魔法より拳!
「うん〜スッキリした〜」
ワイバーンをすべて倒したアロマが満足げに体を伸ばしており、蒸気を足から噴出しながら戻ってきたアンダラーに労いの言葉をかけていた。
「普段からぶっ放しておけばいいじゃない。うちのところなんて何も言わなくてもそこいらに大穴開けてくるわよ」
「それ普通は怒られるからね〜」
「ウチに叱りの言葉を言う奴がいないのよね」
以前ウィンチェスターのギルド協会に立場が高い人間が来たのだが、挨拶もそこそこに、どこか怖がっているような雰囲気でいつの間にか帰ってしまっていたことがあった。
そんなこともあり、元ギルド管理協会にいたフィリアムに尋ねてみたのだが、リップヴァンウィンクルというギルドは管理協会では持て余すほどのギルドという認識らしく、どれだけ暴れても強く言えないのではないかという見解だった。
「まあだから何かやらかすとフィムがすっ飛んでくるわね。自分がしっかりしなくちゃって」
「アンジュはもっとフィリアムに感謝した方がいいよ〜。普通あれだけ暴れまわっていると討伐依頼とか出される可能性もあるからね〜」
今度フィリアムを労う会でも開こうかと思案しているとナイトが首を傾げていた。
「どうかした?」
「ああいえ、やはり拙者は魔法というものは理解できないと思いまして」
なるほどと我子が納得しているとアンダラーが胸を張って当然だろとしたり顔を浮かべた。
「そりゃあうちのボスの魔法はよくわからん組み方をしているからな、理解できる方がおかしいと思うぜ」
と、自慢げなアンダラーだったが、申し訳ないがそういう意味ではなく、我子は困ったようにアロマに目を向けた。
「アンダラー、それはちょっと違うよ〜。そもそもナイトが理解できないと言ったのはそういう意味じゃないの〜。そうでしょ〜アンジュ〜。ほんとこれだから理を超えるような化け物は嫌い〜」
アンダラーがアロマの言葉に首を傾げており、我子は説明をする。
「アンダラー、別に蔑んでいるとかじゃないのはわかってほしいんだけれど、ウチと内藤は魔法のメリット……利点について話しているの。魔法は確かに強力よ、けれどウチと内藤はあれだけの時間と労力を使って使う意味はあるのかってことを疑問に思っているの」
「へ?」
一瞬アンダラーが理解できないと言う風だったが、アンジュとナイトを見て「あっ」と声を漏らした。
魔法とはこの世界では強力な武器の部類に入り、それこそ優れた魔法使いは畏怖されるべき存在である。アロマもまたそのレベルの魔法使いであることは間違いないのだが、我子とナイトは別の視点で歩んでいた。
そもそも一撃で敵を殺してしまえる魔眼持ちのナイトには魔法のありがたみは皆無で、強力なスキルとレベル、武器を持っている我子もまた、魔法を使うくらいなら素手で殴りに行ったほうが早い。
そんな理由もあり、魔法のメリットを見いだせないでいるわけである。
「……そういやぁそうか。2人は魔法より強いもんを持ってるんだもんな」
「魔法を見ても感想が綺麗ってだけだもの、だからちょっと使いどころがわからないってだけ」
「そうでござるな、正直魔法を使う前に敵は倒せるでござる」
アンダラーが引きつった笑いを浮かべる中、アロマが呆れたように乗り物から顔を出し、眼前の山を指差す。
「あそこが目的地〜、次からはアロマたちは戦わないからね〜」
「はいはい任せなさい」
そう言って我子はその山を視界に入れ、少しだけ顔を歪める。
どうにもデカイものがいるみたいだが、アロマはあの存在に気が付いているのだろうか? ナイトは山が見えてきた瞬間、ルーアをそばに寄せていたが、ミスティックルナーの面々は気が付いている素振りは見せていない。
これは追加報酬も期待できるだろうと我子は口角を吊り上げるのだった。