1章9話 昔馴染み
日曜日なので今日も二回投稿です!
楽しんで読んでいただけると嬉しいです!
パッと見た感じ変化は無い。
ただ料理室に関して言えばタップすることで変化が分かる。拠点の能力の影響だろうけど『金倉洋平の拠点』として中に入れる人の名前が羅列されていた。まぁ、俺と同じようにマップがある人の方が少ないだろうから特に意味は無いんだけど。
それでもこうしてみると面白い。
例えば隣の高校の体育館とかだと拠点ではなく陣地と書かれている。俺のように自分だけの空間にはしていないが中で人が生活をしている証か何かなんだろう。他には職員室、ここにはあの小夜先生がいる。野郎も同様に多くいるから変なことにならないといいな。……なったとしても俺には大した問題は無いが。
それを踏まえるとここに逃げたのは正解か。
仮に職員室に逃げていたら……俺は教師陣と敵対していただろう。ただの敵対なら別にいいが最悪は殺し合いになっていた可能性もある。他の女が犯されようが俺からすればどうでもいい。だが、その標的が唯になってしまったら……菜沙が標的になっていても恐らく我慢はできていなかっただろうな。
にしても……笑えてしまうな。
普通ならば生徒を助けるためにいる先生が今は役職を忘れ欲望に従う。死んでしまったアイツもそうだったけど所詮は職業なんて自分を縛る縄でしかない。まぁ、縄が無くても欲に飲まれる奴らだっているけどな。その点で言えば……。
「めんどくさ」
思考を放棄して唯と菜沙の元へと向かう。
わざわざ思考のリソースをアイツらに向ける理由はないからな。自分で自分の地雷を踏むくらいなら絶対に踏まなくて済む何かを見ていたい。それこそ可愛い二人の笑顔とかな。
チラッと見えた皿の上には塩コショウがかけられ焼かれた豚肉があった。こんなことなら米だけ先に渡しておくべきだったかもな。
「これで足りるかな」
「足りるんじゃないかな。まあ、足りなかったらサンドイッチでも食べればいいから」
パックご飯とかもあるからな。
そこら辺の話をするのであればかなり余裕はある。最悪は買うって判断も出来るし。
唯は俺の言葉を聞いて「わかった」とだけ返してきた。棚に入っていたナイフとフォークを水で洗い流してから布巾で拭き、皿の隣に並べる。
お腹が減っていたこともあり、すぐに食事を終え窓の外を見た。まだ暗くなっていない。
夕暮れまで一時間程度はあるだろう。
いっそ、レベル上げでもしようか。
俺自体、あまりレベルは高くないしな。
今の俺に足りないものは何だろう。……そう考えると色々と俺は足りない気がするな。
例えばポイントをより多く獲得できるスキル、もしくは金がたくさん稼げるスキルとかもあるといい。
だが、どちらにしても金やポイントがいる。
そこは元の日本社会と変わらないんだ。
世界を壊してくれと願ったのに根本は少しも変わっていない。小さくため息が漏れてしまう。気を紛らわせるために再度、マップで周りを見てみた。もう職員室とかは見ない。絶対に人がいなさそうな場所……ああ、そういえば……。
「アレ……?」
青い点が一つだけ見つかった。
もちろん、マップ内では菜沙も唯も青のマークになっている。だけど、他は赤ばっかりだ。職員室に至っては小夜先生を除いた教師全員が赤く染まっていた。……何で小夜先生は青なのかは分からないけどな。
それくらい赤の点が多いというのに……。
一つだけ真っ青と言っていいほどに明確に青く染った点がある。面倒事の気配を感じたけど無視する気にもなれない。何となくだけど見ないといけない気がするんだ。
やはり……というべきか。
青のマークは昔の知り合いだった。とはいえ、俺よりも唯の方が関係性が強いだろう。……その子がオークに追われている。ただのオーク四体で全てレベルは五……見捨てる訳にはいかないか。この子に関しては多少なりとも情がある。
「悪ぃ、ちょっと行ってくる」
「えっ、どうしたの」
唯に目配せをして笑う。
「食後の運動だよ。少ししたら帰ってくるから美味しいご飯でも作っていてくれ」
内心、楽しみなんだ。
その子といれた時間は間違いなく楽しかった。会えなくなって時は経つけど今でも思い出だけは頭の中から消えてはいない。大丈夫、確実に間に合わせる。三階までは時間もかからないからな。途中にいるオーク達を魔槍の錆にしながら最短距離を走る。
