冷蔵庫くらいあってしかるべきでしょう?
「どうしてアンダラー殿はそんなに死に急ぐでござるか?」
「わたくし、こういう時なんて言うか知ってます、空気読め。ですね?」
「そうでござるな、ルーア殿はこうなってはいけないでござるよ」
胸を張るルーアをナイトが撫でているのを横目に、我子は書類をアロマに手渡す。
「変わった形〜、これなに? 武器?」
「重量があれば大抵のものは鈍器になるわね。じゃなくて、これは冷蔵庫……食材とかを保存するものなんだけれど、作れる?」
「この書類を見る限り〜、冷気を延々と出し続けていなくちゃいけないっぽいんだけれど〜」
「まあそうなるわね、出来そう? 最近うちの店で生ものを扱いたいって声が出ているのよ。だからそのためにこれがほしくて」
先日、我子はふと水まんじゅうやプリン、パンナコッタといった喉越しの良いお菓子が食べたくなり、ルーアと一緒に作ったのだが、それをおやつとして出し、ギルド員と一緒に食べていると、四季風の通り道を任せているギルド員、フィリアム=ランドクローバーがこれを店で出したいと言った。
だが我子はあまり冷えていないお菓子の数々にボツを出し、自分たちで食べるぶんには構わないが、客に出すとなるともうひと手間ほしいとその提案を却下した。
すると、フィリアムが何度も解決案を提出してきたのだが、そのどれもが現実的ではなかったためにOKサインを出せないでいた。
だからこそ我子は手っ取り早く解決するために冷蔵庫を欲したのだがこの世界、文明を魔法ばかりに頼ってきたからか技術があまり発展しておらず、我子が住んでいた現代とは大分勝手が違う。
そのために現代の技術を見様見真似で文字に起こし、我子はミスティックルナーに頼りに来たというわけであった。
「……アンジュ〜? 魔法っていうのは魔法を使用する人間がいて初めて行使できるんだよ〜。永続的に使用し続けるのは難しいんだよ〜」
「だからミスティックルナーを頼っているんでしょう? 魔法具ならなんとかなるんじゃない?」
「そうやって無茶を言う〜、そもそも魔法具は一種の鍵なの〜。開けられない扉を開けるために必要なのであって不可能を可能にする万能の道具じゃないんだよ〜」
「じゃあ無理なの?」
我子の言葉にアロマがむっと顔を浮かべ、思案顔を浮かべた。
「魔法具の最高峰のギルドと自負してるから〜あんまり無理とは言いたくないけれど〜、永遠を司るとなると〜……」
「無理ならいいわ、別の手段でも探しましょうか」
「アロマでもできないことをアンジュにできるわけないでしょ〜」
「残念ね、ウチたちはあんたたちと違ってゴリ押しができる程度には恵まれているのよ」
あまり会いたくはないが、神様に頼んでみるのも手だろうかと我子が考えていると、ため息をついたアロマが黒焦げになっているアンダラーを指差し、依頼をしたいと言うのだった。
「珍しいわね? 自給自足があんたたちのモットーじゃなかった?」
「そんなに言うんならそのゴリ押し〜、見せてもらおうかと思って〜。依頼の内容はアロマとアンダラーの護衛〜」
ゴールドランクの冒険者に護衛などいるのかと我子は呆れるのだが、どこか興味津々な風のアロマに根負けし、その依頼を受けることを約束した。
「内藤、あんたも来るでしょう?」
「ええ、アンジュ殿が行くのなら拙者も行くでござるよ」
すると目を妖しく光らせたアロマが自身のギルド員に声を掛け、何かを持ってくるように指示を出していた。
「……一応言っておくけれど、ナイトはあんたの魔法具の実験台ではないわよ」
「わかってるわかってる〜、ただどんな時でも事故は付き物だよね〜」
我子とナイトは互いに顔を見合わせ、どうにも意気揚々と楽しげにしているアロマにげんなりするのだった。