甘く蕩ける可憐なキャンディ。
「いくらなんでも不可抗力でしょう!」
大声を上げて跳ね起きた我子は呼吸を荒げてて辺りを見渡した。
するとそこは見慣れた光景で、普段使っているベットに、横の小さなテーブルには馴染み深い酒瓶、そして驚いた顔で我子の顔を覗き込んでいた浴衣姿でサイドポニーの黒髪の小さな少女。
「ああ、ルーアおはよう。驚かせてしまったかしら?」
「アンジュ様、おはようございます。夢見が悪かったんですかぁ?」
そう言ってひしとくっついてくる少女、ルーア=ミスティアを我子は撫で、大丈夫だと伝える。
「今日も起こしに来てくれてありがとうね」
「それがわたくしの役割ですから。あ、アンジュ様アンジュ様、ルーアそれよりも気になることがあります。その、そのえっと、そちらのそれはその……」
ぴょんぴょこしながら我子の枕元を指さしていたルーアだったが、我子にはなんのことかわからず、彼女の視線を追う。
するとそこには麻袋があり、我子は夢じゃなかったのかと肩を落とした。
「あ、あのあの、アンジュ様、それはそのぅ、まさかそれはですね――」
「もう、そんなにはしゃがないの。これはルーアが頑張ったご褒美なんだから胸を張って受け取りなさい」
パッと咲いたような笑顔を浮かべたルーアがベットによじ登り、麻袋を引っ張った。
この麻袋は先ほどの我子の夢らしきものの中で、神様らしいおじさんに渡された麻袋。
それは普段一日一度我子がルーアの持つスタンプ帳にハンコを押すことができるのだが、それがある程度貯まったために、彼女がスタンプの特典がほしいと言ったために渡された物。
しかしまさか夢の中で出てくるとは思っていなかった我子は、あの空気を毎回感じなければならないのかと頭を抱える。
我子は頭をすぐに切り替えるとルーアがもらった麻袋の中に目を落とす。
「ってこれは」
麻袋の中には大量のいちごミルクのキャンディが入っており、我子とルーアが初めて出会った時に我子が彼女に与えたものだった。
「……もっと良いものをねだっても良かったでしょうに」
「いいえ、ルーアはこれが欲しかったです。アンジュ様から貰った初めてのプレゼント。とっても美味しかったです」
「そう」
我子はルーアを抱き寄せるとそのまま膝に乗せ、彼女が首から下げているスタンプ帳にハンコを押す。
「ルーア、なにかしたですか?」
「ウチを喜ばせてくれたわ。さっきまで微妙に気分が優れなかったけれど、ルーアのおかげで元気になれたわ」
その言葉にルーアが嬉しそうに顔を胸に埋めてくるために、我子はそれを優しく受け止め、今日はこのまま動かなくても良いかもしれないと思うのだが、ふと扉の先から放たれる気配に気が付き、わざとらしく肩を竦める。
「そろそろウチたちのお姑様がしびれを切らすわよ。そろそろ起きましょうか」
「はいです、アンジュ様」
引っ付いたまま離れないルーアを抱き上げ、我子はリビングへと足を進ませるのだった。