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遂に出た

 カッヘルさんの部隊も漸く森の奥地へと進める強さを手に入れました。ここからが本番です。

 月に2回ほど、私も特訓中の彼らに合流して、森の神様が出現していないか実地確認しております。


 行きは精霊カーフエネルリツィによる転移なのですが、帰りは自分の足で帰らねばなりません。



「では、カッヘルさん。村でお会いしましょう」


「ちょっ! ルーさん、待ってください。俺たち、限界なんですけど。武器も少なくなって、魔物に襲われても対処できないです」


「ごめんね。差し入れ分で我慢してください。夫とナタリアが首を長くして待ってるから、私だけ先に帰らせて貰いたいかな」


 ここからだと村まで2日ほどの道程ですので。


「それに、カッヘルさん。人間ね、限界に達したら『もう限界です』なんて言えなくなるのよ。だから、まだカッヘルさんは限界じゃないかな」


 若い頃のギョームさんやナトン君、無意味に笑ったり泣いたりしていました。疲れきると、思考も放棄するんですよね。


「それじゃね」


「それじゃね、じゃねぇよ! オズワルドがその状態だろーが!」


 森の中にカッヘル君の叫びが響きましたが、もう私は走り去った後でした。

 オズワルドさんは森に入らなくても、いつもそんな感じですし。金貸しから常に限界ギリギリの人にジョブチェンジしたのですよ。



 さて、戦闘の穢れを取るために水浴びをして、村へと帰還しました。

 あら? アデリーナさんの気配がしますね。最近よくお見えになられますが、神殿のお仕事は暇なのかもしれません。娘の教育係なのに、その娘は他国に留学中なのですから。



「よぉ、アディ。うちの芋をやろうか? 取れたてだぞ」


「ありがとう御座います。しかし、急いでおりますので」


「んな遠慮すんなよ。ほら、持ってけ」


 ナトン君とも顔見知りになられたみたいで、土が付いたままの新鮮な芋を3個ほど貰っておられました。


 そのやり取りの声でアデリーナさんの訪問に気付いたナタリアも家から出てきました。布袋を持ってきて、アデリーナさんの服が汚れないように芋をそこに入れています。



 アデリーナさんの移動はいつも聖女イルゼさんの転移魔法ですので、白い服を着たその方もいらっしゃっているのですが、切り株に座り込んで、溜め息なんて吐いておられます。

 言動とかちょっと怖い人なので見なかったことにしましょう。事情を知りませんが、この人も限界ギリギリなんですよね。



 さて、私は移動しまして精霊球の前にいます。実地確認して2日しか経っていませんが、森の神様が居ないか毎日カーフエネルリツィに確認する習慣が付いているのです。



 守り番のサルマ婆さんに詫びながら、私は宙に浮いた輝く球の前で精霊に語り掛けます。


『今日は居るかな?』


 私の問いにカーフエネルリツィが答えます。


『居るね。遂に出た』


 っ!? 自分の鼓動が激しくなっていくのを感じます。それを極力抑えながら、落ち着いて、もう一度質問する。


『どこら辺?』


『人間がいっぱいいるところ、魔力を奪取しようとしているのかな』


 森の中で人間が集団で存在しているところは、カッヘル君の部隊の所くらいしかないでしょう。


『すぐに向かう?』


 カーフエネルリツィの問いに、私は即答です。


『もちろ――』


 しかし、ここで私がいる地下室の天井板がずらされます。

 まず見えたのは黄金色の髪。続いて、見知った顔が覗きます。アデリーナさんです。


「なるほど。それが力の源で御座いますか?」


「あんた、誰じゃ?」


 サルマ婆さんが警戒を隠さずに尋ねましたが、アデリーナさんは無視して狭い室内に飛び降りて来ました。私が見ても鮮やかな着地でした。


 魔法発動をしようとしたサルマ婆さんを私は手で制します。この人は敵ではありません。娘の大切な友人です。



「不思議な言葉を話されていましたね。うふふ、私もそれを身に付けたいなんて思ってしまいました」


「ごめんなさいね、アデリーナさん。私、急いでいるのよ。事情は後で説明するね」


「あら、私のお願いを――」


 何か仰っておられますが、無視です。


『カーフエネルリツィ、転送魔法を。そこのアデリーナさんもご一緒に』


『了解』



 視界が変わって、私達は森の中に立ちます。瘴気が濃くて、黒い霧のように目視でも見えます。


