プロローグ
この作品はカクヨムで書いていた、作者の処女作を大きく改変して、より読みやすく、面白く作り直したものです。
好みに合うかは分かりませんが楽しんで読んで頂けると幸いです。
暗闇の中、明かりは使い慣れたノートパソコン一つのみ。外の世界を嫌がって窓には板を立てかけているから仕方が無いだろう。一年や二年はこの生活をしていたから目だってもう暗闇に慣れ切ってしまった。
パソコンの画面には有名な実況者の配信がずっと流れ続けている。最近はプレイしているゲームにも飽きて面白味も薄くなってきたが……他に見たいものも今は無い。一応、最初のうちはやりたいこともあったけど長い休みの中で殆ど終えたし。小さくため息をつく、と同時に携帯がピンと鳴った。……メールだ。
『今日も学校に行かないの?』
妹からのメール……既読だけは付けておいた。
行かないの……ではない。
あいつらのせいで学校に行けないんだ。妹はそれを知っているのに俺に地獄へ行けと言っている。分かっているさ、優しいからどうにかして俺を真人間にしようとしているってことはな。でも、無理なものは無理だ。
少し思い出しただけでも吐き気を催してしまう。
一気に詰まらなく感じてきた。
すぐに動画を消してインターネットゲームを開く。動画は配信者の人が負けまくって気持ちよくなれなくなってきたから丁度いい。
「おはよう」
パーティメンバーからのチャット。
この人達には気を遣わなくていいから楽でいい。顔も姿形も知らないからな。いちいち小馬鹿にしてくる人もいないし……気分がとても楽になる。
ここだけが俺のオアシスとなっていることはダメなんだろうけど……もう少しだけこんな堕落した生活を続けていたい、そんな甘い考えに落ち着いてしまう。
「昨日の件、調べてくれた?」
ああ、それに関しては大丈夫だ。
携帯の指紋認証から電源を付け、履歴欄を確認する。確か今日、受けようとしていた依頼の攻略法がここに……いや、履歴欄を開くのは失敗だったな。
『楽に死ねる方法』
『気持ちを楽にする言葉』
生きたいのか死にたいのか、よくわからない履歴が目に入ってきた。そういえば……寝る前にこんなことを調べていたっけか。
楽に死ねる方法で検索をかけたって、変な宗教のありがたいお言葉にぶつかるだけだ。本当に知りたいことを知ることができない。
……萎えた、携帯を投げ捨ててパソコンに向き直す。適当にURLだけを送って席を外すことを伝えた。
その中で画面の端に何かが見えた。
またメールだったが……そのまま開いてみる。
『生きる事を楽しんでいますか?』
一言目にそんな事が書かれていた。
生きる事……そんなもの楽しいわけが無い。人が人を蹴落とし合い、負け犬という存在を作り上げる世界のどこを楽しめと言うのか。少なくとも負け犬に成り下がった俺の答えはノーだ。多少、イラつきながら下へとスクロールした。
『貴方はどのような世界を望みますか?』
どのような世界を望む、か。
もしも本当に全てが俺の望む世界になるのなら大好きな人達と一緒にいれたらそれでいい。誰からも攻撃されずに、幸せに生きて、真っ当な生活を送りたいな。……少しだけ長い改行をスクロールして最後の二文へ到達する。
『もしも世界が変わるのなら貴方はどうしますか? 興味があるのであれば是非、返信をください』
俺はふっと嘲笑の意味を込めて息を吐いた。
なんだこれは。馬鹿にするのも大概にしてほしい。もしも世界が変わるのなら何て、どこぞのライトノベルや小説サイトじゃないんだから変化なんて起こるわけがないだろう。……でも、その考えとは反して何故か心は弾んでいる。
だから馬鹿にする気持ちを込めて『世界を滅茶苦茶にして欲しい』と送った。どうせ冷やかしか詐欺メールだ。最悪は色々やって未成年です、でやり過ごそう。終わりの近い命だったからな。最悪は情報を取られても俺には関係が無い。
今は暇潰しさえ出来ればいいや。
すぐに返信が来た。
ポーンという受信したような音。すぐにパソコンを見たが何も映っていない。となると、メールじゃないということになる。なら何が……すぐに頭の中に語りかけるようなアナウンスが響いた。
『チュートリアルを開始します』
周りの景色が変わる。
間違いなく俺の部屋ではない。
まさかとは思うが嘘では無かったのか。
不意に目の前にtouchのマークが現れた。
よくわからないので前方をタッチしてみる。
なんか色々と名前が並んでいる。
……武器が選べるらしい。
特典として武器を一つのみ贈呈とかその類だ。一応は剣や弓、銃と他にも色々とあるが……ちょっとだけ悩むな。ただ、この中なら槍か、一応近距離、中距離で戦える武器の方が弱点が少なくて強いし。銃や弓も良かったが弾切れが恐ろしいから止めとく。近接だけの剣は以ての外だ。
例え死んでもいい、死んだとしても悲しむのは妹くらいだ。なんでこんなに落ちこぼれの兄を愛しているのだか。
昨日だって二人分のコーヒーを買ってきてくれたしな。
本当に可愛い。もし本当に世界が壊れたのなら、俺は絶対に妹を守るために強くなる。どうせ一度は捨てた身だ。最後くらいは派手にやってやろう。
『個体名、金倉洋平対オークの対決を始めます』
目の前に大きな二足歩行の鼻息の荒い豚が現れた。
見るだけで吐き気がしそうだ。嫌悪感が酷い。
俺の手にあるのは魔槍グングニール。
厨二心をくすぐられる真っ黒の槍だ。
うん、やってみよう。
俺は駆けた。
オークも向かってきたが、その大きな体躯のせいでとても遅い。ちょっとだけ太ったとは言え、ある程度は運動が出来た俺にはどうってことは無い速度だ。日頃、少しだが筋トレをしていてよかったと今更ながら思う。
グングニールを突き刺す。……瞬間、突き刺した左肩が爆ぜた。
なるほどな……武器自体がチートってことか。
それなら銃とかの方が楽だったか?
