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  作者: あおいゆきな
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第一章 爪

この人、やっぱり当たりかも・・・

 

 導かれた手に、一瞬爪先でなぞっただけだったが、布越しに感じた男の大きさが自分を満足させる事ができるサイズと分かり思わず口角が上がってしまった。もちろん不自然な笑顔にならないように目を少し細め微笑んだ。


「いきなり手を掴んでそこに引き寄せるから驚きました」


 私はガウンを着た男の肩を軽く押し、男根からゆっくりと手を離した。


「ごめんなさい、ゆかりさんからキスしてくれたのが嬉しくて。僕のも触ってもらいたくなっちゃって」


 自分より年上のこの男は常に優しく丁寧な口調で話した。私はこの男の話し方や声のトーンが好きだった。自分の事を僕と呼ぶ事も。末っ子だと聞いた時、そうだろうなと思った。可愛がられ、甘やかされ、大切にされ、スレた時期なんて無かったのだろうと感じさせられた。


「私も、ごめんなさい。今日は何も出来ない日で・・・」


 男の昂りを分かっているのに、それを収めさせるのは勿体無く、申し訳なく思った。でも、月のものが来ている時に身体を繋げるのは好きではかなった。出来ない事はないし妊娠もしないのでこの時期を好む人もいるとは分かっているが、紅血が滴る感覚がどうにも行為に集中できず没頭出来ない。交わるなら心も身体も溶けて何も考えられなくなるくらい長く味わいたかった。


 男に果が無かったらいつまででもしていたい・・・


「また今度、時間を作って会いましょう」


 横並びに座ったベッドの上で私の手を握りながら男が言った。勿論、とすぐに答えたかったが最初は欲しがっていると思われたくなかったから小さくうなずきゆっくりと顔を上げながら男の目を見た。男がセットした調光ではこの部屋は暗すぎて、目の奥で何を思っているか探る事は出来なかった。


 今度とはどれくらい先だろう。


 終わったらすぐにでもしたい。


 早く私のものにして、男のものにもなりたい。


 私はそっと男に寄り添った。首筋に付けたイランイランが男の鼻腔をくすぐるように肩口に顔を埋めた。嗅覚が鋭いと言っていたがイランイランの香りと意味を知ってか知らでかこの匂いに強く反応しているようだった。インドネシアで新婚初夜のベッドに散らす花、催淫作用があると言われるこの香りと体臭を混ぜ合わせる為に制汗スプレーは使わないようにしていた。男が鼻から息を吸い香りを感じている事を確認すると、再び口角が上がってしまいそうになった。


 二の腕を掴んだ手に軽く力を入れて短く切り揃えた爪を立て、同時に男の首筋の皮を甘噛みした。


 香りを堪能していた男が驚いたように身体を震わせた瞬間明らかに感じているのを見逃さなかった。


 もう少し、もう一押し・・・


 私は俯いたまま男としては小さく短い指に舌を這わせた。人差し指の第一関節から先端までを舌先で露を舐めるように撫であげてから、吸い取るように口に含んだ。小さく音を立てながらゆっくりと一往復だけすると再び男の目を見た。


 次を期待する男にはこれで十分だった。


 僅かな光の中、男の瞳孔がさっきよりも大きく見えた。


「予定を確認してまた連絡しますね」


 だから、今日はここまで。


 ピークエンドはさらに男を追いかけさせる。男の頬を両手で包み丸まった爪先を痕が残らない程度に食い込ませた。


 早く私を欲しがって・・・


 思いながら男との情交を想像して溺れる自分がいた。求めているのはどちらだろうと思ったが、互いの気持ちが同じ方向に向いていればそんな事はどうだって良いと感じた。


 一緒に溺れればいいんだ・・・


 次に会った時は手に入れる。


 無性に爪を齧りたい気持ちをぐっと堪え私はまた微笑んだ。

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