1章12話 未来への一手
もう少しで本当に書きたかった部分を入れる……でも、暑過ぎて体が言うことを聞いてくれません……。
「ついたぞ」
ようやく調理室に着いた。
中に入る前に拠点の能力で莉子のデータを追加しておく。そのまま横開きの扉を開いて先に莉子を進ませた。
「唯!」
「あっ莉子ちゃん! 心配したんだからね! 上から発砲音が聞こえたし」
「あっ、それ私だよ」
莉子が唯に抱きつく。
それまではいいんだが目の前にパイソンを出したせいで、唯と菜沙が「ヒャッ」と可愛らしい悲鳴をあげてしまった。まぁ、剣とかには慣れ始めてきただろうけど銃に関してはなぁ。元の世界であっても見ることも無い物だっただろうし。
「あっ、ごめんね」
「本当に……びっくりした」
唯はちょっと怒っているみたいだ。
まぁ、軽く頭を撫でてあげたらプクーっと頬を膨らませるだけで何も言わなくなった。となると、後はもう一人だな。
「菜沙ちゃんも大丈夫か?」
「ちょっと驚いただけです」
フイっと顔を背ける菜沙。
本当は怖かったのか少し体が震えている。この子はこの子で可愛らしい反応をしてくるな。……なぜか、唯と莉子から非難する視線を向けられているけど。
「はいはい、大丈夫大丈夫」
「……ムカつきます……けど、ありがとうございます」
素直じゃない奴だ。
俺も人のこと言えないが、せめて拒否するのなら嫌な顔のひとつでもして欲しいものだ。ちょっとだけ口角が上がっているのを俺は見逃していないからな。
「……そういえば『莉子を連れて戻ってくる』って言ってたけど、なんで莉子がいるのがわかったの?」
「あー、それは俺の持っているスキルの力だよ。それで周りを確認していたら上川莉子って名前があったんだ」
言ってから気づいた。
教えるのは時間の問題だったが、それで、そのスキルを使って生存者を、とか言われてしまったら俺はどうするべきだろうか。唯と莉子は長い付き合いで多分、そういう事は言わないだろうが菜沙から頼まれてしまう可能性だって……。
「……一つだけ知りたいことがあります」
菜沙の声に少しビクッとしてしまった。
でも、そんなことは意に返さないといったように菜沙は俺の目をしっかりと見つめてくる。ちょっとだけ長い沈黙が続いて……何かを決心した顔を見せてから口を開いた。
「西園寺流星という人は死んでいますか?」
一瞬だけ心臓が跳ね上がった。
聞いてきたことは生きていますかじゃなくて、死んでいますか。それが俺の頭で反芻される。死んでいますか、ということは生きていて欲しくないとも取れる言い方をしている。つまりは……助けてあげてほしい訳ではないってことだろう。
マップで西園寺流星と検索をかけてみる。
いた、職員室だ。十人ほどの女子と七人の教師、そして小夜先生もいるみたいだ。さてと、そのまま答えるべきか否か……はぁ、隠しても意味の無い話だよな。
「……生きてはいるみたいだ」
「そう……ですか……」
目に見えて菜沙の表情が暗くなった。
「……死ねばよかったのに」
そんな小さな声が調理室に響き渡った。
きっと流星とかいう輩が菜沙に陰りをもたらす存在なんだろうな。一層のこと、殺して首だけを見せてやろうか。……まぁ、そんな事を頼まれていないからするわけもないが。
「……事情は知らないが今のところは合流する気はないからな。俺の嫌いな教師も同じ場所にいるみたいだし」
実際、他の人と関わりを持つ気は無い。
菜沙は例外だったし何よりも悪い子では無いからな。それだけで多少は助けてあげる気にはなれる。
こんなクソ学校へ通うには勿体ないほどの存在だと思うよ。
だって、良くも悪くもこの学校の教師は、この学校の付属の大学で資格を得てここで働いている。つまり、外の世界を知らない人が多くいるんだ。
そして昔からこの学校では教師の暴挙が多発していた。今の暴挙を行う教師はそれに影響されていた生徒であり、今は教師となって同じことを繰り返す。良い奴もいるかもしれないがそれは限りなく少ない。あの時だって見て見ぬ振りをする人しかいなかったし。
この学校の教師は屑ばっかりだ。
最初に死んだ若い男の教師だってそうだ。成績を餌に女子生徒を食っていたんだからな。少し調べればボロボロでた。あいつも唯に手を出そうとしなければ……はぁ、そんな証拠も世界が終わったせいで意味も無くなったけどな。
菜沙は何も言わない。
