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後継者

 森に入ってから2週間目の朝。気配は数日前に掴んでおりまして、もう少しで神様の所です。


 鋭気を養って貰うため、今日の朝食はゆっくりと食べます。ここまで辿り着く中で、皆も環境に慣れて来たのか、時折、明るい笑い声も響きます。


 ギョームさん始め、村の人々は自らの鍛練、野犬と実戦、満足な食事、こんなのが相まって強くなられています。



「ルーさん……もう戻りませんか……?」


 誉めたと思えば、これです。ギョームさんは本当に気弱ですね。軍隊なら鉄拳制裁の対象ですよ。


「どうしたんです?」


「森の瘴気が濃すぎて……皆、おかしくなってます」


「あんなに朗らかに笑い合ってるのに?」


「……えぇ、普通に楽しそうに見えますね……。でも、あれ、現実逃避です」


「ナトン君とアニーちゃん、将来の新居について話し合ってますよ? 幸せそうですね」


「現実逃避です」


 もぉ、私だって分かっていますよ。言葉にしないだけです。戦意が落ちるじゃないですか。



「メリナを見てください。元気に歌ってますよ」


 はっきり言って、メリナは音痴です。リズムも音程も壊滅的です。でも、大きな声で楽しく歌っています。聞き取れる範囲では、聖竜様への信頼を自作の詞と曲でシャウトしているのかな。


「……あれ、歌なんですか? 呪詛の類いかと思ってました」


「あはは。ギョームさん、面白いわ」


 言い終えて、真顔に戻します。

 

「死にたいの? その言葉でメリナが傷付いていたら殺すから」


 我が子の将来性を潰すような発言は許しません。ほら! 気持ち、声が小さくなりましたよ!


「……メリナちゃんの美声はともかく、新しいスタイルの歌って理解し難いですよね……。俺は古い人間だから……」


 ……ふむ。フォローとしてはギリギリオッケーですね。今の言葉も聞こえていたのか、メリナの歌声が元よりも大きくなりました。

 少し耳障りなのは否定致しませんが、その内に上手になって伝説の歌姫と呼ばれる日が来るかもしれません。可能性は低めですが、期待します。



「レオン君、疲れてない?」


 メリナに作って貰った木刀で草を苅って遊んでいた幼い彼に声を掛けます。

 メリナが気にして見守ってくれているので安心はしています。でも、連日の移動による疲労が蓄積しているかもしれません。


「大丈夫だぜ! メリナ姉ちゃんがスッゲー強いもんな」


 元気そうで良かったです。今回は森の雰囲気を彼に覚えて貰うためにやって来たのです。


「……ルーさん、その子、どうしてこの雰囲気を怖がらないんですか……」


「うーん、小さな時からメリナと一緒にいたからかもしれませんね」


「……化け物とずっと一緒にいたから、魔物程度では恐怖を感じない……?」


「あはは。本当にギョームさんは愉快な方ですね」


 多分、私の目は笑っていません。


「ひっ! ば、化け物って野犬の事ですよ、野犬の! メリナちゃんの事じゃないですって。いやー、それにしても、ジャニスの子供がこんなに立派になるなんて思ってなかったなぁ」


 ギョームさん、立ち上がってレオン君の方へと行きました。


「おっちゃん、俺の母ちゃんを知ってるんだ?」


「うん? そりゃな。ルーの次に強かったんだぜ。そういや、俺も顔をしこたま殴られたことがあったな」


「母ちゃん、見てみたいな」


「おっ、そうか? じゃあ、村に帰ったら俺が絵を描いてやるよ。柄じゃねーとか言うなよ。結構、上手いんだぞ」


「やったー! おっさん、スゲーな!」


 レオン君が本当に嬉しそうにしていました。


「ギョームさん、私もそれを見たいわ」


「……期待外れだって殴らんで下さいよ」


「あはは。本当にギョームさんは冗談がお好きで。困っちゃうわ」


 さて、休憩は終わりです。

 昼までに森の神様の所に到着するでしょう。私は皆にもう一踏ん張りの気合いを頼みまして、出発の合図としました。



『お前……また来たのか……』


 多数の人魂が現れ、弱々しい神様の声が頭に響きます。私はそれを無視します。


「総員、突撃ー!」


 うふふ、軍の部隊長みたいに命令を出してみました。演習では言われる側ばかりだったので、一度やってみたかったのです。


「うぉぉーー!!」


「ナトンとメリナに続けー!!」


 一番最初にナトン君とメリナが飛び出して、その他の人が遅れて火の玉へ全速で向かいます。。

 レオン君は私の横で待機です。皆の戦う様子を見て勉強です。



 はい。壊滅状態。



 神様は人の意識を乗っ取るみたいです。忘れていました。今は弱い人から順に同士討ちになっていまして、互いに互いの肉を食らい合う光景が確認されます。


 その中でメリナは無事なようでして、青白い火の玉を拳で殴り付けています。ただ、掻き消すだけでダメージは与えていないかな。

 もうなんだろ、こう、拳にですね、魔力をぐわんって纏わないといけないんです。分かんないかなぁ。ぐわんって感じだって伝えたのに。



「お母さん! やっぱり殴っても死なないよ!」


「続けなさい。止めたら死ぬわよ」


「えー! 本当に死んじゃうって!」


 厳しさも愛なのです。分かってね、メリナ。



 ナトン君は無事な方の人でした。でも、目の前にアニーさんがやって来ましたね。彼女は既に神様の手中に落ちて、両手を前に伸ばしながらふらふらとナトン君に近付いています。


「く、来るな! 斬ってしまうぞ!」


 あちゃー。未熟。

 問答無用で斬って半殺しにしてしまえば良いのです。死にかけても大丈夫。メリナの回復魔法は本当に素晴らしいものですよ。


 しかし、ナトン君は斬れずに、膝を土に付け、両手を広げての絶望のポーズです。

 残念ですが、ここまでですかね。

 雷魔法で失神させ――まぁ、ギョームさん!!