そのおかげでポイントもいくらかは増えた。個体差があるようで大きくポイントを得られる時と、そうじゃない時で分かれているようだ。だが、そんなことはどうでもいい。
コンピューター室に逃げ込んだ。
だが、そこから動かなくなっている。
嫌な予感がした。
オークも迫ってきているというのに動かないってことはつまり……無理やり扉を蹴破る。
「莉子!」
「え……」
名前を呼ばれた女の子は怯えていた。
それも当然だ、少し前までは化け物に追われていた身。戦えなかったら俺も同じく震えていたさ。だけど、今の俺は無力じゃない。
確かに俺の中では日本社会と今はさして変わらないかもしれないが一つだけ違うことがある。俺は前のような何も出来ない存在じゃないってことだ。
「安心しろ、敵じゃない」
「は、はい!」
目をパチパチさせて俺を見てくる。
まだ俺を思い出せてはいないようだ。それならそれでいい。俺を思い出した時に昔のような反応さえしてくれればそれで。
「隠れていろ。アイツらが来るから」
オークの鼻は良いみたいだ。
途中で見失っていたというのに今は迷わずにコチラに向かってきている。まぁ、確かに莉子は可愛いし、オークが追ってでも犯したい女として判定しても何ら不思議ではない。オークに美学センスなんてものがあればの話だけどな。
グングニールを持つ手に力を込めた。
可愛いのが分かっているとしても、莉子を怖がらせた罪をアイツらには受けてもらわないといけないからな。唯とは違うが俺にとっては妹みたいな奴なんだ。
少ししてオークの顔が見えた。
辺りを見渡したが莉子はもういない。隠れ切れたのだろう。さてと、それなら俺なりにしないといけないことがあるよな。
「お邪魔しますくらい言えよ」
気にせずに足を踏み入れてきやがった。
俺を威嚇しながらとはいえ……礼儀がなっていないな。なっていたとしても俺としてはお断りだが。それこそ邪魔するなら帰って、だ。唸り声をあげるオークに笑いかける。
「磔にしろ、水球」
五つの水の玉をイメージして放つ。
ここはコンピュータ室。火器厳禁だし、後で売る気でいるから壊されるような事はさせられない。なら、コイツらはまず壁に縛り付ける方が楽でいいからな。血とかで価値が下がるのも嫌だし、最悪それで売れなくなったら泣きそうになる。……いや、嘘だけど。
「死ねよ」
「ブアァァァ」
騒ぐだけで動くことすら出来ないオーク達。
あー、コイツらが俺の嫌いな奴らだと良かったのに。殺したいという意欲はないが生きていて欲しくはない。……ま、いっか。俺は俺なりの幸せを得るだけだし。
魔槍を横に一振して首を飛ばす。
崩れ落ちていくオークの亡骸を倉庫にしまいながらマップを確認した。コンピュータ室にフォーカスを当てて……えっと、そこか。
「ひぇ」
用具入れの扉を開けたら中にいた。
こんな狭い中に……それも莉子の小ささのおかげだろうな。可愛い悲鳴をあげて震えている莉子の頭を撫でておく。こういう時に何て言うのが一番カッコイイんだろうか。俺の好きな主人公とかだったら……そうだな。
「安心しろ、全部倒した」
「全部……?」
莉子が泣きそうな顔で頭を上げた。
至近距離で少しドキッとする。変わらず莉子は可愛らしいな。数年ぶりだけど何もかもが昔と変わらない。
「周りにいないだろ?」
「……本当だ」
「約束しただろ、近くにいる時は助けてやるからって」
そう言うと莉子の顔が一気に晴れた。
そうだよな、中学生の俺が莉子と交した約束だ。忘れてしまったら俺は針千本飲まされてしまう。少しも色褪せずに俺の頭の中にある。
「思い出したか? 川上莉子」
「ふふ……意地悪な所は変わっていませんね。お兄さん」
いきなり莉子に抱き着かれてしまった。
だが、少しも悪い気はしないな。安心したのか胸元で泣き始めた莉子の背中を擦る。こういう弱さも未だに変わっていないんだな。数分間、莉子が泣き止むまで頭を撫でたりして時間を潰した。
次回は今日の十八時の予定です。
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