表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/44

村の祭り

 テーブルの上にはナタリアが作った料理が並べられています。メリナよりずっと幼いのに、うーん、上手になったなぁ。


 何日か前に戦場から引き返し、今日の昼前に私はノノン村に戻ってきております。長旅で疲労が残っているだろうからと、ご飯はナタリアが用意してくれたのです。


「あらためて、お疲れさま、ルー。それじゃ、早速食べようか」


夫が満面の笑顔とともに私を労ってくれました。


「えぇ、ありがとう」


 短く感謝の言葉を口にします。私が留守の間、迷惑を掛けたとは思うのですが、家に入ってすぐに伝えましたし、ナタリアの手料理が冷えるのも良くないことです。



「そうか、メリナは元気だったんだね」


「えぇ。もう帰国して、シャールに戻ったと思うわ」


「行ったり来たり、忙しいんだね。竜の巫女ってヤツは宮仕えよりも忙しそうだ」


「そうねぇ」


 行儀は悪いのですが、私達は食事をしながら喋っています。貴族の子供であれば、手厳しく親から叱られるでしょう。



「兵隊さん達はもうすぐ着くのかな」


「えぇ。私だけ駆け足で帰ってきたから、夜には戻って来ると思うわ」



 夫はナタリアにも気を遣います。


「ナタリアは将来、何の職に就きたいんだい? こんなに美味しい料理が作れるなら、街で店が出せるよ」


「ありがとうございます。でも、私はレオンと冒険者になりたいです」


 その思いは前のまま変わらないか。

 レオン君も鍛えたら良い剣士になるでしょう。剣筋と勘は天性の物を感じます。


 惜しむらくは村にメリナが居ないこと。

 神様の森で魔物と激闘を繰り返して経験を得つつ、メリナの回復魔法で瀕死から治癒して魔力の増大を図る。

 レオン君があと数年早く生まれていれば、若しくは、メリナがシャールに行かなければ、そんな修行が出来て、彼はナトン君を越える逸材に育っていたでしょう。


「2人とも15歳になったらね。それまでは焦らずに勉強だとか魔法や剣の練習とかするのよ」


「はい!」


 ナタリアは私の養子となっています。夫が何かそんな書類を何処かに送ったので、法的にも間違いないです。

 ど田舎の村の貴族でもない住民にそんな手続きは不要なのではと思ったのですが、夫は文官だった経験から、後々のトラブルを断つために、またナタリアの為にもなると言うので実行しております。


 さて、明らかにナタリアはレオン君に恋心を見せています。このまま順調に2人が結婚すると、もう亡くなってから10年になるジャニスと親戚になる訳ですね。

 あの世から見ていたら、カラカラと陽気に笑うだろうなぁ、ジャニス。


「あー、でも、ルー。僕は思うんだ。メリナも15まで村にいたんだ。それが良くなかったんじゃないだろうか。ほら、メリナは何て言うか、常識が欠如している、うーん、違うな、はっきり言うとバカだろ?」


 本当にはっきり言いましたね、あなた。実の娘ですよ。


「田舎の狭い村の事しかメリナは知らなかったから、そうなってしまったんじゃないかな。ナタリアは学校に通ってはどうだろうか」


 まぁ……我が家にそんなお金はありませんよ。入学金だけで金貨が何十枚も必要なんですから。

 でも、ナタリアが声を失って喜んでいる姿を見せられたら、否定はできません。


「それも良いわね。じゃあ、頑張らないと、あなた」


「あぁ! 実は新しい特産物を作ったんだよ」


 夫は得意気な顔をします。


「それって何?」


「昔、たくさん売れる薬草があったのを覚えている?」


 うん。あの葉っぱを炒めてお酒に漬け込んだのをメリナに飲ませていました。咳止めと鎮痛の薬の元。忘れるはずがない。


「あれの実から油が取れるんだ。炒めて絞るだけなんだけど、臭みもない良質の油が得られたんだ。この料理にも使っているんだよ」


 へぇ、油か。

 魔物の脂だと確かに変な臭いがするもんなぁ。売れるかも。


「ギョームさんの村と共同で作業所を作る計画があってね、もう設計図も書いているんだよ」


「頑張ってね、あなた」


「もちろんだよ!」



 食事を終え、外の水場でナタリアとともに食器を洗います。


 どこかの子供達が駆け回って遊んでいるのが見えました。



 思えば、随分と村も変わりました。


 幼いメリナを連れてここに来た時はあばら屋しかなかったし、ぼろ切れを纏った人々が住む廃村一歩手前の場所でした。魔物の餌食になるのを恐れながら、その日の食料を森の中で必死に探し、パンを口にすることさえ出来ない日々。