 既にカッヘル君の部隊は戦闘に入っておりました。彼や副官の人が大声で指示を出しています。


 夥しい数の青白い火の玉が暗い周囲に浮き出ています。この原因が森の神様でなけれぱ、幻想的だとさえ思ったかもしれません。


 以前よりも炎は巨大化しており、一つ一つの炎が大人ほどのサイズをしておりました。

 神様、どこに潜んでいたのか知りませんが、魔力をかなり溜め込んだものと思われます。



「ルーさん、強引で御座いますね」


 有無を言わせずに共に転送させたことをアデリーナさんに軽く非難されました。


「ごめんね。本当に急ぎだったのよ」


 詫びながら私は雷撃を準備して放ち、即座に正面の火の玉を殲滅する。でも、以前ならそれで掻き消えていたのに、今回は何事も無かったかのように、再び炎が復活します。

 ふむぅ、厄介かも。



「何の爆発音だ!? あっ! ルーさん!!」


 カッヘル君が私に気付きました。


「って、アデリーナ様も!?」


「カッヘル! 状況を報告なさい」


 アデリーナさんの指示にカッヘル君はすぐに返答します。


「ハッ! 帰路において遭遇。接敵から四半刻。我が方、半数が戦闘不能。魔力による意識障害多数。現在、撤退経路を作るため、突撃陣の組み立て中」


 へぇ、カッヘル君、できる軍人っぽいじゃない。でも、部下の方の大半が傷付いていますし、今も互いに襲いあったり、火の玉に焼かれたりしています。


「カッヘル、承知しました。ところで、ルーさんは、この部隊を救いに来たのですか?」


「いいえ。神様を殺しに来ました」


「……ほう。面白い発言で御座いますね」


 本当に興味を惹いたようで、アデリーナさんの目付きが変わったように思います。


「その神殺し、私も乗りましょう。カッヘル、貴方は負傷者救援に徹しなさい」


「ハッ!」


 カッヘル君が返答した時には、私はもう飛び出していました。雷撃の魔法では神様を散らすだけで効果が薄いと判断したためです。もっと根本から消滅させる必要があると、魔力が見える今はよく分かります。

 散らした魔力は再度集まって青白く光ります。キリがないか。



「援護します。()()ぐ。(くるり)(ひもろぎ)たる(まと)を射る」


 アデリーナさんの魔法詠唱の後、膨大な数の光の矢が四方八方に広がって敵を消滅させて行きます。


 見事な術です。

 私はその矢と共に駆けています。


 目指すは、遠くに存在する一際大きな青い炎。揺れ動きながら、光の粒子を宙に出しています。

 あれが他の青い炎の親玉です。私は直感しています。



 アデリーナさんが射ち漏らした炎を、雷を纏った拳で薙ぐ。姿勢を低くして、獣のように突進する。

 カーフエネルリツィが導いてくれているのか、敵に届く最適な道筋が見える。



『またお前か……』


 神様、久々ね?

 返しながら、私は強く土を蹴って飛び掛かる。


『忌々しいヤツめ』


 私からすると、神様がそうなんだけど。


『お前を殺すために我は努力した』


 そう?

 私は既に振りかぶった腕を前に出す直前。これで終わり。



 が、私は躊躇。

 目の前に転送されたカッヘル君が出現したから。


『ククク、最初からこのようにしておれば良かったのだな。ククク、弱き者は仲間を傷付けることが出来ぬよな、ククク』


 森の神様の高笑いが頭に響いて、シャクでした。でも、彼には生まれてくる赤ん坊がいるのです。殺す訳には……。

 と思っていたら、カッヘル君に腰を目掛けて極太の光る矢が横から飛んできました。そして、彼を押し退けます。



「アデリーナさん、助かる!」


「後でカッヘルに回復魔法をお願い致しますね。殺すには惜しい人材ですので」


「了解!」



 止めた腕を再び動かす。

 神様の魔力が高まり魔法発動の予感がしました。

 構わず、撃ち抜く。


 何度も負けている神様のクセに、私の速度に勝とうなんて、思い上がりが甚だしいです。


 炎の中に腕を肘まで入れて、雷魔法を全放出。


 神様は爆散して、その魔力を撒き散らします。他の炎も徐々に姿を保てなくなり消えていきました。


 ようやく退治できましたかね。清々しい気持ちです。



 その後、カッヘル君を代表する瀕死の方々を回復魔法で一人ずつ治療しまして、ナトン君から貰った芋をアデリーナさんはカッヘルさんに詫びだと言って渡しました。

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