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奥様に捨てられた伯爵様  作者: 三輪有利佳
15/16

ジョシュの誕生日  (番外編)

ちょっと影の薄いジョシュですが、実は私の好きなキャラクターなんです。

「ジョシュは何が喜ぶかな?」

 ローガンとアルフレッドはウィンドウを覗きながら相談しあっていた。


 来週はジョシュの誕生日なのである。


 仲の良いクラスメイトたちに既にパーティの招待状は送り終え、あとはプレゼントを決めるばかり。

 交流のあるカークランド家の従姉妹からは『私たちはジョシュ君に自転車という乗り物をプレゼントするわ。被らないように注意してね』と手紙を貰っている。


 自転車…そもそも手に入れるのも難しい最新の乗り物だ。

 それなりに高級な品物で王子様たちだってまだ持っていないものだと聞くのに、カークランド家の手腕の凄さには舌を巻く。


 活発なジョシュはきっと喜ぶだろう。だが、それを上回る何かをあげないといけないのだと思うとローガンもアルフレッドも頭を抱えてしまう。


 ローガンは今までで一番今回の誕生日プレゼントが難しいと渋い顔で溢した。


 アルフレッドは自分の誕生日プレゼントに母親が『カッコイイもの』を考えてくれていたのだなと思う。父親が買ってくれない分、短刀や大人びた文具品。

 まだ周囲があまり所持していない懐中時計。

 特注で誂えた防具。

 どれも友人たちから褒められ羨ましい!と妬まれた。

 ローズにはプレゼントを選ぶセンスがしっかりあるのだろう。


 それに比べローガンは

「兵隊のオモチャはどうかな?」

 子供っぽい。

「じゃあ、洋服にしようか?…」

 ありふれている。

「辞典を全巻揃えるのは?」

 勉強しろと言われているようで一番貰いたくないものワースト3に入る。


 残念ながら父にはそのスキルは無かった。


 否定はするが自分も良いアイデアがある訳ではなく結局その日二人はトボトボと家路についた。



「まあ!それで手ぶらで戻ってきたの?」

 ローズは困ったように笑った。


 カークランドの従姉妹たちに対抗するほどのプレゼントが浮かばなくって…とローガンも頭を掻く。


「母様はいつもどうやってプレゼントを選ぶの?

 今まで僕は一度だって要らないと思ったものは無かったよ。

 ジョシュには僕たちが初めて家族で祝ってあげる誕生日だから特別なものをあげたいんだ!何かアドバイスはないの?」

 アルフレッドは降参して母の意見を取り入れることにした。


 ローズはしばし考え込むとこう言った。


「その人が来年何を楽しんでいるかを想像すると良いの。

 例えば去年私はアルに短剣を贈ったでしょう?貴方が今年、森を探検しに行けるようなシチュエーションがあったらきっと楽しいはず!って想像したのよ。結局連れていってくれたのはローガンだけど、短剣を小脇に差して出発するアルは勇ましくて素敵だったわ!」