 それが今では、小麦や野菜の畑も耕され、森の池から小川を導いて水車も作り、家も2階建ての立派な物が立ち並ぶ農村へとなっています。

 人々もふっくらと肥えておりますし、文字や魔法も知りました。

 野犬などの魔獣に怯えていたのに、今では狩って革や肉を行商人と交換するまでになっています。


 たまに森から溢れた瘴気が畑を襲いますが、概ね穏やかな日々です。



 遠くから桶を抱えて走ってくる人が見えました。ナトン君の奥さんであるアニーさんです。


「生まれそう! サリカさんの子供、生まれそう!!」


 サリカさんはカッヘル君のお嫁さん。出産が近くて、ナトン君の家に来て貰っていたのよね。あそこの家は新築だから広くて部屋数も多いから。


 しかし、カッヘル君、お産に立ち会えなかったわね。この失態は一生奥さんに言われ続けるわよ。



「ナタリア! アニーを手伝って! 私はサルマ婆さんを呼んでくる!」


「はい! 分かりました!」




 その日の夜、村はお祭りとなりました。

 主役のサリカさんとその赤ん坊はナトン君のお家でネンネしていますけども。


 各ご家庭で食べ物を持ち寄り、広場に幾つもお皿を置いて皆で楽しむのです。

 音を立てては母子に迷惑が掛かるので、鳴り物とかは御座いません。


 でも、人が集まったのに喋らないわけにはいきません。新しい村民の誕生をガヤガヤと祝うのは許して頂きましょう。



「ねぇ、あなた。この村を紹介してもらって、本当に幸せになったわね」


 隣で骨付き鶏肉を食べていた夫に話し掛けます。


「あぁ。楽しい毎日だったし、これからもずっと楽しいんだろうね。でも、ルーが僕の傍にいるのが僕にとっての最高の幸せなんだよ」


「まぁ、お上手」


 篝火で照らされる以上に顔が火照りますね。少し離れて熱を冷まします。

 


 野犬の遠吠えに、草むらの虫達の鳴き声。

 どれも王都では聞こえなかった音。

 今では村に帰ってきた実感を強くしてくれるくらいに聞き慣れています。


 生まれてすぐに亡くなった我が子の墓に、彼らも一緒に祝ってもらうために、豆菓子の小皿を静かに置きます。


 そして、生まれ変わりがあるのなら、いつか笑い合いましょうと祈りました。



  皆の騒ぐ場所へ戻る途中、満天の星の間を走る流れ星が2つ見えました。

 そして、その下で迎えに来た夫に気付きます。

 私は走って抱きつきます。何となくそんな気分になったのでした。

これにてルーさんの物語は完結です。

お読み頂き、ありがとうございましたm(_ _)m


この物語から読み始めて頂いた方が何人いるのか分かりませんが、メリナさんの物語は以下になります。


(第一部)私、竜の巫女の見習い! 今日もお仕事頑張りますっ!! 

https://ncode.syosetu.com/n2335fa/

(第二部)私、竜の巫女にして拳王! 今日も元気に通学頑張りますっ! https://ncode.syosetu.com/n5346gh/


ナタリアとレオン君の物語(本作5~6年後設定)

俺の冒険者生活 ~剣となった幼馴染みを携えて

https://ncode.syosetu.com/n8213ge/


次はメリナさんの第三部を8月15日から投稿予定です。こちらも宜しくお願い致しますm(_ _)m




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいたんですが「お布施」を忘れておりました事を思い出しましたので来訪ついでに(笑) [一言] 真面目な話になりますが、「第二部」で正直感じた「停滞感」を「この話」を挟む事により今の「第…
[良い点] ルーさんのお話とても面白かったです。毎日楽しく読ませていただきました!  小さい頃の病弱なかわいらしいメリナさんがメキメキと健康優良児を超えた、本編と変わらぬたくましいメリナさんに育って…
[良い点] ルーさんやジャニスが非常にいいキャラしてました [一言] 完結お疲れ様です。 楽しく読ませていただきました 次回のメリナさんも心待ちにしています
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