「はい、ここまで。暗い雰囲気は好きじゃないよ」
「……はぁ、唯の言う通りだな。今は生き残ることだけを考えよう」
笑いながらそう言うと菜沙も笑い返してくれた。
何度も言うが俺は菜沙がどんな過去を持っていようとどうでもいい。問題は今の菜沙が好める存在かどうかだ。過去に人を殺していようと一緒にいたいと思えるのならそれでいい。
「……そうですよね。考えていても仕方ないですよね」
「そうだ、今は四人で生き残る算段を立てよう。オークを倒しさえすれば、食料も問題ないからな」
それは事実だ、金さえあれば何とでもなる。
今の世界では少しの価値も無い貨幣、それが俺には重要なものなんだ。これ程までに今の世界とマッチした人はいないだろう。
「あ、ごめんなさい」
グゥと大きな音が鳴った。
すぐに謝ってきたから誰の音かは分かっている。それに当の本人は恥ずかしそうに俯いているし。そういえば助けたばかりで今の今まで食事なんて取れていないだろうな。安心したせいで緊張感でも解けたか。
「……お腹が減っているのか」
俯きながら首を縦に振り返してくる。
となると、まぁ、良い機会だ。俺も運動をしたせいで腹が減ってきたからな。さすがに米とかの重いものも胃の中に入れたいし。それに莉子一人だけ食事を取らせるのも気を遣わせそうでいいと思えない。
「私もお腹が減ってきちゃったよ。まぁ、莉子がいるのならもう少しだけ作らなきゃいけないだろうけどね」
「ああ、それなら丁度いいな。俺も何か食べたかったんだ」
俺と唯はこれで問題は無し。
チラッと菜沙に視線を送ったら「私もです」って言っていたから問題は無いだろう。ちょっとしたお礼も兼ねて俺のスキルで皆にご馳走してあげるか。
指をパチンと叩き見えないように異次元流通を操作した。二個のダンボールが落ちる。落ちてきたダンボールを開き、その中身を出す。注文通りパック詰めされたマグロやサーモンだ。
暗い雰囲気を無くさせるためには美味いものを食う。
俺の中での最高に美味いものほどこれだからな。世界壊滅記念、加えて菜沙と、いや、皆と会えたことを祝っての楽しいパーティだ。後はデザートでも食後に買って皆で食べて寝ればいいだろう。
「要らないものを売って、欲しい物を買える。それが俺のスキルだ」
「お兄ちゃん、すごい」
唯から拍手される。次第に影響を受けたのかパチパチと三人が拍手をして、丁度三十秒後、拍手はやんだ。
「まあ、こんな風に俺は少しだけ特別だからな。食料とかだって一緒にいれば困りはしないだろう。だけど、いや、だからこそ、寄生虫や俺の嫌いな奴を近くにおいておきたいとは思わない」
「それはわかってます」
菜沙が先程よりも大きな声で返事をした。
大丈夫、今の菜沙を見ていたら俺の期待通りの活躍をしてくれるって分かるからな。この子は寄生虫でもなんでもない、大切な俺の仲間になってくれるはずだ。
「三人とも、戦って強くなって生き残ってやろう。オークなんか簡単に殺せるくらいに。皆なら俺の期待に答えてくれるって信じているからな」
そして俺はアイツを、陽真を殺すために。
そんな暗い気持ちを隠すために唯達と調理を始めた。お腹が減っていたからか、莉子は椅子に座って蹲ってばかりだ。近くで耳を澄ましたら「お腹が減って力が出ないよ」と某人気アニメの声真似をしていたし元気ではあるんだろう。
刺身を切るのは二人に任せて俺は他の事をする。
まずは皆のご飯、これは残ったとしても冷やしておけば明日も食べられるから問題は無い。他に取り皿とか、刺身用の醤油皿とか……そこら辺を机に並べていく。後は酒でもあればもっと良かったが流石に菜沙の前では飲めないと思ってやめておいた。
刺身が並び始めてご飯も出てくる。
それが本当に嬉しいのか、力が出ないさんはヨダレを垂らしながら今か今かと待っていた。まるで「待て」をされている犬みたいですごく可愛い。現に食事の殆どは莉子が食べ切ったからな。二人が残したご飯まで平らげてケーキも三つ食べてしまった。
……昔は、こんな子じゃなかったような気がするけど元気なのはいい事だ。うん、きっと、そうだよな。
今度からはもうちょっと量を増やそう。
俺は幸せそうに歯を磨く莉子を見てそう決心した。
次回は明日の八時の予定です。
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