 ローガンもアルフレッドも衝撃であった。

 人気がある品物から選ぶことや、有名店の大きな箱を準備するのではなく、最新の玩具でもない。

 相手の未来を想像してその人が輝ける物を贈るのだ。



 アルフレッドはそれを聞くと暫く黙り込み、ローガンと二人、明日も出かけるとローズに告げた。






 誕生日当日。


 アルフレッドは自分が貰っているお小遣いで釣りの道具を買った。

 高級品は勿論買えなかったがジョシュと今度別荘地のそばの川で一緒に釣りができたら素敵だと考えた。

 だから竿は二本。


 自分のお小遣いを使ったのはジョシュと共通の趣味が持てたらこれから先楽しいだろうと思いついたからだ。

 たくさん釣れなくても良い。二人でお小遣いをやりくりしながら、リールやエサを買い足していく楽しさを味わいたいとも思った。


 ジョシュはとても喜んだ。


 アルフレッドと共通の話題がもっと増えることが楽しみで仕方ないと笑顔になった。




 ローガンは次の日も散々悩み同じ文官の同僚に相談したところ「いいものがあるぞ」と仕事帰りに家に呼ばれた。


 そしてその家で生まれた3ヶ月になる子犬に一目惚れして連れて帰ったのだ。


 毛足が長めなその犬種は足が早く、忠実で狩にも連れて行ける。

 アルフレッドの鷹とジョシュの犬。

 二人で生き物を世話するようになればきっと人間としても成長出来るだろうと思ったのだ。

 鷹を羨ましそうに見ていたジョシュであるが、性格的に犬のように楽しい時も悲しい時も寄り添ってくれるペットの方がきっと心の支えになる。

 そして結果的にジョシュは仔犬を見て大はしゃぎだ。


「お父様!!ありがとう!!僕に弟が出来た!!」

「ちゃんと面倒見るんだぞ。この子は教えれば狩も上手に出来るようになるし、芸も覚える。」

「わぁ!ジョシュ!凄くカッコいい犬になるみたいだよ!」アルフレッドは犬の辞典を取り出してみんなの前に広げてみせる。


 そこには細身で背が高いスラリとした狩猟犬の成犬時の姿が描かれていた。

 淡いクリーム色の毛並みと通った鼻筋はとても見栄えが良い。



 ありがとう!ありがとう!


 ジョシュは仔犬を抱え上げるとアルフレッドと二人で庭に飛び出して行った。



「ふふふ、二人ともプレゼント大成功ですわね。」ローズはサーブされたケーキを自分も一皿取ると紅茶をクララから受け取った。


 クララはお喋りが大好きな明るいメイドであるがとても気が利いているためそのうち侍女としても勉強を始めるであろう。


「アルフレッド坊っちゃまのプレゼントは胸が熱くなりますわねぇ。

 兄弟として今から関係を築いていくのだという思いやりが見えますもの。

 釣りだなんて…本当に賢くてらっしゃいます。

 旦那様も素敵なプレゼントを選ばれましたね。私自転車が届いた時には『こりゃ負けた』と思ったものですよ。」クララはやはり一言余計である。


 だが実際ローガンは思い付かず四苦八苦していたのでクララに言い返すことは出来ない。

 苦く笑いながらローズの方を見やった。


 このプレゼント合戦(?)でローズは誰の相談にも乗ってくれるが割と余裕ある雰囲気でずっと悠長に構えているのだ。


 勿論ローズまでプレゼントを準備する必要は無い。ローガンの手に入れた仔犬を両親からの贈り物とすれば良いのだから。

 だがローズはずっと何かプレゼントは既に用意している雰囲気なのである。

 ローガンはとても気になりローズの手元を覗き込む。

 するとそこには薔薇柄の封筒が一枚。



「君からの贈り物はそれ?」ローガンが覗き込むとローズはサッとその手紙を隠そうとした。


「何だよ?俺にも教えてくれないのかい?」

 ローズはその封筒を背中に隠した。


「喜んでもらえると思うんだけど、まだ分からないから渡そうか悩んでいるのよ。」

「もしかしてお金?」

「ローガンって時々ビックリするくらいお馬鹿さんね。」

 ローズの視線が冷んやりしたのでローガンは慌てて、冗談だよ!と手を振った。


「私にしかあげられないけど、少し大人になったジョシュには必要ないかも知れなくって、でも、私があげたいもの。そういえばバレちゃうかしら?」


 全く分からなくなった。


 ローガンはローズが働きだしたので正直に言うと『物』をプレゼントするとばかり思っていた。

 以前のようにお金に困窮している訳ではないし、ローズは元々裕福な家の出である。

 品物に対する審美眼は備わっており、食べるものひとつとっても『マカライア産のオリーブオイルじゃないと駄目よ。癖がない方がサラダには合うわ!』などとむず痒いことを言う。

 ローガンは使われているのがオリーブオイルなのかシードオイルなのかも調理後に出されたら判らない舌の持ち主だ。なのでジョシュには有名店の万年筆や洋服が届くのではと予想していたのだ。