いや、今更、後悔あとに立たずだ。
切れたオークが俺の体を締め付けようと、抱きついてきた。
これでわかった。
オークは頭が悪い。だって、グングニールを構えているのに抱きついてきたんだ。普通に腹に突き刺さるのは分かるだろうに……。
うわっ、爆ぜた。
ってか、オーク死んだんだけど。
『金倉洋平の勝利を確認しました』
『特典を与え元の場所へ戻します』
そんな声とともに元の俺の部屋に戻された。
目の前に並ぶゲームのようなステータスを残していた。
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カナクラヨウヘイ
種族レベル1
ジョブ 1.
HP 100
MP 100
攻撃 100
知力 100
防御 100
精神 100
俊敏 100
魅力 100
幸運 100
スキル
ポイント 19873
ログ 表示する
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大きく未設定と書かれているな。
未設定だから初期値のステータスのまま、そんな感じかな。……初期値なのは良いんだがジョブが空白なのはバグか何かだろうか。それとも外へ出ない人間の最底辺だから何も無いとかもあるか。
それで……これはゲームでよくあるキャラクターメイキングなのだろうか。恐らく色々な部分が弄れるから似たようなものだとは思うけど。
じゃあ見た目も変えられるのか?
妹は可愛いのに不細工な兄って。いっそ顔を全て変えようか。少し筋肉質な体は変えなくていいだろうし。
いや妹に嫌われそうだな、やめておこう。
元の顔が好きだって言われそうだからな。
後、気になるのは……ログか。
表示するってことはオークを倒したことも出てくるのかな。
当たりだ。オークの撃破が書かれている。
適当に触って色々と遊んでみる。
えーと、とりあえずは俺には経験値の概念というものが無いのは分かった。経験値を手に入れる代わりにポイントが貰えるらしい。それでレベル上げや自由にスキルを獲得できるようになったって感じか。
……面白いな、貰えるポイント量もかなりのものだ。チュートリアルだけあって一万ほど貰えたらしい。
確かにステータスはレベルを上げればどうとでもなるから、どちらかと言えば強いスキルを手に入れられる方が格段と良い。まずは……補正するなにかが必要なんだろうな。それがあればステータスが低くてもレベル上げでなんとかなるだろう。
一応、ステータスをタップしたら説明も書かれていた。
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ジョブ→通常はレベル十を超えてから就けることが出来る。ジョブによってステータスへの補正がかかる。
HP→0になった時にその者は死ぬ。高ければ高いほど疲れにくくなる。
MP→0になった時にその者は倒れる。高ければ高いほど頭痛等に強くなる。
攻撃→物理的な攻撃のダメージを増やす。
知力→魔法的な攻撃のダメージを増やす。
防御→物理的な攻撃のダメージを減らす。
精神→魔法的な攻撃のダメージを減らす。
俊敏→行動する時の速度を早くする。
魅力→異性や同性からの好感度を上げる。ただし同性には聞かない時もある。、
幸運→色々なものに補正をかける。運が良くなる。
スキル→魔法などの非現実的な効果をもたらす。またはそれを使用できるようにさせる。
ポイント→ステータスをより良質にすることができる。金倉洋平専用の欄。行うにはポイントの欄をダブルタップしなくてはいけない。
ログ→今までの行動や履歴を見ることができる。
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言葉通りであったが、だからこそ嬉しい。
俺はポイントをダブルタップしてキャラメイクを開始した。
次回は本日の十八時の予定です。