第四章 首
抜けるような白い肌にほっそりとした首筋を見た時、同じ女性でありながら欲情を掻き立てられている自分がいる事に気付いた。
美穂と名乗ったその女性は私の通う書店の店員であり今日初めて会話をした。美穂から醸し出される淫靡な匂いに私の芯は刺激され、言われるがまま仕事終わりの美穂の車へ乗り込んだ。
外は小雨が降っていた。美穂の首筋にかかった髪に細かい水滴がつき、ヘッドライトの光に照らされ輝いていた。暗い光の中で見る美穂は別格の美しさだった。
なぜ、こんな人が私に声をかけてきたのだろう・・・
「着いたよ。さ、降りて」
気がつくと車は目的地に着いていた。美穂はスポーツカーが好きで、サーキットにも時々走りに行くと言っていた。車を降りた時改めて美穂の車を眺めた。ホンダのインテグラtypeRと書いてあった。
「良い車でしょう。エンジン音とアクセルを踏んだ時の感覚が堪らないの」
言いながら私の肩にポンと手を置いた。到着したのはホテルだった。美穂は入り口へと私を促した。こんな美人がスポーツカーに乗って、サーキットでドリフトしているなんて、様になるとしか言いようがなかった。同時に外見からの意外性も感じた。おそらく、そのギャップに引き寄せられた人は数多といただろう。
そんな人が何故私に声をかけたか疑問を覚えた。
こんな女性とこれからホテルに入るんだ・・・
そう思うと緊張と、期待で私の体高鳴りを覚えた。
「あなたがしたいのは、お茶ではないわよね」
確信を突くように、内面を暴かれるように、車に乗り込む前に確認された。強い意志を宿したような美穂の目は怖くもあったが、その奥で揺らめきを感じた。あれは欲望に濡れた目をひた隠す、ハンターの目つきだった。そんな目で見られては、私は頷くしかなかった。
暗い建物内に入ると、ぼんやりと光るパネルで赤を基調とした部屋を美穂は選んだ。美穂は赤が好きだと言った。赤が自分のパーソナルカラーで、女としての自分に自信を持たせる色だと教えてくれた。
「お店のエプロンも赤ですね。美穂さんに良く似合っています」
「ふふ、ありがとう。ほら、この部屋も赤」
部屋のドアを美穂が開け、私に入るように促した。
この部屋に入ったら戻れない・・・
何が戻れないか、漠然とそう感じた。同時に私の欲は見透かされているとも。
今まで情事を想像し身体を熱くした事は何度もあった。でも、それは相手の無い空想の真似事でしかなかった。しかし考えてみれば、絵空事の世界での相手は男でも女性でも無かった。ぼんやりとした人でしか無かった。
だけど、今は美穂さんが目の前にいる・・・私は、どんな風に乱れ、どんな風に美穂さんは乱れるのだろう。
早鐘を打つ胸を押さえ、ゆっくりと部屋の中へ入った。
入り口直ぐに水回りと、バスルームがありその奥がベッドルームだった。部屋は明るく、所々にある鏡が私のみすぼらしい姿を映し出した。私は何だか恥ずかしくなり俯き、膝を擦り合わせた。その時、美穂さんが私を背後から抱きしめた。私の身体をすっぽり包み込むように、あの細くて綺麗に整えられた手で、ぎゅっと力を込めながら、私の耳元で尋ねた。
「していい?」
その言葉だけで、私の水源が溢れ出るのを感じ同時に下腹部から脳まで髄液が沸騰するような熱が走った。
「あ、・・・私どうしたら・・・」
私は狼狽えてしまった。勿論、未経験だから何と答えて良いか分からないという事もあったが、単純にこの反応してしまっている身体をどうすれば、どうにかしてもれえばいいのか分からなかった。
「そのままで、・・・全部してあげるから」
耳元で言いながら美穂は背後から私の胸を服の上から優しく揉みしだいた。耳を舐めていた舌はいつの間にかゆっくりと首筋へ下がって行った。私の首筋は震え産毛が逆立った。しかし確実に歓喜していた。同時にみるみる秘所がざわめいた。
最初は舌先を使って細い線を描くように耳から首を通り、肩口へ移動していく。
思わず肩を竦めたくなるくらいぞくぞくした。これは、私の性感帯なのだろ。そのままデコルテ部分を皮膚の柔らかさを確認するように軽いキスで埋め尽くした。優しいキスが心地よく思え、同時に安心感を覚えた。
「服、脱いで」
唐突に美穂は言った。滑るような美しい声で。
私は着ていたVネックのセーターを美穂に背を向け脱いだ。
「下も」
言われるがまま、私はジーンズから足を抜いた。躊躇いはもう無かった。
これで良いですかと聞こうと思った瞬間、美穂にベッドへ促され押し倒された。美穂はスカートを脱ぎ私に馬乗りになり、カットソーを勢いよく脱ぎ捨て髪を解く。下から見上げた美穂の色気は壮絶なものだった。言葉で表せないとは正にこの事だった。
「美穂さ・・・」
言い終わらぬうちに、唇を塞がれた瞬間舌が口腔内に侵入してきた。さっきまでの優しいキスが嘘のように。
「んっ、」
と声がもれてしまった。歯列をなぞった舌が私の舌に絡まり、その唇の柔らかさが堪らなく気持ちよかった。激しく舌に吸い付いたと思ったら、優しく唇を舐め、またにゅるりと侵入してくる。緩急が私私を翻弄させた。
キスだけでこんなに感じるなんて事が本当にあるんだと身体で感じた。
そう、私の花芯はキスだけでじわじわと溢れ出ていた。
「濡れてる」
突然伸ばされた手に、花びらを触れられ濡れそぼっている事実を隠しきれず、私は恥ずかしい気持ちを忘れて、思いのままに身体の熱を伝えた。
「あ、あつい・・・」
「うん、これからだよ・・・」
美穂は私の花弁を摘みながらそう言った。