 なんと、ギョームさんが素早く2人の延髄に蹴りを入れ倒します。良い一撃でした。やはり、この人はデキる男です。



「ぬぉーー!!」


 その場で高速で回転して、足先から風の刃をお出しです。ギョームさん、凄く成長していますよ! その調子です!



『ククク、弱き者どもが足掻いておるな、ククク』


 何かおかしいですか、神様?


『ククク、魔物を産み落として絶望したと言うのに、お前はこんなにも被害者を増やすのであるな。ククク、愚かで愉快なことであるな、ククク』


 大丈夫ですよ。

 森の外に出たら、悪い魔力は体内に残りませんから。ほら、メリナなんて前からこの森に入ってるのに、平気でしょ。あー、今は分からないか。


 神様、前に言いましたよね。私の体を改造して、悪い魔力を吸いやすくしたって。

 私の傍にいるだけで、彼らの体は浄化されるんですよ。


『……苦々しい化け物め……。我は精霊であるのだぞ。弱き者に滅ぼされることなど有り得ぬ』


 あはは、その弱き者って、只の強がりですよね。私に勝ったことないですよ、神様。


『舐めるな!! この瘴気に溢れる地で我に勝てると思うでないっ!』



 火の玉は1ヵ所に集まり始めます。次々に合体して、最終的には青い火で構築された巨人となりました。


「ルーさん! 撤退命令を!」


 ギョームさんが攻撃を止めて、私に懇願します。


「ダメです。諦めずに戦って下さい」


 それでこそ、高みに到達できるのです。



「お母さん! 拳が当たらない! 透けちゃう!!」


 臆せず立ち向かうメリナも叫びます。殴った腕が火傷を負っていましたが、無詠唱の回復魔法で治ります。



『死ね』


 巨人は手にした棍棒を振り落とします。その棍棒も青白い火で出来ていました。

 ギョームさんはギリギリで避けましたが、棍棒が着地すると同時に魔力が迸ります。それはトンでもない風圧となり、周囲の人々を紙切れのように吹き飛ばし、木々に強く叩き付けました。


 大きな穴が地面に出来ました。


 ギョームさんも遂に倒れたようです。

 レオン君は私が魔法の傘に包んで守りましたが、さて、メリナはどうでしょうか?


 あら、ペタンと座ってしまいましたか。うーん、珍しいけど、自慢の拳が効かなかったのがショックだったのかな。



『ククク、弱き者よ、後悔してももう遅いぞ』


 神様はまだ後悔してないんですか?

 私は特大の雷魔法を使用するため、魔力を溜め始めました。


『……共存は不可能であろう?』


 ですね。仮令(たとい)可能であっても、子を殺された私は許しません。


 夫に聞きました。精霊は魔力の塊。魔力が意識を持ったもの。

 確かに精霊は死なないかもしれませんが、意識のない魔力には戻せます。



 バチバチと指から雷が漏れ出ます。

 火の巨人も棍棒を振り上げます。


 負ける気は一切しない。

 今日で仕留めます。今日こそ!



 私が攻撃に入ろうとした瞬間、不意を突かれました。


 業炎。神様とは違う、真っ黒い魔力で出来た眩しい光。


 メリナの放った魔法でした。真っ直ぐに全てを崩壊させて一直線に森を切り裂いたその一撃は、神様をも跡形なく消失させたのでした。


「スゲー! メリナ姉ちゃん、スゲー!」


「うん、そうだね。レオン君も大きくなったら、あんな風になるよ」


「俺、魔法は使えないんだ。だから、剣でバシバシ斬るぜ!」


「じゃあ、頑張らないとね」


 レオン君、強く頷きました。

 私はメリナに視線を移します。



 不屈の心を持つ我が娘。やりましたね。

 駆け寄って、魔力の放出のし過ぎで脱力する娘を抱いてやります。


 森の神様は私なら楽勝ですが、村に勝てる人は他にいませんでした。でも、これからは違います。私がジャニスみたいに突然に死んだとしてもメリナが森の神様と対峙できます。メリナが仮に倒されたとしても、次はもっと成長したギョームさんが、ナトン君が続くのです。



 さて、今日の森の神様は負け惜しみさえ言って来ませんでした。メリナの魔法、トンでもない威力でしたものね。

 だから、転送されません。歩いて帰らないといけませんでした。道に迷って1ヶ月ほど消費します。皆が余分に頼もしくなったので、嬉しい誤算でした。

 考えているストーリーの半分まで来ました。でも、タイトル回収はもう少し先ですm(_ _)m


 ストックなしで毎日書き続けているのですが、きつくなってきたので不定期に隔日連載になるかもです。

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