神秘の妖精とか羨ましい通り名だけれどウチはなんて呼ばれているのかしら?
「で、どこに行くのよ?」
ミスティックルナーを出た我子、ルーア、ナイト、アロマ、アンダラーの4人はミスティックルナー手製の馬が必要のない乗り物に乗り、目的地に向かっていた。
「車のようなものだと思っていたけれど、魔法で地面に電極を作って御者の魔力操作でプラスマイナスを切り替えているから、レールのない電車みたいなものなのね」
「……あっさりミスティックルナーの超大作の中身を暴かないでくれないかな〜」
「あらごめんなさいね、こうやって晒してくれたから中身を見てもいいのかと思ったわ」
すまし顔の我子にアロマは頬を膨らませた。
するとそばにいたアンダラーがナイトに耳打ちをした。
「やっぱアンジュちゃんはすげぇな。俺たちが何年もかけて構想した魔法具の中身をひと目見ただけで理解しちまうんだもんな」
「自慢のギルドマスターでござるよ。それにそんなこと言ったらアロマ殿だってこれほどの魔法具を作り出せる天才でござろう? 正直どっちもどっちでござるよ」
「アロマ様はウィンチェスター以外でもその功績を認められ、中規模なギルドながら王都にあるギルド管理協会本拠地で、ギルド全体の代表の一人として招集されるほどの実力者です。アンジュ様を褒めてもらえるのは嬉しいですが、ミスティックルナーもとても素晴らしいギルドだと思います」
ルーアとナイトがミスティックルナーを褒めているとアロマが鼻を鳴らして胸を張っているのが見え、我子は彼女の頭を撫でる。
そうしているとアロマがふと思いついたように口を開き、我子に質問をした。
「そういえばアンジュ〜、あなたのところにギルド協会から何か届いてない〜?」
「ああそういえば本拠地の方に来るようにっていう手紙が来たわね」
「そうなのでござるか?」
「まあ断ったけれど」
そう言うとルーアとナイトが顔を見合わせ、何故かと声を上げた。
「なんでってそんな暇がないからよ。それにうちのギルドはまだ少人数だし、歴史もない。正直実力だけ見られてもこっちじゃ対応できないと思ったのよ」
「ギルド管理協会本拠地に呼ばれるのはとても名誉なことですけれど、アンジュ様が言うのならそれでいいと思います」
「そうでござるな、それにこの人数で商業もやっていてわりといっぱいいっぱいでござるからね」
ルーアとナイトが納得しているとアロマが呆れたように項垂れた。
「大物というかなんというか〜、リップヴァンウィンクルは本当規格外のギルドだよね〜。アロマ、初めて招集受けた時、喜んで行ったよ〜。というかアンジュは〜これ以上人を増やさないの〜?」
「いえ、面接に来る人もいるのだけれど、試験をするとみんな帰っちゃうのよね」
なぜかしらと我子が首を傾げているとアンダラーが引きつった顔を浮かべた。
「いやアンジュちゃん、面接でアンジュちゃんとナイト、ウルチルとルウちゃんと一緒になったら誰でも逃げ出すって。アンジュちゃんとウルチルは見てわかるほど派手に戦うだろう? そんでルウちゃんはちょっと近寄りがたい戦い方、そんで極めつけがナイトだ、一体誰が一緒にギルド活動したいって思うよ」
我子は首を傾げる。
「わかってないみたいだね〜、これだから脳筋ギルドは困っちゃうよ〜」
我子はルーアとナイトにそのことを尋ねてみるのだが、全員がピンとこないようであり、結局わからないままであった。
しかしふと、我子は外からの気配を察知し、思考を止める。
「あらお客さんね。内藤、出るわよ」
「承知」
御者に乗り物を停めるように我子は言うのだが、それを遮る声がアロマから放たれた。
「ストップ〜、停めるのも面倒だし〜ここはアロマたちがなんとかする〜」
「一応あんたたちの護衛なんだけれど」
「まあまあアンジュちゃん、ボスはここ最近研究ばかりで体がなまってんだ、こんな機会じゃなきゃ発散できないんだよ。それにこの羽音……外にいんのはワイバーンとかだろうよ。だからアンジュちゃんがやるよりボスのほうが手っ取り早いと思うぜ」
我子は思案顔を浮かべる。
どうにかできなくはないが、確かに飛んでいる相手ならばアロマの方が適任だろう。
「じゃあ任せるわ。ミスティックルナーのギルドマスター、それとギルドの一番槍の実力、見させてもらうわ」
頷いたアロマとアンダラーが戦闘の準備を始めると、我子はルーアに2人の戦いをよく見ておくように言う。
ルーアには自分やナイトたちのようなわかりやすい力がない。故にその分他のもので補わなければならず、都合がいい魔法具を使わせている。
ミスティックルナーは魔法具を作ることが専門ではあるが、それらを使った戦い方も熟知しており、彼女の勉強になるだろうと我子は判断したのだった。
「そんじゃあボス、適当に時間を稼いできます」
「うん〜お願いね〜」
すると強気な表情を浮かべたアンダラーが喉を鳴らして笑った。
そして彼は爽やかなキメ顔を浮かべて口を開いた。
「別に倒してしまっても構わないんすよね」
「おい内藤、あいつを止めろ死亡フラグ立てやがったぞ」
「死亡フラグでござるか?」
我子が肩をすくめているとアンダラーが乗り物扉を開け、そのまま動いているそれから飛び出した。
しかし次の瞬間、魔法具のブーツから蒸気が噴出され、彼が空を飛んだ。
「ミスティックルナーのアンダラー=デルド、神秘の花を咲かせる道となろう!」
槍を手に持ったアンダラーが、飛竜種と呼ばれるワイバーンの集団に突っ込んでいった。
そしてあちこちに飛び回り、ワイバーンを撹乱し時間を稼いでいるようだった。
そして我子はアロマに目を向けるのだが、彼女はタクトを手に、それを振りながら何事かを呟き、タクトの先端で宙に文字を書き始めていた。
「神秘の妖精ね。こうやって間近で戦う姿を見るのは初めてかしら」
アロマ=テンペスト、ゴールドランクの冒険者である彼女はミスティックルナーのギルドマスターとしても優れた力を持っているが、彼女がゴールドランク足らしめているのはギルドマスターとしての功績ではなく、ましてや魔法具を作り出せる才能ではない。
神秘の妖精、神秘の花園の主、そんな通り名を与えられている彼女が最も得意なことは魔法、あらゆる魔法を使いこなし、圧倒的な火力で他の追随を許さない。
「花よ花よ舞い踊れ、命の息吹を世界の唄に――『楽園を開く唄 (アリアスペル)』」
刹那、ワイバーンのいる一帯の地面から花びらを纏った竜巻が発生し、飛竜を飲み込んでいった。
そして飛竜が動きを止めているとすぐにアロマがタクトの振り方を変え、竜巻を縛るように棘の生えた蔓が発生し、中にいるワイバーンを串刺しにする。
そしてトドメと言わんばかりに彼女が大きくタクトを振り、指揮者が音楽の終わりを告げる合図を出すようにピタリと止めた瞬間、竜巻が巨大な球状になり、そのまま弾けて辺り一体に花びらを降らせたのだった。