があれば助けもする」


 俺からすれば誰も欠けずに強くなりたい。

 唯や莉子はもちろんの事、菜沙もいたいと思ってくれるのであれば手離したくないくらいの逸材だからな。こうやって手伝いもしてくれるし、俺の考えを一番に理解しようと質問も多くしてくれる。


 俺がリーダーなら菜沙は参謀に近いか。

 戦える参謀になりそうってところを踏まえるとやはり良いな。こうなってしまった以上は使える存在は手元に確保しておきたいって言うのが本心だし。一人だとできる事にも限りがあるからな。


「それは……私も大切だと言いたいのですか」

「気に入っていると言った方が正しいな。少なくとも背中を預けられる存在だとは思っている」

「それは……光栄です」


 というか、気に入らなければ拠点に入れない。

 好きだとか嫌いだとかは唯以外に抱かないようにしているから、それ以外の言葉で表すしかないんだ。誰も彼も絶対に裏切らないというわけではないのだから。


「って事で、俺はコレを使う」

「えーっと……これって棍棒……?」


 唯の不思議そうな声に俺は首を縦に振る。

 今回は物が大きいからか、箱には入っていないみたいだ。そして買って出てきたものも皆が不思議がるのも当たり前の代物。棍棒を使う人なんて怪力の人くらいだろうし。


「テイム、つまりオークとかの魔物を使役するために使う棍棒らしい。どれだけ敵を殴っても相手を倒す事が無いから魔物使いはコレを使って魔物に言う事を聞かせるらしいな」

「うわー……拷問器具みたいなもので怖いね」


 あー、それは確かにそうだ。

 これって裏を返せば絶対に生物を殺さないって事だもんな。例えば敵対勢力の誰かを捕まえて情報を得ようとする時とかに……そう考えると禍々しささえ感じてしまう。


「だけど、これを使えば皆に効率的にレベルを上げてもらえるだろ。オークくらいなら俺で十分だからな。一撃だけ与えて皆に倒してもらえば簡単に強くなれる」

「そして、その後に魔物と戦ってもらう、と」


 これが一番、安全な手だと思ったからな。

 ってか、こうでもしないとわざわざ面倒くさそうな勇者とかいうジョブに就いた意味もない。どれよりも強くなれるジョブなら最初のうちに活用すればいいし。強くなったら他のジョブに変えて安泰に暮らすだけ。


「それとも皆は嫌かな。最初から魔物と戦ってみたい?」

「撃ち殺すだけだから大丈夫!」

「お兄ちゃんがやれって言うのならするよ!」

「そこまで面倒を見てもらえるのであれば甘えたいですが、戦えというのなら従うまでです」


 おーっと、思ったよりも好戦的だな。

 俺が言えば戦うか、唯は兎も角として菜沙もそう言ってくれるとはね。だが、甘えたいって気持ちがあるのなら別に良いだろ。


「菜沙、それは甘えじゃない。俺は菜沙を生かそうとしているから提案をしたんだ。菜沙は俺の提案に乗るか、拒否するかを迫られているだけ。これは俺の優しさじゃなくて菜沙に試練を与えているんだよ」

「うわー、ツンデレお兄ちゃんだー!」

「ツンデレじゃなくて本当の事だ。戦いたいという気持ちが無い人に戦うことを強制しているんだからな。そのための前準備として強くさせてやるってだけの事」


 全員が暖かい目で見てくるんだが何なんだ。

 俺の言っている事って別に変じゃないだろ。それとも何だ、全員が俺の言っている内容が甘えたいのなら甘えればいいって聞こえているのか。それだと俺の言いたい事の趣旨とは変わってきているんだがな。


「どちらにせよ、甘えとかは考えるな。菜沙は俺の提案に乗るか、乗らないかだけを答えればいいんだ。もちろん、意見があるのなら聞くからな」

「乗りますよ。乗らないという選択肢が無いくらいに魅力的な提案ですから」

「なら、そうしよう。唯と莉子もこれでいいよな」


 二人とも首を縦に振った。

 おしおし、これで今日の目標は達成できそうだ。

次回は明日の八時の予定です。

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