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森の神様との出会い

 村に来た当初に「入るでないぞ」的な言葉でサルマさんに注意された森。夫はシャールへの道を作ろうと、私はそこに住む森の神様にお逢いしようと、踏み込む決心をしました。


 なので、村の長老格であるサルマさんをご訪問致します。サルマさん、お婆さんですが、未だ野草採取の現役です。お孫さんでさえ、成人しているのですから引退されても良いのにとも思います。



「森に入るのかいな? 気を付けてな」


「あら、あっさり許してくれるんですね」


「ルー、お前さん、前から入っておるじゃろうに」


 あっ、そうでした。メリナが病気を患っていた頃、毎晩、無断で探索していたのでした。


「わしの祖父(じい)さんに聞いたんじゃが、祖父さんが幼い頃に村の衆があっちの森に入って多くの者が帰って来なくなったらしいんじゃ。戻って来れた者も頭がおかしくなったと聞いとる。それ以来、神隠しじゃって、皆、森に入るのは恐れておったんじゃ。しかし、ルー、お前さんなら何とでもなるじゃろ?」


「えぇ。何とでもなりそうです。森の神様、いらっしゃいますかね?」


「おったとしたら悪神じゃ。人手が少なくなった村は、それはもう大変な事態になったらしいんじゃ。出会ったら退治しておくれ」


 あら、そっち系の神様でしたか。メリナの病気を治してくれたのかと思ったのですが。

 ふむ、とりあえず出会ってからですね。それから、殴り倒すか、拝み倒すかを決めましょう。



 あっさり了承を頂きまして、早速、準備に入ります。ただ、相談したサルマさんから村の皆に漏れたようでして、わざわざ私の家を訪ねて同行したいと申し出する人達がいました。私一人で森に入るのが気楽で良かったのですが、希望されるなら断る必要も御座いません。



「ルーさん、俺、村を出て冒険者としてやっていきたいんです。その予行演習みたいな感じで、ルーさんと一緒に森へ行かせて下さい!」


 ギョームさんとこの長男ナトン君です。彼は生まれた時から、この周辺から出たことがなく、夫の本を読む内に街の生活に憧れてしまったのかもしれません。


「良いんですか、ギョームさん?」


「昔なら村の働き手がいなくなるなんて許されませんから、見せしめの為に皆で半殺しにしていたでしょう。でも、今は余裕が有りますし、こいつはこいつの好きなように生きれば良いとも思っています」


 私が感じるには、村の暮らしは街よりも快適なんですけどね。


「良いんじゃないか、ルー。外の世界へ羽ばたこうとする若者を引き留める道理を、僕たちは持ってないよ」


「ありがとうございます!」


「でも、ナトン君、気を付けて。ルーは異常に強くて頑丈だからね。無理はいけない」


「はい!」


「あなた、メリナも連れていきますよ」


「えっ? メリナ?」


「ギョームさん達が怪我されたら回復魔法が必要ですから。それに森の神様にお礼を言わないといけませんし」


「まだ、こんなに小さいんだよ?」


「大丈夫です。私が守ります」


「メリナも行きたいー! 森に行きたいー!」


「んー、大丈夫かな。ルーは回復魔法使えないのかい?」


「メリナ程ではないのですよ」


 夫はしばらく黙った後に渋りながらも了承してくれました。


「ルーさん、俺も息子に付いていきます」


「分かりましたよ」


「待って。ルー、そんな簡単に答えたらいけないよ。ギョームさん……誰も居ないからって、うちのルーに手を出したら許しませんよ」


「……手を出してしまったロイさんを尊敬しているくらいですから安心してください……本当に……」



 今回の森の探索は魔物の強さを見極めることにあります。行商人の方が村へと来てもらうには、彼らが安全に通える道を作る必要があります。野菜は種類によって育ちやすい土が異なりますが、魔物も同じように森の地域によって住み着く種類が異なります。

 道を通すなら、魔物が弱くて数も少ない所を選ぶのが良いと夫が言っておりました。



 さて、村を出てから2週間。

 私達は道に迷って、森の中をさすらっております。


 メリナは元気です。今もドングリを生のまま割って食べながら歩いています。自分の娘なのに、こんなに順応性が高いとは思っていませんでした。とりあえず口に入れて毒か可食かを自分で判断しています。将来は有名な料理研究家になれるかもしれませんね。楽しみです。