 そうじゃなかったのか?と首を捻っていると二人が戻ってきた。


「この犬の名前を考える!!」

 ジョシュが元気な声を出す。

「そうだね!名前をつけてあげよう。そうしないとこの子混乱しちゃうかもしれないからね。」


 人懐っこい仔犬は庭に出ていた使用人たちの足の間も駆け巡り二人と大はしゃぎで駆け回っていたのだが、いざ帰ろうと呼び戻すときに全く声に反応しなかった。

「わんちゃん戻っておいで!!」といくら二人が叫んでも振り向かない。


 庭師のおじさんが『マルコ!!』と叫ぶとそっちを向き『エリック〜』とメイドが呼べば嬉しそうに尻尾を振る。

『アーサー!!』とアルフレッドが試しに呼べば耳の後ろが痒いのかガシガシ後ろ足で掻きむしったそうだ。


 結局メイド長が音の鳴る玩具をピコピコッと振ったらあっという間に2人の側へ戻ってきた。


 ジョシュはなんでも楽しいので『君はおもちゃが好きなんだね!』と笑ったが、アルフレッドは『ちゃんと躾けなくっちゃ』と使命感に燃えていたという。


 ローガンは二人の子供たちの様子にお腹を抱えて笑った。


 するとジョシュがローズの方にスススッと近寄った。


「母様は僕にプレゼント用意してくれてないの?」


 ローズは少しだけ考えた振りをしたが手に持っていた封筒をジョシュに渡す。そして小さなその顔をジョシュに近づけて耳元で囁いた。


「ありがとう!!いいの!!??」

 その顔は弾けんばかりの笑顔である。


「ええ。私からのプレゼントはその券よ。いつ使っても良いんだけど父上たちには内緒にする?」

「アルには話したい!」

「良いわよ。じゃあ、使いたい時はまた言ってね。」ローズからおめでとうと言われながら頬に口付けを貰うジョシュはとても嬉しそうだ。

 何なら犬を見せられた瞬間より小躍りしそうな勢いだ。おいおい、ローガンには秘密って父親を差し置くとは何事だ?


 ローガンはその様子を見ながらあの薔薇柄の封筒に何の券が入っているのか気になって気になってしょうがなくなった。





 夜、夫婦の寝室でローガンはついに耐えきれずローズを背後から抱きしめて懇願する。


「ローズ!!すまないがさっきのバラの封筒の中身を教えてくれ。気になりすぎて眠れそうにないんだ。」


 するとローズは笑い出した。

「大したものじゃないわよ!気にするほどのものじゃないんだから。」

「気になる!!無理なんだ。昼間の流れで行くと俺だけ除け者じゃないか!」


 まあ、でもそうなるかもねぇ……とローズは思案する。

「頼むよ………」

 ローガンの手がローズを揺さぶる。


 すると諦めたようにローズが向き直った。



「あれはね、『お母様を独り占め出来る券・5枚綴』よ」

「独り占め?」

「そう。ジョシュって早くにお母様を亡くされたでしょう?だから寂しがり屋なところがあるし、アルフレッドに遠慮して私に甘えきれないところがあると思うの。だから『独り占めの権利』をプレゼントしたの。」


 雷がうるさい夜、一緒に寝てあげたり、参観日にローズに教室に来てもらったり、母親と二人でお出かけしたり、逆に家の中で二人でゆったり過ごしたり………



 ・・・・・・すごく羨ましい・・・・・


 ローガンは呆然とした。


 息子ジョシュがローズの膝の上に頭を乗せ耳掻きして貰ったり、その柔らかな胸に顔を埋めている姿を想像した…………


「え?なんかダメかも」

「何がです?」

「あいつも大人だし、ダメだろう。そんな券。」

「ジョシュは喜んでましたよ?」

「そりゃ喜ぶさ!男は色々あるからな。」

「意味がわかりませんけど?」

「ちゃんと制限は付けたんだろうな?」

「制限?意味がわかりません?」

「だから君は男に付け込まれるんだ。」

「一番付け込んだのはローガンですわよね?」



 ジョシュたちが遊び疲れてグッスリ眠っている夜更け。


 夫婦の寝室では8歳年上の文官の大男が自分の妄想が止まらず嫁をひたすら怒らせているのでした………

番外編は少しだけ恋愛についても書きたいのでローガンとの結婚生活ももう一話は考えています。

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