 それよりも子供でもないギョームさんやナトン君の消耗が激しいです。いつ魔物に襲われるか分からない状況でして、何日も緊張状態を維持していたので、疲労が蓄積しやすいのでしょう。


 これは私の失敗です。村での訓練では肉体と魔力を鍛えるのみで、ジワジワと命を削られるような恐怖に耐える練習を忘れていました。



「お母さん、ナトンのおじさん、笑いだしたよ?」


「腹を殴って気絶させなさい。魔物が来ちゃうから」


「あっ、じゃあ、そのままで良いかな? メリナ、お肉食べたいから、魔物を引き寄せるね」


「任せるわ」


「ギョームのおじさんは泣いてるよ?」


「脅せば泣き止みます。歩みを止めたら殺すって言いなさい」


 娘の回復魔法も精神を治癒させることはできないみたいです。そろそろ限界ですかね。



 それから3日間。更に森を進みました。どこまで行っても木々でして、本当に深い森なんだと改めて思いました。


 夜が来ましたので、火を囲んで私達は食事を取ります。食材は大きな蜘蛛です。野犬を食べていたほどの大きな蜘蛛でして、食べ応えが有ります。犬蜘蛛と名付けました。


「美味しい……」


「魔物の肉、堅くて食べれなかったものな……」


 メリナや私は平気だったのですが、お二人のお上品な口では噛みきれなかったんですよね。

 でも、この蜘蛛の中身は柔らかくて、お二人も久々に植物以外の食べ物を口にされました。


「ルーさん……俺達、どうなるんですか……?」


「さぁ。でも、今生きている誰もが100年後には死んでいますから、死を恐れる必要はないですよ。どうせなら最期はカッコ良く逝きなさい」


 軍学校で厳しい実地訓練を始める前に必ず教官が口にしたセリフです。


「親父。俺が悪かったよ。こんなに森が――」


 ナトン君が喋っている瞬間に生暖かい風が吹きました。蜘蛛の脚を焼く炎が揺らぎます。ゾクリとしました。


「メリナ! 離れて!」


「え! 何!? お母さん!」



 遅れたギョームさんとナトン君は既に敵の手に落ちてしまいました。互いに噛みついています。


「メリナ! 回復魔法!」


 ギョームさんはナトン君の腕を強く噛んで、一部を千切りました。吐き出した肉片と共に、彼の歯も(こぼ)れます。ナトン君も負けじと首筋に歯を突き立てていました。


 娘は慣れた様子で術を発動。2人の傷がなくなります。続いて、私は2人を殴って意識を奪おうとしました。が、彼らは操られているのでしょう。


 吹き飛んでも動く体。娘を新たな獲物に選び、ゆっくりと立ち上がり、ゆらゆらと向かって来ました。彼らを蹴り飛ばして距離を稼ぎます。



「お母さん、あれ、何?」


 メリナの視線は宙を向いていました。その先で暗闇の中で青白い光が揺れています。


「亡霊……?」


 肉体を持たない魔物。

 なのに、娘は果敢に殴りに行きました。勿論、当たることはありません。掻き消すことも出来ませんでした。


『我が森を穢す弱き者よ。恐れ(おのの)き、滅ぶが良い』


 何かが私の頭の中に直接語り掛けてきました。



 ひょっとして森の神様ですか!?


 私は嬉しくて即座に尋ねます。



『ククク。我を神と呼ぶか。良かろう。気が変わった。弱き者どもよ、生かしてやろう』



 気付けば、私達は違う森の中に立っていました。見覚えのある木があって、そこがノノン村の近くであることを知るのです。


 神様は居ました。なのに、まだお礼を言っておりません。大変に失礼なことをしてしまいました。

 私は気を失っているメリナとギョームさんとナトン君を肩に担ぎ、更に森の収穫物を入れた鞄を背負って、夫の待つ家へと帰りました。

すみません。

来週の日曜日に資格試験を受ける予定でして、勉強のために一週間の休載をさせて頂きます。6/13の夕方から再開予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] ……手を出してしまったロイさんを尊敬しているくらいですから それなw 漢の中の漢で本物の勇者だわw
[良い点] メリナさんが元気になったこと [一言] 再開楽しみしています。 資格試験頑張ってください
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